折にふれて

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加賀橋立(はしだて)北前船の里 その3

2016-09-23 | 加賀

もう少し、北前船の話を...。

 

                                            北前船主の屋敷跡にて

                    
北前船は巨万の富をもたらしたが、一方で航海の危険もかなり高かった。

北前船の多くは弁才船(べざいせん)と呼ばれる水密甲板を持たない様式で、

嵐に弱く、その航海は常に海難事故と背中合わせ、現に多くの死者を出している。

江戸期の海商、高田屋嘉兵衛を描いた

司馬遼太郎の小説「菜の花の沖」に、

北前船など当時の操船の模様が描かれているが、

嵐や海の難所を乗り切る様はまさに命がけ、

水夫たちの緊張が精緻に伝わってきたことを覚えている。


離れて暮らす時間が長く、しかもその仕事は命がけ。

それだけに家族、とりわけ夫婦の結びつきは強く、

そのことは、このあたりに多い、夫婦(めおと)墓からも窺い知ることができる。

一般的な墓は、先祖代々を一基とし、墓碑銘を刻んでいくが、

夫婦墓は夫婦毎に墓所を確保し、夫と女房の2基の墓を並べる。

死後も水入らずという願いからだと思うが、橋立に限らず、海に生きる地域に夫婦墓は多いようだ。


北前船の乗組員、その家族の心情を想像してみた。

乗組員たちは、春彼岸頃、家族との別れを惜しみつつ大阪へ向かう。

大阪から出航し、瀬戸内海から日本海、そして北海道と回航し、大阪に戻るのは秋の彼岸頃。

一方で女房たちは日々航海の無事を祈りながら、

ひたすら夫の帰りを待ち続ける。

半年の航海を終えた乗組員たちは莫大な稼ぎを持ってなつかしいふるさとに帰り、

ようやく会えた女房とともに骨休めの湯治に出かけ、

仲睦まじいふたりの時間を過ごす。

不安と安らぎが交互に訪れる生活。

このような生活が繰り返されることで、「家単位」ではくくることのできない死生観が形成されたのではないかと思う。

北前船資料館で求めた冊子の中に、妻が航海中の夫に充てた手紙があった。



 


ひとふでしめし上げ候、

時節おいおいあたたかに相成り候

御君様、船の皆々ごぶじにて御ちゃく(御着)遊ばされ、

まんまん(万々)めでたく存じ参らせ候

ついてはご両親様はじめ、はつ子(ひとり娘)もわれらともさわりなく候あいだ、ご案じ下されまじく候

なお御君様、御身のかげんいかがにござ候やと、案じ居り候

なるだけ御身大切にお暮らしあそばされまいらせ候

まづは御見舞いかたがた一寸ひとふで書きしるしまいらせ候

あらあらめでたし                かしく
                  
                                 なつかしの美起より

※「北前船の遺産」 加賀市教育委員会編 作家 高田 宏氏の文章より引用

 

美起というのは女房の名前で、「なつかしの...」とはまるで恋人に宛てた手紙のよう。

今はこのふたりも「夫婦墓」で仲睦まじく眠っていることだろう。

 

さて。

何事もなかったように静かな今の橋立港。


なんとなく探し当てたなにげない一曲。

イエスタデイは傑作だけど、アナザーデイは駄作...そう叩かれていた記憶もあるが、

個人的には、ビートルズ以降では思い出深い曲。

何よりも、なんてことのない日常を楽曲にして、それで物議を醸すポールはやはり別格。

"Another Day"   Paul McCartney & Wings 

 

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