赤木国香 会員限定記事
北海道新聞2024年12月22日 14:00
がんで余命宣告されながらも精力的に演劇制作に取り組んでいる「札幌座」の俳優、演出家、脚本家の斎藤歩さん(60)が12月1日、十勝管内の幕別町百年記念ホールで、自身の集大成とも言える舞台に挑みました。相棒は、小樽市出身でチェコ在住の人形劇師、沢則行さん(63)。昨年末、北海道を代表する2人の初共演で話題となった演劇「カフカ経由 シスカ行き」の、一度きりの再演でした。観客から「伝説を目撃しているよう」との声も上がった公演の様子の一部を紹介します。
「カフカ経由 シスカ行き」のクライマックスで登場する「空飛ぶトナカイ」。頭部は沢則行さん(手前)が、後ろは斎藤歩さんが抱えた=12月1日、十勝管内幕別町百年記念ホール(高橋克己撮影)
11月28日、札幌市中央区にある「シアターZOO」の稽古場に斎藤さんと沢さんがいた。沢さんは数日前にチェコから帰国したばかり。欧米だけでなく台湾などでも活躍する沢さんだけに、スケジュールはタイトだ。初演時のセリフを確認しながら稽古を進める。
「カフカ経由 シスカ行き」は、「物語」をなくした俳優(斎藤さん)が人形劇師(沢さん)と、稚内市抜海の海辺で語り合う―という内容で、演劇と人形劇を融合させた作品。斎藤さんが作・演出・音楽を、沢さんが人形デザインを担当し、昨年12月に札幌のシアターZOOで初演した。
礼文島の香深(かふか)に残るアイヌ民族の物語やサハリンのポロナイスク(敷香=しすか=)のウイルタ民族の伝説などを、人形劇の手法を駆使して鮮やかに描き出す。一方でウクライナなど戦争が続く現在を鋭く批判。軽妙な笑いの中にゴロリとした社会批判を込める斎藤さんらしい舞台で、初演時は全8ステージ完売に。
幕別町のホールを運営するNPO法人まくべつ町民芸術劇場は評判を聞き、「十勝の演劇ファンにも見てもらいたい」と依頼し、再演が実現した。
沢さんによると、再演が決まったのは今年の春ごろ。当時斎藤さんと「再演のころには(ウクライナやパレスチナ自治区ガザの)どっちかの戦争は終わっていて、脚本は書き換えだ」と話していたという。だが、国際情勢は改善せず、沢さんは「そのまま上演できちゃうね。(この状況が)無残だよね」と複雑な表情を見せた。
一方、斎藤さんは稽古中、頭の汗を手拭いで何度もぬぐっていた。2021年から尿路上皮がんと闘っている斎藤さんだが、今秋から体調がさらに悪化。腹部などに激痛があり、医療用のモルヒネを服用している。その影響で汗が出るのだという。
とは言え、・・・・・・