思い起こすと高校3年の秋だった。「それじゃ」「じゃあね」と私は橋のたもとで彼女と別れた。何一つ思う事を話せなかった。甲突川の土手を歩く私には、対岸に真っ赤に群れ咲く彼岸花の道を帰る彼女の姿がまぶしかった。思い切って「さようならー」と叫び手を振ると、「さようならー」と返ってきた。あんなに明るい大きな声が出るんだと、胸がときめいた。あれから55年たった今、あの土手も冷たい石垣やセメントに様変わり、もう彼岸花も咲いていない。そして私の手にしている同窓生名簿には、彼女の名前の横に「物故」と寂しく印されている。
鹿児島市 高野幸祐(73) 2006/11/15 掲載
写真はバセさんよりお借りしました。
鹿児島市 高野幸祐(73) 2006/11/15 掲載
写真はバセさんよりお借りしました。