友人の皆さんの新刊を4冊ご紹介させていただきます。
『ゆびわがくれたプレゼント』(田沢五月・ポプラ社)
日本児童文学者協会とポプラ社の共同事業である新人作家発掘を目的とした「新・童話の海」の第3回の公募入選の作品です。
作者は岩手にお住まいの田沢五月さん。田沢さんは3・11の大津波で田老町のご実家がご被害を受けました。
その津波での被害を乗り越えられ田沢さんは、生まれ育った海辺の町を静かに描写しています。
その海辺の町で出会った少女との不思議な出来事が、とても瑞々しく描かれています。
縁日で買ってもらった指輪を海で出会った女の子に貸して上げたことからはじまった、幻想的なお話。
ヤマセのこわさに震えながらも、それが去っていったあとの青く澄んだうつくしい海や、その中で大人たちを見つめる主人公のまなざしが、初々しく、とてもやわらかな筆致で描かれた成長物語です。
『レガッタ!水をつかむ』(濱野京子・講談社YA!ENTERTAINMENT)
県下有数の進学校「埼玉県立美園女子高校」に入学した主人公の「有里」は、中学時代、途中までやっていたバドミントン部ではなく「ボート部」に入部することにしました。
美園女子校・通称「ソノ女」のボート部は部員がオリンピックにも出場経験があるという伝統ある部だったのです。
埼玉県の有数の公立女子校といえば「浦和一女」、この作品はその「一女」をモデルに作られています。
出てくる町の名前や戸田漕艇場など、実際にある場所の名前をそのまま使っているので、なおリアルな実態、あるいはリアルな少女たちの葛藤が目の前で繰り広げられているような臨場感があります。
濱野京子さんは『その角を曲がれば』(講談社)でも女子高生の生きる姿を描いていますが、今回はそこに「ボート」という肉体や精神を酷使する競技が加わってきます。
そこでのライバルの少女との確執や、肉体改造の努力などが丁寧に描かれています。
そのことで、少女たちの葛藤がよりリアルに迫ってくるような気がします。
「恋愛」なのか、単ある「恋愛」へのあこがれの感情からなのか、ゆれ動く主人公の「有里」の描出がとても魅力的です。
確かな取材と物語構成。
まるでノンフィクションのようなリアリティを感じながらの、今を生きる少女群像の物語です。
『ねっこばあのおくりもの』(藤真知子・ポプラ社)
『まじょこ』シリーズ〔既刊51巻〕や、『わたしのママは魔女』シリーズ(既刊48巻)で人気の、藤真知子さんは、作家としてもうひとつの顔を持っていらっしゃいます。
それは自然保護などに対するまなざしです。
名古屋ですでに3回目となる「森の童話 読書感想はがき」コンクールなども主催されています。これは「あいちモリコロ基金」「あいち森と緑づくり環境運動」「学習推進事業の交付金」「大阪コミュニティ財団」「東洋ゴムグループ環境保護基金」などの助成を受けて行っている事業だそうです。
その課題図書の一冊になっているのが、この『ねっこばあのおくりもの』です。
家族旅行で高原にやってきた「リナ」は、胸のざわざわで目が覚めます。
起きだしてベランダから外をみると、「ねっこばあ」と名乗る、小柄なおばあさんが立っています。そのおばあさんと、森のなかを歩いていきます。
真夜中の森に生きているさまざまな命。
それを映像が浮かぶように、うつくしく描写されています。
木々たちが繰り広げる真夜中の宴会の、うつくしく、かなしい時間。
宇宙のはじまりからずっと、森を生きる木々はこうして命をつないでいたのです。
そうしたことをこの絵本は、静かに伝えてくれています。
『ちょーコワ!最凶怪談』(新井リュウジ;藤咲あゆな編・集英社みらい文庫)
11編の怖い話が収録されている文庫です。
帯には「眠れなくなっても、責任は取れません」と書いてあります。
その中から1編、ご紹介します。
「小僧の政吉」(森川成美)
市立図書館で見つけた「郷土幕末写真集」を見ていて、勇太とトモヤはふと、「市中ひきまわしのはりつけ」写真に目がいきました。
それはおよそ生きている人間にはできないようなポーズで死んでいる男の子の白黒写真でした。
そこにしるされていた「川上町」という知っている地名。そこからふたりは、『市中引き回しの上殺された』殺人事件のなぞを解こうと動き出しました。
そこで、勇太は怖い体験を・・・。
その怖さゆえ、二度と行きたくない勇太を尻目にトモヤは再びそこを訪れ、もっと調べようと・・・。このあたりから、読者の胸は恐怖におののき始めます。
そして一人で行ったトモヤは・・・。あとは読んでのお楽しみ。
ぞわぞわと怖さが突き上げてきます。夜読んだら、きっと怖くて眠れなくなること受け合いです。
皆さま、この4冊、ぜひお読みになってください。