はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

猫時計

2006-06-05 19:52:22 | かごんま便り
 道を歩いていて猫に出くわすと、目を合わせるようになった。愛の視線を送っているのではない。ただ観察したいだけなのだが。
 警戒心を持たせないように、ゆっくり近づくけれども、猫の方は「眼を付けている不審な人間が来た」と思うのだろう。すぐ逃げだし、距離を置いたらチラリと振り返り姿を消してしまう。
 仙厳園に「猫神祠」がある。祭神は朝鮮出兵・文禄の役(1592~93年)に参戦した島津義弘公が連れていった猫。猫の瞳孔の開き具合を見て、時間を知るために従軍させたという。なるほど、猫の瞳孔は光の強弱で変わるとは知っていたが、これを時計代わりにしていたとは驚く。
 ネジを巻かなくても、餌を与えて健康に気をつけていれば便利だろうが、曇りや雨の日はどうなのだろう。猫を飼っていないので、せめて晴れの日に外で見かけた猫の瞳孔を観察しようとしているが、信頼関係がないから困難だ。
 そこで調べてみると「六つ丸く五七卵に四つ八つは柿の核なり九つは針」「六つ丸く四八瓜さね五と七と卵なりにて九つは針」の古い数え歌のようなものがあった。「六つ丸く」「九つは針」が共通している。
 「六つ」は明け六つ、暮れ六つのことで午前6時と午後6時。猫の瞳孔は丸い。「九つ」は正午と午前零時。瞳孔は針のように細くなる意味だ。光の無い夜中も細い垂直になるとは思えないので日が出ている間だけの歌かもしれない。
 中国・唐時代にも、猫と瞳孔の関係が書かれた文献があり、また中国で布教したフランス人宣教師も子供に時間を尋ねたところ、猫を連れてきて目を見せ、時間を知らせてくれて驚いたことを記したものがあるという。
 こうなつてくると、私も仕事柄、ますます猫の瞳孔の変化を観察したい気になり、猫に視線を送るようになった。今後、目を開けた猫の絵を見る機会がある度に、瞳孔を注視して何時ごろに描かれた絵かを推測するようにもなるだろう。
 従軍した猫は7匹で、5匹が戦死した。猫が時を知る兵器の役割を担っていた時代もあったのだった。毎年6月10日、「時の記念日」に鹿児島市時計金属眼鏡商組合の人たちが「猫神祠」にお参りをして慰霊し、全国の愛猫者による供養祭と長寿祈願祭(今年は11日)が開かれるという。
   毎日新聞鹿児島支局長 竹本啓自2006/6/5 掲載

ぜいたくな景色

2006-06-05 19:14:28 | はがき随筆
 南北37㌔の海岸線を持つ垂水から見る桜島は、場所によりその山容とコンビネーションを大きく変える。
 道の駅たるみずからは、足湯に浸かると眼前に男性的な迫力ある姿が見られる。錦江湾の北に望める霧島連山とともに、四季の移ろいを感じさせる。
 垂水港からの桜島の容姿は南西方向に聳える薩摩富士の別名を持つ開聞岳と秀麗さを競い合っているようだ。これほど山容が変わるものかと驚く。
 ツツジの名所・高峠に登ると、まるで空中から眺めているような桜島が楽しめる。振り返ると、そこには高隈の峰々が間近に迫る。たまらない。
   垂水市本城 川畑千歳(48) 2006/6/5 掲載