先住民族関連ニュース

先住民族関連のニュース

精神障害、家族の20年追う ドキュメンタリー映画「どうすればよかったか?」藤野監督と札学院大・二通氏対談

2024-12-07 | アイヌ民族関連

斉藤高広 会員限定記事

北海道新聞2024年12月6日 10:57

先行上映後、二通諭・札幌学院大名誉教授(右)と対談し、制作の意図を語る藤野知明監督

 札幌在住の映画監督藤野知明(58)が、統合失調症とみられる症状が現れた姉と、父母の対応を20年にわたり丹念に記録したドキュメンタリー映画「どうすればよかったか?」が14日、シアターキノで公開される。キノで11月27日に行われた先行上映で、藤野監督と札幌学院大の二通諭名誉教授(特別支援教育)が対談し、制作の動機や狙いを語り合った。

■姉の受診避けた両親/疑問感じ自ら撮影

 二通 家族のネガティブな状態を描いたセルフドキュメンタリーを作った原動力は。

 藤野 高校の時に姉の状態が変化して、両親の対応に納得がいかなくて、謎がいっぱいでした。自分が大学を卒業して本州への就職を決めたので、家の中が両親と姉だけになってしまい、記録が何も残らなくなる。会社を辞めて、映画学校を卒業し、2001年から撮影を始めました。とにかく記録に残したかった。将来、精神科の先生に診てもらうことになっても、今始まったことではなく、昔からあったと説明する際の記録になればと。2008年に姉が入院して、(治療の効果で)だいぶ話せるようになってから、人に伝えてもいいかなと思いました。

 二通 これまでに制作したアイヌの人々の先住権を深掘りしたドキュメンタリーと、全く関連性がないとは言えないと思います。

 藤野 (自分が)高校、大学の頃、姉の状況を両親がきちんとくみ取らず、学校に行くのも大変でした。夜中大きな声を出す姉が寝るまで起きていたのでいつも睡眠不足。成績が下がり、先生から「どうした」と聞かれ事情を説明すると、「姉さんが精神病なら、おまえもか」と言われたのがショックで。高校、大学の10年くらいは人に相談できず一番つらい時期でした。アイヌの方たちは何かを伝えたいと話してくれるのですが、同時に、どうせ聞いてもらえないだろうという気持ちもある。うちの家族よりもはるかに長い時間、もっと大変な人権侵害を受けてきた歴史を考えると、複雑な心境です。

 二通 監督が望む解決に至らなかったのは、ご両親が障壁になっていた?

 藤野 合理的な判断をする研究者で尊敬する両親がまさか姉を医療から遠ざける選択をしたのは、やはり理解できなかった。医者ではない僕が見ても、やはり姉の行動を「何でもない」とは思えなかった。最後の場面で父に三つ質問しました。「(症状が出始めた)1983年当時は成果の上がる治療法がなかったのか」「入院患者への虐待が心配だったのか」には、いずれも「そうではない」と答え、「病気を恥じたのか」との問いには「ママがそうだった」と。(両親が自宅でやっていた)研究でも父の方が主導権を持ち、母も父の壁を越えられないという言い方をしていたので、父が決めたと思う。最初の入院の時にすぐ退院させたのも父でしたし。

・・・・・・・

 <略歴>ふじの・ともあき 1966年、札幌生まれ、北大農学部を7年かけて卒業。横浜の住宅メーカーに2年勤務した後、2012年、札幌に戻り、13年に「動画工房ぞうしま」を設立。主にマイノリティーに対する人権侵害をテーマに映像を制作している。主な作品は「八十五年ぶりの帰還 アイヌ遺骨 杵臼コタンへ」(17年)、「カムイチェプ サケ漁と先住権」(20年)ほか。

 ※「カムイチェプ」の「プ」は小さい字

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1097387/


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北の妖怪展 10日から開催

2024-12-07 | アイヌ民族関連

石田美穂子 会員限定記事

北海道新聞2024年12月6日 10:35

21年の様子。薄暗い会場を作品を照らしながら歩く来場者

【中央区】古今東西、さまざまな妖怪をモチーフとした作品を楽しめるグループ展「北の妖怪展」が、10日から6日間、ギャラリー大通美術館(札幌市中央区大通西5)で開催されます。札幌市内を中心に、道内外から集まった32人のアーティストによるイラストや日本画、立体造形など60作品以上が並びます。

 今年で9回目。2022年からの2年間はコロナ下で休んだため、3年ぶりの開催です。妖怪やお化けといえば「夏」を連想しがちですが、代表の猫宮麿(ねこみやまろ)さん(江別市)はこの時季の開催について「皆さんがよく知る雪女のほか、つらら女などもいますし、妖怪は季節を問いません」と話します。

 展示会では道内の妖怪伝説も紹介。猫宮さんがこれまで独自に調べてきた、さまざまな伝説をマップに記した「北海道怪異妖怪図」を展示します。「あまり縁がないと思われがちですが、北海道は、アイヌ文化をはじめとする特有の妖怪や、開拓民が道外から運んできた妖怪が混在するおもしろい土地。それを多くの人に知ってもらい、関心を深めてほしいですね」

 幼い頃から、不思議な話や妖怪に興味を持っていたという猫宮さん。・・・・

・・・・

 15日まで。午前10時~午後7時(最終日午後5時まで)。入場無料。問い合わせは、メールunei.kitanoyoukaiten@gmail.comへ。

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1097371


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[フォトレポート]むかわ町永安寺の 柳葉魚(ししゃも)観音菩薩像

2024-12-07 | アイヌ民族関連

かわたびほっかいどう2024.12.06

シシャモ資源の回復を願って、むかわ町永安寺に柳葉魚(ししゃも)観音菩薩像が建てられたことを報道で知ったので現地へ行ってきました。(写真撮影と公開については永安寺さんの許可をいただいています。)

境内を進んで行くと真新しい観音像が目に入りました。観音様の右手にはフクロウ、左手にはシシャモがいっぱい入ったカゴを持っています。少し重そうです。
永安寺の資料によると、魚藍(ぎょらん)という魚を入れるカゴを持った「魚介豊漁」などに御利益のある魚藍観音菩薩がモデルとのことです。

では、右手に乗ったフクロウは?
それは、アイヌ民族のシシャモ伝説に関係がありました。鵡川漁業協同組合のホームページによると、昔アイヌの人たちが飢えに苦しんでいるときに、カンナカムイの呼びかけでフクロウの女神が柳の枝を杖にして魂を背負って駆けつけ、神々がその柳の葉に命を与えシシヤモとして鵡川に流したことで人々は飢えから救われたということです。柳葉魚観音像の背後には柳の木が植樹されていました。
仏教の教えとアイヌ民族に伝わる伝説が具現化された観音様なのですね。

観音像を見たあと、参道をはさんで反対側にある「八王子千人同心移住隊士市川彦太夫墓石」にお参りしました。なぜ永安寺にこの墓石があるのか?ふと思ったこのときに時の扉を押してしまいました。いつかこの続きを・・・

https://kawatabi-hokkaido.com/2024/12/06/30214/


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土地につながる 作家・佐々木譲

2024-12-07 | アイヌ民族関連

日本経済新聞 2024年12月6日 14:00 [会員限定記事]

仕事場のある土地で「えぞ鹿」をキーワードにしたイベントがあった。『えぞ鹿フェスティバル』だ。今年で5回目。

一時期は害獣としての印象のほうが強かったえぞ鹿だが、当地北海道東部では、伝わってきた食文化の中心にあるもののひとつがえぞ鹿だ(もう一方にサケがある)。アイヌのひとたちの食文化に、この地方に入植した和人たちが同化した、とも言えるのだ。鹿はそのことの象徴だ。

最近はようやく全国的にも、鹿肉を積...

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

残り419文字

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD263RR0W4A121C2000000/


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《ブラジル》アマゾンに埋もれる大自然と古代都市=先住民族1千万人が土壌改良した大地=アンデス山脈の「空飛ぶ川」とは   毛利律子

2024-12-07 | 先住民族関連

ブラジル日報 12/6(金) 6:38

『ナショナルジオグラフィック』アマゾン特集

『ナショナルジオグラフィック まるごと一冊アマゾン』表紙

 『ナショナルジオグラフィック』2024年10月号に、サンパウロ大学の考古学者、エドゥアルド・ネヴェス(Eduardo Neves)教授他、ペルーの生物学者、ルースメリー・ビルコ・ワルカヤ(Ruthmery Pilico Hurcaya)、ジョアン・カンポス・シルバ(Joan Campos-Silva)、アンジェロ・ベルナルジーノ(Angelo Bernardino)といった科学者に加えて、フォトジャーナリストのトマス・ベシャック氏による美しい写真の数々が彩ったアマゾン熱帯雨林一帯の最新技術を駆使した研究の成果が掲載された。

 文章の説得力は言うまでもないが、写真の力は一目瞭然である。カメラマン、トマス・ベシャック氏がこのプロジェクトに参加するにあたり、アマゾン探索前に読んだ本と科学論文は1931通。探索中に撮影した写真の数は、49万64枚、「こんにちは」といえるようになった言語の数は6言語。取材現場で過ごした日数は396日。アマゾン探査に持っていった装備の重量は540キロだった。

 このプロジェクトは、科学者、研究者、集落の人々、伝説の語り部など、多くの人々を巻き込み、最新技術による精緻な調査であり、その結果を紹介している。

 1500年にヨーロッパ人に発見されて以来、500年もの間、誤解され続けてきたアマゾニアが、研究者の地道でひたむきな調査と、最新の科学技術を駆使した研究によって従来の見方が大きな変化を遂げていると紹介されている。

 ネイサン・ランプ英語版編集長は巻頭言で、「『アマゾニア』と一般的に呼ばれる、アマゾン川とその支流を中心とする水域と陸域は、他に類を見ない場所だ。…そして、何千年にもわたって発展した、知識と創造性に富む文化景観である。私たちの惑星は、アマゾニアがなければ、今と違う形になっていたであろう」と述べている。

 筆者はブラジルに十数年住んでいるが、アマゾンを訪れたこともなければ、環境問題関連での記事に触れる程度の知識しかなかった。それ故「アマゾニアの物語を伝えようと奮闘する人々」からの熱意と、これまでの常識を覆す情報に接し、世界最大の熱帯雨林に強く魅せられたのである。

 本誌は読み進むにつれ、「知らなかった。知ってよかった。アマゾンとはこんなに凄かったのか」と、改めてアマゾンを知る喜びの感動に突き上げられた。

 本誌には濃密な最新情報が満載であるが、すべてを紹介することはできないので、エドゥアルド・ネヴェス教授の投稿記事と、いくつかの最新情報に絞って紹介し、新たな学びを得たいと思う次第である。

アマゾンという名前の由来

 16世紀、スペインの探検隊隊長フランシスコ・デ・オレリャーナ一行はアンデス山脈の麓から7カ月をかけていくつもの支流を下り、誰も見たことのない大河に出た。この探検に同行していたイエズス会士ガスパル・デ・カルバハルは詳細な航海日誌をつけていた。それはヨーロッパ人による初めての探検記であった。

 1542年6月24日、探検隊は女性戦士が率いる軍勢に襲われた。脇腹を矢で打たれたカルバハルは、この女性をギリシャ神話に出てくる女性だけの戦闘集団アマゾネスの戦士に喩え、スペイン当局に報告した。しかし当局はそれを単なる絵空事と見なして取り合わず、彼の的はずれな譬喩にも関わらず、この名称が定着した。

衛星画像から見たアマゾンの肖像

 アマゾニア一帯はアメリカ合衆国本土と同じ縮尺の広さで、南米大陸の北半分を緑のマントで覆ったように広がっている。緑のマントは3340億本の木々で織りなす風景で、6200本を超す川や支流が迷路を作る。ここは、巨大な炭素貯留場であり、地球上の全生物種の10%が存在する生物多様性の宝庫で、4万種の種子植物、2400種の魚類、1300種の鳥類、1500種のチョウを育んでいる。

人間の集落形成はいつ頃から

 アマゾン盆地には遅くとも1万3千年ごろから人間がいたことが明らかになっている。その証は、コロンビアのチリビケテ国立公園の、有史以来のアマゾンの光景を描いた7万5千点を超す岩絵の発見である。この地域の人口は、コロンブスの新大陸発見時の1492年までに1千万人が住んでいたと推定されている。

 それでは「緑の地獄、密林に人は住めない」―このイメージは何処から生まれたか。

 これほどの人口がオレリャーナ探検隊の後、数百年間の間にヨーロッパ人がもたらした天然痘によって9割以上が死亡した。生き残った人は奴隷にされるのを恐れて、奥地に逃れた。18世紀にヨーロッパの植物学者が初めて調査に入ったときには、密林に覆われ、人の姿を見ることは無く、学者たちは、以前からこのような状態であったであろうと判断した。

 人工の大きな塚は、自然の地形と見なされていた。この地域に驚くほどの大きな言語があったことも、大陸から何波にもわたって人々が流入した証拠である、とされていた。

 19世紀末、天然ゴム採取ブームが頂点に達した時、先住民への暴力が吹き荒れた。人類学者たちは、彼らは狩猟採集民の末裔で、小規模な集団という先入観を持っていた。1980年代、2人の米国人人類学者が、アマゾン東部の先住民、カヤポ族とカアポル族が、自分たちの必要に応じて、自然を改変していることを知った。先住民は定住民だったのである。

 その後40年、研究者たちは強固な証拠を積み重ね、アマゾンの木々の半分が、わずか299種の樹木で占められていることを発見した。「超優占種」である。

 これらの樹木はアサイー、ゴム、カカオなど、とりわけ人間に役立つ種であった。これらは先コロンブス期の遺跡近くに多数生息していた傾向がある。この事実は、先住民が昔からアマゾンの森に手を入れてきたことを示唆している。

「黒い土(テラ・プレッタ)」の土壌改良

 初期の先住民は「黒い土(テラ・プレッタ)」の土壌を改良して作物を育てていたことが分かった。黒い土は、炭と有機物のほか、陶器のカケラも混ぜた土で、作物が良く育つばかりか、肥料をほとんど施すことなく、何百年も肥沃な状態に保たれる。

 「黒い土(テラ・プレッタ)」は、アマゾン全域で見られ、中には5千年も前に作られたと思われる土もあった。

レーザー光線を使って先史社会を知る

 16世紀、ヨーロッパ人を驚かせたアマゾン都市は実在していたのか。

 それが、レーザー光を使ったスキャン技術「LiDAR(ライダー)」の登場で、分厚い林冠の下に隠れた古い社会の痕跡を見つけ出すことが可能になった、というのである。

 2019年、ネヴェス教授がボリビアで研究中に仲間の研究者がこの技術を使って、西暦500年から約1400年までに続いたカサラベ文化の複雑な都市遺跡の地図を作成した。

 それは、いくつもの集落が何キロにも及ぶ土手道で結ばれ、遺跡内には運河や貯水池、土で築いたピラミッドがあった。ライダーによる調査によって、アマゾン全域にはこのほかにも大規模で複雑な遺跡が約1千カ所もあることが分かった。それにより、アマゾンの歴史は大きく書き換えられ、今ではアマゾンにも多くの文化が栄えていたことが分かった。

 ネヴェス教授の現在の取り組みは、先住民の共同体と連携して森の伐採の脅威にさらされている森林の付近から遺跡を見つけることである。もし見つかれば、ブラジル政府に保全策の厳格化を要請できるからである、と教授は述べている。

先住民は智慧の宝庫

 ネヴェス教授によると、研究を始めた1986年以降、主に違法伐採によってアマゾンの森の12%が破壊された。背景には多くの国々で違法な金鉱採掘がはびこり、犯罪組織は麻薬の密売で稼いだ資金を洗浄するために、アマゾン破壊の違法活動を活発化させていた。

 このような状況に研究者は研究の希望を失いかけた。しかし一条の光を見出した。それは、先住民の歴史を再訪することだった。彼らは、複雑な自然のシステムを何千年も前から管理し、形作ってきた。その知恵から学ぶこと。それには過去の歴史を知ること。これは先住民が私たちに与えてくれる教訓だ、と。

 現在、南米出身の11人を含めた16人の研究者が地元住民の協力を得て、アンデス山脈から大西洋までの調査地で様々な分野の調査を進めている。

アンデス山脈から大西洋の海原へ

 以上がネヴェス教授の報告であるが、まだまだ他に重要なことを学んだ。それはアマゾニアの「水の営み」である。テーマ別に10項目で構成された内容の底に一貫して流れる「水」に生かされた命の話、その循環する自然の営みは驚きの連続で、読み進むにつれ、読後に深い畏怖の念を覚えるのである。

 アンデス山脈では夜明けとともに急峻な尾根に沿って雲が流れるが、それを「空飛ぶ川」と呼ぶ。この雲が運ぶ水蒸気は山々の土壌に染み込み、地上に湧き出て小さな流れを作り、やがては大地を何千キロも流れる大河となって、海にそそぐ。(「空飛ぶ川(rios voadoresリオス・ボラドレス)」の解説はルースメリー・ビルコ・ワルカヤ研究員)

 アンデス山脈の山岳地帯にある源流から支流へと、様々な地形を流れていくうちに、水は堆積物や化学物質を取り込んで外観や性質を変えていく。アマゾン川の河口から大西洋に1秒間に流れ出す水の量は22万立方メートル余り。これはオリンピックの競泳用プールの88杯分である。たった1秒間の水量である。

アマゾンのカワイルカの危機は、同時に人間の危機となる

 アマゾンの支流ネグロ川は腐敗した植物を含むため、川の水は黒く、酸性で栄養に乏しい。ベシャック氏は、ネグロ川の氾濫で浸水した森林を、アマゾンカワイルカ(英語ではピンク・リバー・ドルフィン、スペイン語ではボト、ブフェオと呼ぶ)が泳ぐ姿を撮影している。淡水生のイルカはアジア以外ではアマゾンカワイルカと、小型で灰色のコビトイルカのみである。

 ネグロ川の色はタンニンによって赤黒い。そこに生息するアマゾンカワイルカは50数種もの魚類を食べる。長い口吻に生えたかたい毛を触覚センサーにして泥の中を探り、亀や、カニ、エビを捕食すると考えられている。長いくちばし(と言って良いかどうか)、このアマゾンカワイルカは、小さな背びれ、長い口吻、しなやかで大きな胸びれを使い雨季に浸水した森林の中を泳ぐ。

 海洋生物学者のフェルナンド・トルヒーリョによると、イルカは「木々の間を飛ぶように泳ぎ、魚を追う」という。人間に姿を変える精霊とも、川で漁をする漁師にとっては厄介者とも考えられているが、世界最大の淡水生のイルカである。

 ルベルト・アウアナレ・レオンによる「アマゾンカワイルカと女性、その間に生まれた半身」では、イルカと人間の女性、そしてイルカの赤ちゃんを彫刻にした「家族の肖像」という作品がある。魔力を持つイルカが人間に姿を変えた時の結末を表現しているというのだ。

 2023年9月から11月にかけて、アマゾン川流域では水温が37度を超え、少なくとも330頭のカワイルカが死んだ。これは、そこに住む4700万人の人々にとって不吉な前触れとなった。汚染、乱獲、干ばつ、水温上昇などである。イルカが直面する問題は、人間にとっても脅威となるのである。

 以上のように、アマゾニア特別号から抜粋して紹介した。ここから学んだことは「ブラジルは何という宝を懐に有している国であるか」だ。ブラジルはそのことに覚醒し、人類はそれを決死で守らなければならない。

 「私たちにはアマゾニアが必要である。これなくして命は繋げないこと」(ネイサン・ランプ編集長)という言葉を、ブラジル国も世界も今一度真摯に考えなければならないのではないか。

【参考文献】日本版『ナショナルジオグラフィック まるごと一冊アマゾン』2024年10月号

https://news.yahoo.co.jp/articles/a4f1bbecc889095e604d627d77181e713c82b228?page=1


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カナダ 深地層処分場サイトが決定

2024-12-07 | 先住民族関連

原子力産業新聞 06 Dec 2024 桜井久子

カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は11月28日、同国の使用済み燃料を処分する深地層処分場の建設地をオンタリオ州北西部のワビグーン・レイク・オジブウェイ・ネーション(WLON)–イグナス地域に決定したと発表した。

カナダでは、原子力発電所の使用済み燃料を再処理せずに深地層処分する方針であり、2002年に設立された NWMOが、カナダの中・高レベル放射性廃棄物の安全かつ長期的管理を任務とし、2010年から使用済み燃料の深地層処分場のサイト選定プロセスを開始した。

当初、22自治体が処分場の受け入れに関心を表明し、NWMOは集中的な技術研究を重ね、これら自治体の他、候補地がその領土内に位置する先住民族との関与を深め、徐々に候補地を絞っていった。2020年までに、オンタリオ州北西部のワビグーン・レイク・オジブウェイ・ネーション(WLON)–イグナス地域と、同州南西部のソーギン・オジブウェイ・ネーション(SON)–サウスブルース地域の2地点が候補地に残った。NWMOは今年11月中旬、先住民族であるWLONがイグナス地域の西およそ48kmのレヴェル湖エリアに処分場の誘致意思を示したと発表。イグナスの議会は今年7月、住民投票の結果、処分場の誘致に前向きであることを決定していた。一方、サウスブルース自治体は今年10月、住民投票の結果、僅差で処分場誘致を支持したが、SONは2025年まで決定を下さないとしていた。

サイト決定を発表したNWMOのL. スワミCEOは、「本プロジェクトはカナダの環境問題を解決し、気候目標を支援するもの。カナダ人と先住民が主導し、同意に基づく立地プロセスで推進された。これが歴史を作るということだ」とその意義を強調した。

カナダのJ. ウィルキンソン・エネルギー・天然資源相は、「WLON–イグナスの各コミュニティとサイト選定プロセスに関わった、多くのコミュニティのリーダーシップと積極的な関与に深く感謝し、NWMOの長年にわたる努力を称賛する」と述べた。オンタリオ州のS. レッチェ・エネルギー・電化相は、「オンタリオ州は、原子力のライフサイクルのあらゆる分野で世界のリーダーとしての地位を固めつつある。NWMOによるこの成果は、その最新の例だ」とサイト決定を称えた。

サイト決定を受け、今後は規制評価段階に入る。処分場の建設には、カナダ原子力安全委員会(CNSC)による建設許可とカナダ環境影響評価庁(IAAC)による環境影響評価が必要。CNSCはNWMOに規制上のガイダンスを提供するとともに、地層処分場のコンセプトに関するプロジェクト前の設計レビューを実施したという。NWMOはまた、先住民も参加した規制の評価と承認プロセスにも同意しており、このプロセスはWLONによって開発・実施される。NWMOは処分場の建設許可が2033年までに発給されると見込む。その後の建設期間を経て、2040~2045年に操業を開始したい考えだ。サイトとなるレヴェル湖エリアの結晶質岩層の特性にもよるが、処分場は地下約500m、面積約6㎢に建設される予定であるという。

https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/25896.html


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絶滅危機の「ウミガメ」を食べて集団食中毒が発生…3人死亡、30人超が入院する事態に

2024-12-07 | 先住民族関連

 

江南タイムズ 12/6(金) 太恵須三郷 

フィリピンで絶滅危惧種のウミガメを食べた先住民が集団で食中毒を起こし、3人が死亡、数十人が入院する事態が発生した。

12月3日(現地時間)、BBCによると、フィリピン南部ミンダナオ島マギンダナオ・デル・ノルテ州の海辺の漁村で、先月30日、住民たちがウミガメを食べた後、集団で食中毒の症状を訴えた。

食べたのはフィリピンの伝統料理「アドボ」に調理されたウミガメだったという。先住民族「テドゥライ」部族の住民たちは、漁師が捕まえたウミガメを酢や醤油で味付けし、野菜と一緒に煮込んだ。

その後、腹痛や嘔吐などの症状が出た住民たちは近くの病院に運ばれたが、そのうち3人が死亡し、少なくとも32人が治療を受けているという。当局は住民から押収したウミガメの甲羅や残骸を基に、原因を調査している。

ウミガメは国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定されており、多くの国で捕獲や食用が禁じられている。フィリピンでも環境保護法によりウミガメの捕獲や食用は禁止されているが、一部地域では伝統料理として今も食べられている。

しかし、ウミガメは「ケロニトキシズム(Chelonitoxism)」と呼ばれる食中毒を引き起こす可能性があることで知られている。今年3月にはタンザニアのザンジバル自治領ペンバ島でもウミガメの肉を食べた住民9人が死亡し、78人が入院した事例がある。

https://www.msn.com/ja-jp/health/other/絶滅危機の-ウミガメ-を食べて集団食中毒が発生-3人死亡-30人超が入院する事態に/ar-AA1vnefj?apiversion=v2&noservercache=1&domshim=1&renderwebcomponents=1&wcseo=1&batchservertelemetry=1&noservertelemetry=1


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気候正義、先住民族の権利、入植者植民地主義の考え方 |テレビ番組

2024-12-07 | 先住民族関連

Njpw Fun 12月 6, 2024 から 翼大代 - 

マーク・ラモント・ヒルが活動家ニック・エステスと先住民の権利と気候正義の必要性について語る。

世界中で、先住民族は急速にエスカレートする気候危機の壊滅的な影響と格闘しているにもかかわらず、環境に関する意思決定からは後回しにされたままです。

では、最も影響を受ける人々が会話に参加していない場合、どのようにして有意義な変化が起こるのでしょうか?そして、米国における先住民族に対する大量虐殺の歴史は、世界中の先住民族の苦境とどのように似ているのでしょうか?

今週は アップフロントマーク・ラモント・ヒルが、レッド・ネーションの共同創設者であり、『Our History is the Future』の著者であるニック・エステスと対談します。

https://www.njpwfun.com/ニュース/31716/気候正義、先住民族の権利、入植者植民地主義の/


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眞子さま佳子さまが仲良く鑑賞した『アナ雪2』 日本に「女性天皇」が誕生しないのはなぜ?

2024-12-07 | 先住民族関連

日刊サイゾー 2024/12/06 12:00 文=映画ゾンビ・バブ

 プリンセス姉妹の葛藤と冒険を描いたディズニーアニメ『アナと雪の女王』(2014年)は世界的な大ヒットとなり、続編『アナと雪の女王2』(2019年)も興行的な成功を収めました。日本での興収は『アナ雪』が254.7億円、『アナ雪2』が133.6億円を記録しています。

 先週放映された『アナ雪』に続き、神田沙也加さんがアナ王女役で日本語吹き替え版を演じた『アナ雪2』が、12月6日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で本編ノーカット放映されます。

 日本での劇場公開時には、秋篠宮家の眞子さまと佳子さまが仲良くチャリティー上映会に出席されたこともニュースになりました。そんな『アナ雪2』にまつわる話題を振り返ります。

神田沙也加さんの切々とした歌声

 前作から3年後。「アレンデール王国」の王女として生まれたエルサとアナの姉妹は、距離を置いていた時期もありましたが、今ではすっかり仲直り。姉のエルサは、なんでも凍らせてしまう魔法の力を制御できるようになり、アレンデール王国の女王として平穏に国を治めていました。

 そんな折、エルサは自分を誘う不思議な歌声を聞くようになります。時を同じくして、アレンデール国を次々と災害が襲うのでした。不思議な歌声の正体を確かめるため、エルサは冒険の旅へと向かいます。今回は、妹のアナ、雪だるまのオラフ、山男のクリストフとその相棒・トナカイのスヴェンも一緒です。

 神田沙也加さんが切々と歌い上げる「ずっとかわらないもの」「わたしにできること」など、感動的な曲がヒロインたちの冒険を彩っています。

北欧の先住民族に伝わる精霊信仰

 前作『アナ雪』は他の人とは異なる個性を持つことに悩む長女のエルサが、実家(王室)を飛び出し、精神的に解放されていく物語でした。長男や長女として生まれ、実家に縛られることを苦痛に感じている人たちにとっては、とても身近な問題を描いた作品でした。きょうだい間の軋轢を抱えている人たちにとっても、共感を覚える内容だったようです。

 続編は自分の個性を受け入れたエルサが、両親や祖父にまつわる秘密を知り、自身のアイデンティティーを確立するという、よりディープな物語となっていきます。

 北欧に言い伝えられる妖精トロールが前作に続いて登場しますが、今回は北欧の先住民族である「サーミ人」がフィーチャーされています。サーミ人は差別され、迫害されてきた歴史がありますが、古くから伝わるサーミ人の精霊信仰が『アナ雪2』の大きなモチーフとなっています。

 文化の多様性を積極的に取り上げるようになった、近年のディズニーアニメらしい物語だと言えそうです。大地の精霊・アースジャイアントが、東映アニメ『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年)に登場する岩男・モーグっぽいビジュアルになっており、日本のアニメからの影響も感じさせます。

国連が改正を求めてきた皇室の伝統

 当時はまだ皇族だった眞子さまが、妹の佳子さまと一緒に『アナ雪2』を鑑賞したのは、2019年の12月でした。眞子さまが結婚してNYへと去った今では、ずいぶん昔のことのように感じられます。日本の皇室は、今世紀に入ってからずっと後継問題で揺れ動いています。女性天皇、女系天皇を認めるかどうかで、容認派と反対派とで意見が相容れない状態が続いています。

 現在の天皇にはひとり娘の愛子さまがいるわけですが、皇位継承権は弟の秋篠宮皇嗣殿下、次いで秋篠宮家の長男・悠仁さまとなっています。女性である愛子さまには皇位継承権は認められていません。これは皇室に関する法律「皇室典範」で「皇統に属する男系の男子」のみに皇位継承権があると定められているからです。国連の女性差別撤廃委員会が「男女平等な皇位継承を」と勧告してきたことでも注目を集めました。

 女性天皇は、飛鳥時代の推古天皇をはじめ、日本の歴史上これまで8人誕生しています。女性天皇を認めない人たちは、女性天皇は女系天皇につながり、皇室の歴史を変えてしまうことを懸念しているようです。女系天皇を認めると、神武天皇から男子に脈々と受け継がれる「Y染色体」が途絶えてしまうというのが大きな反対理由となっています。

「一夫一妻制」で皇室を続けるのは困難?

 ジャーナリスト・評論家の故・立花隆氏は2006年に刊行した著書『滅びゆく国家 日本はどこへ向かうのか』(日経BP社)の中で、興味深い考察をしています。

 長い長い歴史を持つ皇室ですが、実は嫡出子より、庶子(正室ではない女性から生まれた子)のほうがずっと多いそうです。明治天皇は9人の側室を持ち、生まれた男子は1人だけでした。その男子が大正天皇になったわけです。明治天皇も父・孝明天皇の側室の子どもでした。

 昭和、平成、令和と3代にわたって皇后との間に生まれた第一皇男子が皇位に就いていますが、皇室の歴史から見ると逆に珍しいケースのようです。戦後からは皇室も「一夫一妻制」となっており、男系の血統を今後も守っていくのは生物学的にかなり難しいと予測されています。

 男系維持論者たちは「男系の天皇たちは、神武天皇と同一のY染色体を伝えてきた」ことに「万世一系」の価値があると主張しています。これに対する立花氏の考えはかなりユニークです。皇室の祖神とされる天照大神のミトコンドリアは、女性にしか伝えられないもの。女性天皇容認論者は、そのことを訴えればいいと記しています。天照大神のミトコンドリアのほうが、神武天皇のY染色体よりもはるかに貴いのでないかという理屈です。

 宮崎駿プロデュースによる劇場アニメ『耳をすませば』(1995年)で、小説家志望の主人公・月島雫の父親役にジブリ独自の“有識者枠”で抜擢されただけあって、さすが考えることが違うなぁと思った次第です。

 エルサたちは封印されていた王室の驚くべき秘密を知り、自分らのやるべき使命を自覚することになります。皇室関係者はどんな気持ちで、『アナ雪』シリーズをご覧になっているのでしょうか。ハリウッドで起きた脚本家や俳優たちの大規模ストライキの影響で制作が遅れた『アナ雪3』『アナ雪4』の行方とともに、気になるところです。

https://www.cyzo.com/2024/12/post_374164_entry.html


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さっぽろ雪まつりでJALが連携 プレミストドームで新イベントへ「コンテンツが集結するものになる」グルメやアート、スポーツまで

2024-12-07 | アイヌ民族関連

北海道放送 2024/12/06

2か月後にせまる来年のさっぽろ雪まつりに、新たなイベントが誕生します。

ひとやく買うのは、あの航空会社です。

8月に名称に変わり、6日新たな看板がお目見えした大和ハウスプレミストドーム。

2025年の雪まつりでは、新たな関連イベントが開かれます。

その名も、「JALさっぽろスノースポーツパーク2025」。

6日、札幌市と日本航空は連携協定を結び、観光力の促進を目指し「JALフェスSAPPORO」の冠で様々なイベントを開催していくことを発表しました。

その第一弾が、スノースポーツパークです。

札幌市 秋元克広市長

「雪とともにスポーツやグルメ、アートを楽しんでもらえる、体験してもらえるコンテンツが集結するものになる」

ドームの外では、パラスポーツの体験やクロスカントリースキーの競技大会を開催。

ドーム内でもスポーツ大会や、水墨画やアイヌ文化などのカルチャーを楽しめます。

また、北海道内各地の鍋料理を一堂に集め、ナンバーワンを決めるグランプリも行います。

さらに屋外には1000個以上のスノーキャンドルを並べ、夜まで楽しめるイベント会場を目指します。

「JALさっぽろスノースポーツパーク2025」は、さっぽろ雪まつり期間中の2025年2月7日から9日までの3日間、大和ハウスプレミストドームで開かれます。

https://www.msn.com/ja-jp/money/other/さっぽろ雪まつりでjalが連携-プレミストドームで新イベントへ-コンテンツが集結するものになる-グルメやアート-スポーツまで/ar-AA1voJdf?ocid=BingNewsVerp


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RAN「森林&人権方針ランキング2024」発表

2024-12-07 | 先住民族関連

ユニリーバがトップ 日清食品やP&Gは取り組みが遅れ最下位~大手消費財企業 森林破壊と人権侵害を依然として助長、グローバル企業10社の森林及び人権方針を評価~

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

2024年12月6日 19時22分

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日6日、「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2024」を発表し(注1)、グローバル消費財企業はサプライチェーン(供給網)で調達するパーム油や大豆、包装紙といった森林破壊リスクが高い産品の生産を通して、森林破壊と人権侵害を依然として助長していると指摘しました。

本ランキングは、熱帯林地域で森林破壊と人権侵害のリスクが高い産品に関与している大手消費財企業10社を対象に(注2)、各社の方針と実施計画を森林と人権の二分野で評価・分析している年次報告です。サプライチェーンでの森林破壊と人権侵害を阻止するための取り組みを詳細な基準で比較評価したところ、どの企業も昨年と大きな変化はなく、合格点といえる「C」評価を得たのはユニリーバのみでした。最下位はプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)で、日本企業は花王が「D(3位)」、日清食品ホールディングスが5段階で最低ランクの「不可(同点7位)」でした。

評価方法は、各社の方針と取り組みについて森林と人権分野の12項目を24点満点で評価しています。合計得点に合わせてA(21~24点)、B(17~20点)、C(12~16点)、D(6~11点)、不可(0~5点)で評価しました。パーム油、紙パルプ、大豆、牛肉、カカオ、木材製品など、森林を破壊するリスクのある産品(森林リスク産品)のセクターにおける傾向や動向を分析しています。10社のランキングの詳細は以下の通りです。

「森林&人権方針ランキング2024」調査概要&結果

▪️調査対象企業:日清食品、花王、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、マース、モンデリーズ、ネスレ、ペプシコ、プロクター・アンド・ギャンブル、ユニリーバ

▪️調査期間:2024年10月~11月

▪️調査方法:各社の環境及び人権に関する方針を調査・分析(ウェブサイトなどで公開されている最新版)、各社へのヒアリング

▪️主な森林・人権方針の評価項目(全12項目、各2点)

*2点:方針あり/ 全体に採用、1点:一部に採用、0点:方針・計画なし

  • 「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)方針・適用範囲:パーム油や紙パルプなど森林リスク産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準(注3)。特に、個別産品だけではなく森林リスク産品全般への適用、供給業者の企業グループ全体への適用を重視している
  • 「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施:先住民族および地域コミュニティの権利尊重(注4)
  • 人権擁護者への暴力や脅迫への「ゼロトレランス」(不容認)方針の有無(注5)
  • サプライチェーンの透明性:EUDR要件(注6)である、原料生産地までのフルトレーサビリティ達成の取り組みも含む(2023年版から追加)
  • 森林フットプリントの開示(注7)、など

全体の評価・傾向

「リーダー企業」(C評価)

  • ユニリーバは、昨年と同様の「C」評価を維持し、「リーダー企業」としての存在感を見せました。産品横断的な苦情対応進捗表を公表することで、リーダーシップを発揮しました。

「中位企業」(D+、D、D -評価)

  • コルゲート・パーモリーブは、「中位企業」の中で高い実行力を見せました。特筆すべき点は苦情処理記録を公表し、人権擁護者への暴力や脅迫を一切容認しないことを約束してリーダー企業と肩を並べました。
  • 花王マースは、昨年は少し前進が見られましたが、今年は実行力を改善することができませんでした。上記3社は、森林破壊の流れを止めるために断固とした行動をとる必要があります。
  • ペプシコは「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)方針遵守の独立した検証を進めず、苦情対応追跡表も公表しなかったことから、今回のランキングでは後退しました。
  • ネスレも後退し、サプライチェーンにおいて森林破壊を起こしている悪質業者の責任を追及する項目では後戻りしました。

「不可企業」(F評価)

  • フェレロ、モンデリーズ、日清食品、プロクター・アンド・ギャンブルの4社は、森林破壊と人権侵害への対応で下位グループにランクされ、依然として実行力の評価は低いままとなりました。4社は森林破壊に歯止めをかけ、先住民族コミュニティを搾取から守るために必要な組織的な改革を起こすことができませんでした。

【日本企業の評価】

  • 総合点は日清食品が不可(5点)、花王はD(8点)で、昨年とスコア及び点数は同じでした。
  • 昨年同様、両社とも「NDPE方針」を既に採用し、2点の評価を得ています。
  • 「NDPE適用の範囲」については、花王は昨年、森林リスク産品全般の供給業者とその企業グループ全体も適用対象としていることが確認できたため、評価は満点の2点です。一方、日清食品は一昨年から得点はなく、グループ調達方針の環境分野にNDPE支持を記載していますが、NDPE主要項目が明記されているのはパーム油事業のみで森林リスク産品全般ではありません。また、供給業者にNDPEの採用を義務化していなく、供給業者の企業グループ全体も適用範囲に含んでいません。
  • 「森林フットプリントの開示」については、花王今年5月にインドネシア・リアウ州の分析(英語)を公表しましたが、地域が限定的であることから1点にとどまりました。日清食品は実施を表明したことで1点を得ましたが、まだ開示がなく、明確な開示期日も不明です。
  • 「問題企業の責任追及」では、日清食品は昨年「苦情処理リスト」を公開し、違法パーム油生産農園との取引停止や対応状況を公表しました。今年6月にも情報を更新し1点を得ていますが、方針違反への対応手順が公表されていません。花王は小規模農家生産者を対象とした苦情処理メカニズムはありますが、大規模農園・植林企業などを対象としたリストは依然として開示がなく得点はありません。

RAN日本シニアアドバイザーの川上豊幸は「花王は、今年はNDPE方針の実施体制強化を示すことができませんでした。パーム油事業について2025年までに『使用するパーム油をRSPO認証油に100%切り替えをめざす』と表明していますが、その中身は非認証油が混入するマスバランス方式や、認証油のクレジットを取引するブック・アンド・クレーム(B&C)方式としています。また、サプライヤーなど取引先企業の独立監査を伴っていなく、実施体制の強化とは判断できませんでした。

続けて「日清食品は引き続き『不可』評価でした。NDPE方針遵守が森林リスク産品全般に適用されず、パーム油に限定されたままです。またNDPE方針の採用を供給業者に義務化していません。そして持続可能なパーム油のみを2030年までに調達するとの約束は前倒しされていませんし、サプライヤーへの独立監査も求めていなく、改善は見られませんでした」と指摘しました。

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーン

2020年4月の開始以来、評価分析を毎年実施し、今年で5回目の発表となります。グローバル企業に対し、世界最後の熱帯林への産品供給源の拡大を阻止し、企業の搾取から自分たちの土地を守るために闘う先住民族コミュニティの保護を確保するため、直ちに具体的な行動をとるよう求めています。

2024年版のランキングは、気候変動と生物多様性危機の緊急性が高まる中、多くの消費財企業が意味のある変化を実施できていないことを浮き彫りにしています。そして今回のランキングは森林と人権にとって重要な時期に発行されました。まず、2024年末に施行が予定されていた欧州連合の森林破壊防止法(EUDR)が1年延期され、消費財関連の森林減少を規制する取り組みがさらに先送りされました。人権面では、国際NGO「グローバル・ウィットネス」が毎年発表する報告で、世界各地で起こる土地や環境を守る人々の殺害増加の原因として、アグリビジネスセクターが上位に挙げられています。

RANフォレスト・キャンペーン・ディレクターのダニエル・カリーヨは「森林保護活動家は増大する脅威に直面しています。2023年だけでも196人が殺害されました。企業がサプライチェーンで責任を果たしていないことは、先住民族のリーダーや活動家への暴力の増大に直接つながっています。世界の大手消費財企業は、森林保護と人権尊重のために真の行動に踏み出す時です。気候危機が加速するなか、企業はその方針と行動を緊急事態に合わせなければなりません。森林は減少の一途をたどり、最前線のコミュニティは包囲されています。消費者、投資家、市民社会は今、ただの約束ではない、それ以上の行動を求めています」と強調しました。

調査対象の大手消費財企業10社は、いずれも世界で続く森林破壊や人権侵害に関与しています(注8)。RANは、消費財企業が森林伐採や土地の権利侵害を助長し、環境保護活動家や人権擁護者が直面する脅威を増大させているとして、これからも責任を問うていきます。 

脚注

注1)「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある消費財企業・銀行に実際の行動を起こすよう要求しています:

ウェブサイト

ランキング評価方法論

注2)消費財企業10社:日清食品、花王、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、マース、モンデリーズ、ネスレ、ペプシコ、プロクター・アンド・ギャンブル、ユニリーバ

*10社全社が全容を報告している唯一の産品であるパーム油を例にとると、10社合計で約230万トンのパーム油と、約140万トンのパーム核油およびその派生物を購入している(2022年)。パーム油世界市場の約3%、パーム核油世界市場の約17%に相当する(2023年版報告書より)。

注3)NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。森林減少や劣化に対しての保護(炭素貯留力の高い<High Carbon Stock:HSC>森林の保護、保護価値の高い<HCV: High Conservation Value>地域の保護)、泥炭地の保護(深さを問わず)、人権尊重、火入れの禁止といった要素を含む方針を公表している企業は「あり」の評価を得る。

*参考:「『森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止』(NDPE)方針とは?」ブリーフィングペーパー

注4)「FPIC」(エフピック)とは Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

注5)「ゼロトレランス・イニシアティブ」ウェブサイトを参照のこと

注6)EUの「森林破壊フリー製品に関する規則」(EUDR:通称「森林破壊防止法」):EU域内で販売される製品は生産地までのトレーサビリティの確認と、森林破壊等との関連有無を確認する「デューデリジェンス」の公表が義務化される。森林破壊と人権侵害の有無のリスク評価や確認も含め、グローバル企業は同法への対応が迫られる。

注7)「森林フットプリント」とは、森林を犠牲にして生産される「森林リスク産品」の消費財企業の利用や、銀行による資金提供によって影響を与えた森林と泥炭地の総面積をいう(影響を与える可能性がある面積も含む)。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、供給業者や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらに供給業者や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。森林および泥炭地が先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

注8)以下を参照のこと

RANプレスリリース「RAN新調査報告書『包囲下のオランウータンの首都』発表~違法パーム油、日清食品などのサプライチェーンに混入の可能性が継続~」(2024/11/22)

RANプレスリリース「新報告書『RGEグループの実態:無秩序に広がる破壊の帝国を暴く』発表~止まらない環境破壊と違反行為、消費財企業と銀行に同グループとの取引停止を求め~」(2024/3/18)

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000076051.html


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インディアナ州を巡る

2024-12-07 | 先住民族関連

Stars Insider 2024年12月6日 

インディアナ州を巡る

©Shutterstock

インディアナ州は英語で「フーシャーステート」として知られており、これはこの中西部のアメリカの州に住む人々への愛情を込めた呼び名である。インディアナには何千年もの間、さまざまな先住民族が住んでおり、州が州として認められた後も、その土地を大部分が先住民族の部族が所有していた。今日のインディアナは特に自動車やアメリカンフットボールで有名だが、優れた博物館やいくつかの国立公園、森林も誇りに思っている。広大な自然の中で、さまざまなアウトドアアクティビティを楽しむことができる。さあ、インディアナ州での冒険に出かける準備はできたか?

どこに行き、何を見るべきかのアイデアを得るために、クリックして見てみよう。

https://www.msn.com/ja-jp/entertainment/hollywood/インディアナ州を巡る/ss-AA1vlT0S?ocid=BingNewsVerp#image=1


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「私の想う国」公開記念、パトリシオ・グスマンがチリ弾圧の歴史映す3作がリバイバル上映

2024-12-07 | 先住民族関連

映画ナタリー編集部2024年12月6日 11:00 

「光のノスタルジア」場面写真 (c)Atacama Productions(Francia)Blinker Filmproduktion&WDR(Alemania),Cronomedia(Chile)

3作品は、グスマンがチリ弾圧の歴史を映したドキュメンタリー。アタカマ砂漠を舞台とした2010年製作「光のノスタルジア」では、行方不明になった肉親の遺骨を探して砂漠を掘り返す女性たちの姿が映し出される。2014年に製作された「真珠のボタン」は、西パタゴニアの海底で発見されたボタンを軸に、祖国を奪われた先住民や政治犯として殺された人々がたどった歴史が紐解かれていく作品。2019年製作の「夢のアンデス」には、1973年に発生した軍事クーデターにおける作家や彫刻家、音楽家たちの告白と記憶がアンデスの山々とともに収められている。

なお「私の想う国」は12月20日よりアップリンク吉祥寺、アップリンク京都で上映され、翌21日よりK's cinemaほか全国で順次公開。

https://natalie.mu/eiga/news/602365


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ロレッタ・ナポリオーニ『編むことは力』訳者あとがき

2024-12-07 | 先住民族関連

たねをまく 2024.12.06

 この本の翻訳の話をいただいた時、最初に「編み物のことは何も知らないんです」と言った覚えがある。「編み物の本ではありますが、どちらかといえば社会史の本なのです」と言われて読んでみたら、自分の人生を変える本になった。

 この本は、イタリア出身のエコノミストであるロレッタ・ナポリオーニさんが、長年のパートナーである夫に起因する金銭的な苦境に直面した時に、編み物という手芸に救いを求め、その存在に支えられたことをきっかけに執筆を決めたノンフィクションである。私たちの世界に当たり前に存在する手芸を軸に、歴史的エピソードや人々の言葉を紡ぐことで、編み物が私たちの生きる世界の歴史の形成に影響を及ぼし、どのように利用・活用されたり、矮小化されたりしながら、爪痕を残してきたかを探求しつつ、私たちの暮らす不完全で綻びのある社会を編み直す可能性を提案する。

 翻訳の話が最初に立ち上がった時、確かに私はまったく編み物のことを知らないと思っていた。ところが翻訳の契約が進む間に、ふとしたことから編み人との縁ができた。私が発行するニュースレターの読者の人たちと始めたコレクティブSakumag にやってきたある人に、「何ができますか?」と聞いたら、「編み物を教えられます」との答えが返ってきたのである。そのうち彼女を通じ、廃棄される繊維素材を活用できないか相談があり、それをきっかけにマクラメ編みでキーチェーンを作ったり、かぎ針でカゴやバッグを編むワークショップを開催した。捨てられる予定だった資材を材料に、ゆるい編み物の会にきてくれる人と社会の話をしたり、モヤモヤをシェアしたりしながら手を動かすことが、自分の体内のテンションを溶かし、心に安定したリズムと温かみをもたらしてくれた。

 その後、わが編み物の先生、渡辺みなみさんが開催するワークショップで、初めて自分で糸を購入した。棒針編みの基本の動作を教わったら、手に感覚が戻ってきた。未経験だと思っていたのは勘違いで、どこで、誰に教わったか、まったく覚えていないけれど、手は動きを覚えているのだった。マフラーでも編もうとほくほくと毛糸を持ち帰ったが、春にはすっかり忘れてしまった。フランスで紡がれたというカラフルな毛玉は、バッグごと棚の取手に引っ掛けられたまましばらく放置された。

 そうこうするうちに、契約が進み、ついに翻訳の作業を始める段になった。根詰めなくても良いように、毎朝三ページを翻訳しようと決めた。朝起きてコーヒーを淹れ、ニュースを見たり、SNSのプラットフォームを開く前に、ナポリオーニさんの言葉に向き合う。それは、安全なコクーンの中に身を横たえ、文字を紡いで吐き出すのと引き換えに、エネルギーやパワーを得るような体験だった。

 本書は、祖母から編み物を教わった幼少時代の回想から始まる。ナポリオーニさんの祖母は、ジェンダーという名の檻に閉じ込められ、与えられた役割を演じ続けたけれど、ナポリオーニさんに、メインストリームが語るナラティブや刷り込まれた固定観念を疑うことを教える。そして、人生というものを、編み物というレンズを通して考える眼差しを与える。

 ジェンダーを軸に与えられた役割をまっとうした母と祖母に育てられたナポリオーニさんの経歴は目覚ましい。エコノミストとして武器を捨てた元テロリストにヒアリングをしたり、調査のために中東の砂漠を旅したり、バリバリのキャリアを築く傍ら、女性たちのリプロダクティブ・ライツを守る活動をしたり、ヒッピーやラスタマンと編み物をしたり、子どもを育てたりしてきた。長年のパートナーに裏切られ、それまでの裕福だった暮らしを失う局面に立たされた時に編み物に立ち返り、それがきっかけで編みもののパワーを探る旅に出るのだった。

 この本では、革命に参加しながら蔑ろにされたフランスの女性たち、新天地にたどりついてもなお税を課す大英帝国に反抗したアメリカの女性たち、編み物によって経済的自立を得た女性や先住民、人生の最終チャプターを編み物に捧げる老人、社会を変えるために、政治の暴走を止めるために糸と針を武器に戦うコレクティブなど、たくさんの人々の物語が展開する。また、メンタルヘルスや脳神経のケアや治療、数学や物理学の研究や技術の革新において編み物が持つポテンシャルや、気候変動時代に、環境を傷つけず、抑圧されてきた人たちの自立に可能性を与え、経済格差を縮めることのできる編み物のあり方を探求する。

 編み物が、文化の中で特別な場所を与えられてこなかったのは、庶民の手芸だからだ。だからどこで誰が最初に考案したのか、私たちにはわからない。編み物の技術は、必要性から生まれたのだろうということは推測できる。世界のいろいろなところで自然に発生し、人々に暖を与え、金品に交換され、コミュニケーションのツールになったり、表現の手段になってきた。編み物が認知の能力の維持やヒーリングに役立つということは自明だが、数学の理論や物理の模型に使われることは意外に知られていない。数学的神秘を解き明かし、暗号を運び、心や神経を落ち着けることができ、革命の手段でもあり、愛の表現である。そんな存在、他にあるだろうか?

 この本を訳しながら、私の心はたくさんの感情の旅をした。フランスの王政を倒す革命に一役買いながら国民議会で席を与えられなかった女性や、たまたま女性に生まれたことで自立や自由を与えられなかった人たちの無念を思って腹を立て、ヤクやクラインのボトルが課題を解決する可能性に心をときめかせ、編み物のまわりに集まる人々が、オルタナティブの世界のあり方を提示できるのではないかと希望を持った。そして、本を書きながら、自分の身に起きたことを整理し、自分の行動を分析し、自分が何者なのかを問い続けるナポリオーニさんの旅に自分の心を添わせた。

 奇しくも最初のドラフトに取り掛かったのは、私自身、心から愛していた場所に少しずつお別れを言おうとしている時だった。ニューヨーク州から北に一時間半ほど行った林の中に、友人夫婦が所有する小さな家と小屋の中間のような建物を、過去一〇年以上にわたり借りていた。旅ばかりをしてニューヨークにあまりいなかった頃、退去を考えたこともあったけれど、「あと一年」と思ったところでパンデミックが起き、一年半はフルタイムで暮らした場所だ。隣には、ニューヨーク州が所有する広大な雑木林や湖からなる森林がある。死んだら、ここに骨を撒いてほしいと思ったこともあった。パートナーが親の介護をするために他州に引っ越すことを決め、私も後で追いかけることになり、この家のリースを手放すしかないのだという結論を、少しずつ受け入れるところだった。この場所に身を置かせてもらった間に、自分の人生にたくさんのことが起きた。たくさん手を動かし、たくさんの人と過ごし、たくさんの時間を孤独と向き合い、何度となく自然の猛威に慄きこうべを垂れた場所だ。人生のひとつのチャプターを終了し、次のチャプターに足を踏み出そうとする中、一年の終わりに向けて木々が葉の色を少しずつ変えるのを横目に、この本を翻訳する作業は、お別れの儀式にはとても相応しいことのように思えた。ナポリオーニさんの言葉は、喪失につきものの悲しみや葛藤にも満ちていたが、過去の過ちや苦しみを土台に、未来に羽ばたこうとする人の希望や可能性を感じさせてくれた。自分の決断が正しいものなのかに自信が持てない時、見えない未来に不安になる時、この先、何が訪れても大丈夫である、という気持ちにさせてくれた。

 翻訳作業の終わりが見えかけ、「この後、自分は何にエネルギーを傾ければいいのだろう?」と不安になりかけた頃、友人から、パートナーががんを患ったという連絡があった。見つかったがんは、知った人に息を吞ませる程度に進行していた。その夫婦は、アメリカ大陸への移転の真っ最中で、私の友人である妻は、急に始めることになった夫の治療の前に、二匹の飼い猫を車に乗せて移送するのだと言った。アメリカ大陸横断の旅は私も何度かやったことがあるが、それを一人でやることの退屈さと過酷さは容易に想像できた。たまたま休みを取っていたから、一緒に乗ろうか? と提案し、モンタナにいるパートナーを訪れる予定を遅らせ、ラスベガスまで彼女と猫たちの旅に参加することを決めた。複数の気候を通過する旅に必要な衣類をパッキングし、家を出ようとしたところで、半年以上、玄関の棚の取手にかかっていた毛糸と針のバッグを掴んだのは咄嗟の判断だった。

 その友とは、私が二〇代前半、彼女が後半の時に知り合い、互いの人生の山あり谷ありを目撃しながら、長いこと家族の延長のような付き合いをしてきた。あれから三〇年、それぞれ熟年と言われる年齢に入ったけれど、私たちの中身が大きく変わったような気はしない。ただ、加齢とともに、少しずついろんなことに不具合が出てきただけだ。今、彼女の人生のパートナーが、健康上のピンチにある。この先、辛い治療や難しい決断が待っているかもしれない。精神的に苦しい局面もやってくるだろう。その共通認識を持ちながら、私たちは四日間、二匹の猫を乗せたミニバンという空間を共有し、若かりし日々のこと(ブルースリーのTシャツを着てオーバーサイズの軍パンを履いていた私が昼食にアイスクリームを食べていたこととか)、利益のために武器や戦闘機を製造したり、環境やコミュニティを破壊するウルトラ富裕層をこき下ろしたり、私たちがどう生きるべきか、これから待ち受けるかもしれない人生の試練について話し合ったりした。編み物用バッグを掴むという判断は、正しかったなんてもんじゃなかった。自分が運転したほうが快適だという友と二人の車の旅に、自分ができることは、助手席に座っていることだけだったし、揺れる乗り物の中でおしゃべりをしながらする作業として、編み物は最適だった。車内の檻の中というシチュエーションに対する不満の鳴き声に耐えかねて猫たちを解放した時は、猫が編み物をする私の膝を横切り、糸を道連れにして私が編まれかけるというコミカルな状況に大笑いもした。前にこんな風に笑ったのはいつだったろうか。止まらない笑いとともに、私は確実に泣いてもいた。今、彼女の前に横たわる辛い事態がなかったら起きなかったはずの初めての二人旅から、たくさんの予想外のギフトを受け取ったような気持ちになった。

 旅の終わり、私の手の中にモヘアのスカーフがあった。旅が終わってからも、私は手を止めることができなかった。パートナーと合流した街で毛糸ショップを訪ね、パッケージの傷を理由に割引された針を買い求めながら、針はどれだけの時間をそこで過ごしただろうかと考えた。中毒というやつになったかもしれないと思ったのは、ホリデーの最中に編もうと思った毛糸が届かなかった時に、ほどいてもいいニットを探し求めてクローゼットをあさる自分を発見した時だ。友達のストゥープセール(玄関の前で不用品を売るイベント)で、肌触りに惚れて連れ帰ったけれど、うまく着こなせずに持ち腐れていた白いベストが、レッグウォーマーになった。極端なことを言えば、最終的に何ができるかは、大した問題ではなかった。日々、世界のそこここで起きている醜い殺戮行為、人々が搾取され、踏みつけられるさま、女性や弱者への暴力、悪政や汚職を凝視し続けることによって受ける負荷を軽減して余るほどの安らぎと温かい気持ちを、針を動かす時間や作業が与えてくれていた。また夏が来た時に針を置かないように、シルクや大豆でできた夏糸を入手し、どこかの古着屋で手に入れた夏用のバッグに入れておき、春の終わりの旅に連れて出た。移動を繰り返すうちに絡まった、ライトブルーの糸を、切らずにほどこうと決めた。すべすべと指に気持ちのよいシルクの糸をほどく作業は、自分を世界とは別の時間軸の中においてくれた。ある夕方、三軒茶屋の駅周りの喧騒の中、なかなか来ないバスを待ちながら糸を解いていた。「私なら切るわよ」と声をかけられた先を見たら、シルバーグレイの髪をしたかっこいい年上の女性が座っていた。「ほどくのが好きなんですよね」と答えながら、その理由を考えた。人生に解決しなければいけない課題がない時は少ない。その時の自分は、最終的に「切る」という選択肢があると知りつつ、解決しない課題はないと感じたかったのだと思う。

 この本の校正作業をしながら、出版後には編み物のイベントをやろうと考え始めた頃、私の胸にがんになろうとする小さな腫瘍が見つかった。当初はさっと切除することのできる処理の簡単なものだと説明されたが、その後、生涯に複数回のがんを体験する確率の高い遺伝子が見つかったことで、両胸を全摘出することを決断して手術をするなど、人生の一大事になった。少し先に、乳がんを体験していた友人は、「入りたくなかったクラブに入会したんだよ」と言ったが、そのクラブにはたくさんの天使たちがいた。私は天使たちから引き継いだ英知や、勇気を与えてくれたサバイバルのストーリーを携えてこの一大事に立ち向かったけれど、バッグにはいつも毛糸と針が入っていた。そして、もし編み物というものがなかったら、自分はどう心を鎮めたり、不安な材料を受け止めたりしていただろうかとたびたび考えた。気がつけば、編み物は自分の人生においても生き残るツール、生き方のメタファーになっていた。

 当然、私はひとりではない。これまで、世界中のいろいろな場所で、想像を絶するような苦境や抑圧の最中に、編み物は、きっとこうやって多くの人たちの人生に心の平和や勇気を与えてきたのだろう。長い人類の、そして世の中のたくさんの人の個人史の中に、編み物というものは、暖かく、平和な場所を持っていて、編み人たちはそれぞれのストーリーとそれぞれの人生へのアプローチを持っているのだった。

 この本には、今、私たちが生きる時代がしんどいものだという前提がある。世界は小さくなり、常に「接続された」私たちの生活は格段に便利になった。ところが、こうした社会を実現するために開発された技術革新は、人々を幸せにしなかった。飢餓や貧困、暴力や衝突といった問題を解決してもいない。より多く、より豊かにと経済の拡大を求めるドライブと、飽くなき人間の欲望は環境を破壊し、たくさんの災害を引き起こしている。広がる不安に、孤独やデプレッションに、人々はヒーリングを求めている。ナポリオーニさんは、こんな時代だからこそ、針を動かし続けることを、現状に異議を唱え続けることを提案する。そこに編み物を通じて取ることのできる集団的アクションが、得ることのできる集合的ヒーリングが存在するのだから。

 編み物をしたことのない人を、このパワーに気がつかせることはできるのだろうか。糸と針が何かを成し遂げることができるなんて、編み手でなければ信じないだろう。それどころか、この手芸が持つポテンシャルに気がついていない編み手だっているだろう。編み物は生き様であり、表現と交信の方法であり、癒しの泉であり、人生の同志である。この本が私の人生を変えたように、この本が旅をして、たくさんの心と繋がり、編み物のパワーを伝播してくれることを願ってやまない。

二〇二四年秋 佐久間裕美子

https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/8503


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「第二回Cinema at Sea 沖縄環太平洋国際映画祭」2月22日~3月2日開催 メインビジュアル&「牡丹社事件」を題材にしたオープニング作品発表

2024-12-07 | 先住民族関連

映画.COM 12/5(木) 12:00

 第二回Cinema at Sea 沖縄環太平洋国際映画祭が、2025年2月22日~3月2日に沖縄県・那覇市を中心にを開催される。このほど、メインビジュアルとオープニング作品が発表された。公式アンバサダーを俳優の尚玄が務める。

【フォトギャラリー】第一回「Cinema at Sea 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」オープニングセレモニーの模様

 本映画祭は「Cinema at Sea」をコンセプトに、優れた映画の発掘と発信を通じて、各国の文化や民族、個々人の相互理解を深めること、地元ビジネスを支援すること、そして地元の才能あるアーティストの作品を広く発信することを目指し、最終的には、沖縄が環太平洋地域における新たな国際文化交流の拠点となることを目指すもの。

 プログラムの拡大と開催期間の延長により、第二回Cinema at Sea - 沖縄環太平洋国際映画祭は、環太平洋地域における映画芸術を称えるだけでなく、異文化間のつながりを促進するための主要なプラットフォームとしての地位をさらに確立していく。

 今回のメインビジュアルは、人と自然との境界を立ち位置に活動する画家の山田祐基氏が制作。本年度の映画祭のテーマである「Boarder/less」にあわせて制作されたメインビジュアルの作品名は「あわい/あはひ【間】」だ。

 本年度のオープニング作品は、台湾出身のション・フー(胡皓翔)監督による1870年代に起きた「牡丹社事件」を題材にしたドキュメンタリー映画「青海原の先ー牡丹と琉球の悲歌」(Ocean Elergy :The Tragedies of Mudan and Ryukyu)に決定した。

 たった一つの遭難船事故がどのように東アジア地域の政治地図を再形成したのか? を問う本作は、貴重なアーカイブ資料や専門家と遺族によるインタビュー、再現ドラマ映像を用いて、沖縄と台湾の歴史的な繋がりを掘り下げた力作であり、地域文化と記憶をテーマに、琉球王国と台湾の先住民族との運命や対立に焦点を当て、海を越えて人々が繋がる物語を繊細かつ力強く描き出した作品だ。

 1871年、琉球から清国(現在の中国)へ向かっていた船が暴風雨に遭遇し、南台湾に漂着。この船には琉球人54名が乗船しており、彼らはパイワン族が住む地域に到達した。しかし、パイワン族の一部がこれらの琉球人を殺害するという事件が発生し、この事件は後に「牡丹社事件」として知られるようになる。

 この事件は単なる地域的な紛争に留まらず、日本の台湾侵攻(1874年の台湾出兵)を正当化する口実として利用され、さらに、この事件をきっかけに清国がパイワン族と交渉を行い、日本が琉球を併合する流れに繋がるなど、東アジアの地政学に大きな影響を与えた。今年は牡丹社事件の150周年にあたり、5月に屏東県牡丹郷では150年記念行事が行われた典が開催され、宮古島市も代表者を派遣し祭典に参加。その後、11月に牡丹郷からも宮古島を訪問し、交流協定覚書を締結するなど、沖縄と台湾側双方がこの悲劇を乗り越えるため、和解の歩みを続けている。

 台湾出身のション監督が七年間かけて製作し、日本と台湾の学者や専門家、さらに宮古島と牡丹郷における牡丹社事件の遺族の協力によって完成した本作品が、第二回の映画祭の開幕式にてワールドプレミア(世界初上映)を飾る。

 なお、大きな反響を集めた第一回目の映画祭終了後の活動の一環として、東京、大阪、沖縄・八重山、そして台湾東部で、昨年度のコンペティション受賞作品を中心とした巡回映画祭を実施。<Cinema at Sea - 巡回映画祭 in 沖縄・八重山>が12月13日(金)~15日(日)にわたり西表と石垣会場で行われる。第二回Cinema at Sea概要とともに、映画祭公式サイト(https://www.cinema-at-sea.com/)で詳細を告知している。

■第二回Cinema at Sea - 沖縄環太平洋国際映画祭 概要

【正式名称】 第二回Cinema at Sea - 沖縄環太平洋国際映画祭

      (2nd Cinema at Sea - Okinawa Pan-Pacific International Film Festival)

【主  催】 特定非営利活動法人Cinema at Sea

【開催期間】 2025年2月22日(土)~3月2日(日)

【開催会場】 那覇市ぶんかテンブス館テンブスホール、桜坂劇場、沖縄県立博物館・美術館等、那覇市内を中心とした会場

【実施内容】 コンペティション作品上映、特集上映、トークイベント、沖縄環太平洋映画インダストリー他

【公式サイト】https://www.cinema-at-sea.com/

▼山田祐基氏 コメント

海をつなぐ潮の道を通して、ものや思い、血の交歓を得たのも人間であり、そこに国境や海域といったBorderを作ったのもまた人間です。

そのBorderを溶かすこと(Borderless)ができるのも人間だと信じたい。

自身の立ち位置でもあり、制作の軸でもある「あわい/あはひ【間】」をテーマに、向かい合うもののあいだ、また、二つのものの関係を白黒させすぎず、その混じり合った状態を楽しむ様子を表現しました。

「分ける」ために必要だったBorderを「あわい」に進化させていく時代。

Borderなど初めからなかったかのように自由に行き来する動植物たち、子供たちに学ぶことがたくさんあると日々感じます。

▼青海原の先ー牡丹と琉球の悲歌」監督 ション・フー(胡皓翔)コメント

2018年から始まった創作の旅の中で、私は何度も漢民族、先住民、そして琉球の友人たちと向き合いました。彼らの眼差しには真摯な思いが宿っており、繰り返しこう念を押されました。「監督、どうかこの歴史を多くの人に伝えてください!」そのため、このドキュメンタリーがCinema at Sea - 沖縄環太平洋国際映画祭のオープニング作品として上映されると聞いたとき、心の底から感動しました。この映画祭こそ、この歴史を世界に伝えるのに最もふさわしい舞台だと感じています。

この歴史は、過去100年近くにわたる琉球と台湾の運命に深い影響を与えましたが、政権の変遷によって歴史教科書には十分に記録されることがありませんでした。そのため、多くの人々がこの土地の物語を断片的にしか知らないのが現状です。もしご自身の過去に興味をお持ちであれば、ぜひこのドキュメンタリーをご覧ください。時間に埋もれた足跡をともに探る旅へとご案内します。

▼公式アンバサダー・尚玄氏コメント

このたび「第二回 Cinema at Sea - 沖縄環太平洋国際映画祭」を開催できることを大変嬉しく思います。昨年11月に開催された第一回目は予想以上の反響をいただき、まだまだ改善すべき点が多々あるとはいえ、やはり沖縄は国際交流の場に相応しい場所であると再確認しました。

私たちの目指すところはこの映画祭を継続し、地域に根付かせていくことです。県内外だけでなく、海外の映画を愛する方々も足を運びたくなるような魅力的な映画祭にしていけるよう、これからも尽力して参ります。ぜひみなさん気軽に遊びに来てください!

https://news.yahoo.co.jp/articles/889d01c026da8364828b833759f4a4d129c6c6f1


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