はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

春眠

2007-04-02 19:40:21 | はがき随筆
 生暖かい春暁、眼が覚めて珍しく二度寝をした。奇妙な夢だった。それは古い木造校舎の廊下で周りは騒がしいのに、子どもたちは静止画。
 箒で掃除している子、オルガンを弾いている子、卓球をしている子らが私を見ているが声はしない。顔も誰かわからないが、長年の教職生活で知り合った教え子たちに違いない。
 1人だけ卒業証書の筒を持った女生徒が笑顔で何か言いながら握手をしてきた。その掌は皺だらけの私の手にはとても温かくぽってりしていた。
 なのになぜか「冷たい手だね」と言った自分の声で眼が覚めた。
   鹿屋市 上村 泉(66) 2007/4/2掲載

ヒラリヒラリ

2007-04-02 19:27:35 | かごんま便り
 日が暮れたばかりの時刻。JR鹿児島中央駅に近い高見橋から何気なく甲突川をながめた。川面をヒラリヒラリと飛ぶ十数羽のコウモリ。道路沿いの街灯にも照らし出された別の一群もいた。
 久しぶりに松尾芭蕉の「蝙蝠も 出でよ(いでよ)浮世の 華に鳥」が浮かんだ。これまでスズメを見れば小林一茶の「雀の子 そこのけそこのけ お馬が通る」もカエルを見たら「痩蛙 まけるな一茶 是にあり」などの句を思い出していた。
 最近は、これらの句とは縁がなかった。都市部でスズメやカエルの姿が極端に少なくなったのか、私に小動物を見つける余裕がなかったのか。理由はいくつも考えられる。
 それが今回、人通りの多い場所で飛び交うコウモリを見て、前述の句が出てきた。ほんと久しぶりだったが、忘れてはいなかった。芭蕉は旅立つ僧への餞別に詠んだという。黒衣の僧をコウモリに見立て、鳥のように羽ばたいて浮世を見て来いという激励の意味であろう。
 コウモリは「川守」のことで、川面などを飛び回って蚊など虫類を食べることから名付けられたという。あるいは、別名「蚊食い鳥」と言うように、蚊を好んで多ベる生態に由来しているともされる。いずれにしろ蚊などを好んで食べる「益鳥」とされていた。
 今でこそ理科の時間などで、コウモリは卵ではなく赤ちゃんを産み、乳で育てるなどの生態から、私たちと同じ哺乳類と学んだ。教えられなければ、私たちと親せき関係にあるとはとても理解できない。
 コウモリは幅広く活躍している。映画ではヒーローのバットマン(コウモリ男)が居て、吸血鬼ドラキュラにはコウモリがつきもの。紙芝居などで見た黄金バットも忘れてはいけない。また中国では幸運のシンボルにされている。蝙蝠の「蝠」が「福」と同音「fu」で、夜に活動するから闇に屈しない魔よけにも通じるそうだ。
 主役から脇役まで幅広く演じている。私たちの親せきという贔屓目もあるし、皆に平穏と安心を与えているから。
 さて統一地方選の最初の県議選が告示された。当選したらヒラリヒラリと態度を変化されるコウモリのように器用な人は不要である。今こそ、鹿児島の未来を託せる一途な信念がある人が必要だ。
   毎日新聞鹿児島支局  竹本啓自支局長 2007/4/1掲載