新刊を3冊ご紹介いたします。
『いい子じゃないもん』(田部智子作・岡田千晶絵・福音館書店)
『ユーレイ通り商店街』シリーズの第5巻です。
すっかり、さびれてしまった通称「ユウレイ通り」。そこで暮らす子どもたちや大人たちのさまざまなすがたを、生き生きと描きながら作り上げられたシリーズです。
第5巻は、ユウレイ通り商店街を通りすぎたところにあるアパートに、お母さんとふたりで暮らしている「都」が主人公。
いつも「いい子」「いい子」と言われている都は、折り折りに自分のアイデンティティについて、考えてしまいます。またクラスメートたちはそんな都を改造しようと、「都改造計画」なるものを立て始めます。
そんな都の、自らへ問いかけがひたむきで魅力的です。
そんな都が、5巻では和菓子屋さんのおばあさんと繋がり合いを持つなかで、大きく成長していくすがたが描かれています。
「由緒ただしきいい子がするべきことは何か、まわりの大人たちを困らせることだ。そのことで大人は成長するのだから」
このメッセージが、都だけではなく読者の胸もゆさぶります。
『スノードームにさ・し・す・せ・そ』(童話工房ふろむ編・かわのむつみ絵・国土社)
同人誌「ふろむ」の皆さんのアンソロジー、第二段です。
第一弾は『キッチンくまかか』〔国土社〕でした。このときのテーマは動物。すでに増刷になっているそうです。
そして、今回のアンソロジーのテーマは「おもちゃ」です。
このテーマに沿って、同人の皆さんがバラエティに富んだ楽しい短編を書いていらっしゃいます。
個々にご紹介するスペースがないので、タイトルと作者名だけ。
ぜひ皆さん、お読みになってください。
『子犬のミルクとスーパーボール』(田沢五月)
『スノードームにさ・し・す・せ・そ』(おおぬまいくこ)
『いいもの見いつけた』(田中良子)
『うーちゃんのスコップ』(にしかわとよこ)
『こんもり山のおもちゃ屋』(かわのむつみ)
『赤いようちえんバス』(山崎玲子)
『たこを追いかけろ!』(ますだ文)
『ちよさんとお手玉』(鳥野美知子)
『まいごになったオルゴール』(みうらなお)
『万華鏡の中の守り神』(千葉留里子)
『ゾウの森とポテトチップス』(横塚眞己人・写真と文・そうえん社)
今年度の課題図書です。
そうえん社では昨年の『チョコレートと青い空』(堀米薫作・小泉るみ子絵)に続き、二年連続の課題図書です。編集者のKさん、がんばっています!
『ゾウの森とポテトチップス』は、インドネシアのボルネオ島に暮らす、ゾウたちのすがたを、写真家である作者が取材しながら作り上げていった写真絵本です。
人間たちが、自分の都合だけで変えていった自然の中で、ゾウたちの暮らしはどんどん追い詰められていきます。ゾウたちが暮らしていた森が、いまやアブラヤシの果実の森になっています。
アブラヤシから「バーム油」というのをとるためにです。「バーム油」というのは世界中に輸出され、ポテトチップスや、カップ麺や、洗剤などを作るために使われているものです。
なにげなく食べているポテトチップス。けれどそれは、ゾウたちの暮らしの犠牲の上に成り立っていたのです。
ボルネオのすばらしい写真の数々や、図鑑のように解説された部分。小さな子どもにもとてもわかりやすく、簡潔でゆったりとした文章で描かれています。
横塚さんは、追い詰められたゾウたちの暮らしについて、こう綴ります。
「ぼくは、手だてをうつための一歩をふみだしました。そのさいしょの一歩は、
<知る>ことからはじまるのです。
すばらしい写真絵本です。たくさんの子どもたちに読んでほしいです。
皆さま、どうぞお読みになってください。