はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

20歳の高校生

2006-06-12 20:40:40 | はがき随筆
 薫風に胸を披(ひら)きて復学す 輝子
 今から40年前の5月9日、念願の夢がかなって高校2年に復学した。肺結核で3年休学、入院していた。私はまるで小学1年生の児童のような大きな声で「行って来ます」と登校したのをはっきり覚えている。他の病院の診断で誤診だとわかった。県立加治木高校に復学。同級生より3歳上だけど、隼人からの汽車通学は楽しかったなあ。美術部で日本画も描いた。私にとって6年かかって高校を卒業したことが、人生の大きなバネになった。逆境が教師となり、息子5人の子育ても終了。元気に還暦を迎えた。
   山口県光市丸山町 中田テル子(60) 2006/6/12掲載

小腹を減らして

2006-06-12 17:14:11 | かごんま便り
 発祥の地は広島県呉市か、京都府舞鶴市か。鹿児島市の多賀山公園に建つ東郷平八郎元帥の銅像を眺めて、肉じゃがの発祥地論争を思い出した。
 最初に「肉じゃが」を作らせたのは、東郷さんだという。英国に留学中にビーフシチューの味を気に入り、帰国してからも忘れられない。艦上食として食べようと作らせたがデミグラソースなどは日本にはない。料理長は醤油、砂糖で味付けし、完成したのがビーフシチューとは全く異なる「肉じゃが」だったそうだ。
 これが結構、おいしく軍隊食となった。「海軍厨業管理教科書」(1938年)には、材料=生牛肉、蒟蒻、玉葱、胡麻油、砂糖、醤油。①油入れ送気②3分後生牛肉入れ③7分後砂糖入れ④10分後醤油入れ⑤14分後蒟蒻、馬鈴薯入れ⑥31分後玉葱入れ⑦34分後終了。醤油を早くいれると味を悪くすることがある。計35分と見積もれば充分――とある。
 東郷さんが初めて司令長官として赴任したのが舞鶴鎮守府だから、発祥の地は舞鶴市だ。いや、それより10年前、呉鎮守府の参謀長だったから呉市の方で先に作られた、とするのが両市の主張だ。肉を焼いて、砂糖を絡ませて調理する発想は日本独特のものだろう。
 さて呉市と舞鶴市のどちらが先か。そんな論争には我関せずといった表情の東郷元帥像は、口元を引き締め、海を見下ろしている。インスタントがハバをきかせているいる時代。発祥地よりも、各家庭の味付けをした「おふくろの味」の肉じゃがが大切なのかもしれない。
 銅像を離れて祇園之洲町にはザビエル上陸記念碑がある。この時にクロープなどの香辛料を持ち込んだという。アントニオ・ゴメス神父にあてた手紙にも「それで神父を乗せて来る船には胡椒をあまり積み込まないで、多くても80バレルまでにしなさい」とあるそうだ。日本には胡椒がなく、たくさん持って来ると価値が下がるということだろう。
 肉食の西洋は、香辛料を求めて海外に競って乗り出し、その貿易により富を追求した面がある。だからザビエル上陸記念碑の横に「香辛料伝来の地」みたいな碑もあっていいんじゃない、と勝手に考えた。
 普通に伝わっている先人の業績よりも、今回は〝食〟の方を考えてしまったのは、小腹を減らして歩き回ったからに違いない。
   毎日新聞 鹿児島支局長 竹本啓自 2006/6/12 掲載