はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

5月の雪

2012-06-08 18:42:02 | はがき随筆


 このところ、家から5分程の畑の草払いが続いている。
 ひと休みしていると、はらはらと宙を舞うものに一瞬「雪」と錯覚した。
 淡い紫色をした1㌢ぐらいの五弁の花びらは、農道沿いの竹やぶの中にすっくと立っているセンダンの木からこぼれ落ちて来たものだった。
 見上げると空を覆うばかりの巨木だ。少し離れて段々畑から見ると、どんと構えていて雄々しい。
 友にも見せたいとメールをする。何はさておきと2人駆けつけた。「5月の雪」に心弾ませ、少女の頃の夢を語った。
  薩摩川内市 馬場園征子 2012/6/8 毎日新聞鹿児島版掲載

キターッ

2012-06-08 18:17:52 | はがき随筆
 

孫の13歳の誕生祝いをすませて外に出ると、ビルの間の東空は真っ黒だ。
 「こっちへ来る、早く早く」と車に乗って我が家へ。100㍍も行かないうち車の屋根に小粒の隕石の入った黒いオーロラから降り始めた。キターッ。
 そして電車の軌道を越えて更に行く手にはまるで私たちをいざなうかのように噴煙帯がある。トンネルを出たところでついに窓が白く覆われたので停止。新川を渡り墓地への道。紫原も噴煙の流れのただ中にある。
 「年中、県のどこかで、特に大隅半島は大変なのよね」と。いつもの夏の風物詩が。
  鹿児島市 東郷久子 2012/6/7 毎日新聞鹿児島版掲載

婿殿

2012-06-08 18:01:50 | はがき随筆
 2年前、結婚披露宴で新婦が新郎の頬を平手打ちにした。前代未聞の出来事に会場がシーンとなった。後で訳を聞くと、新婦が両親に謝辞を述べている最中、新郎も文を読むのでキレたらしい。その新婦の父親は──私。肝が冷えたが娘にマル。
 婿はいたずら好きで娘が寝ていると目を開き、鼻の穴を広げて嫁から叱られ、飼い犬をじらしてはかまれるという。先日「こんな娘の親の顔が見たい」と言うので「その言葉は返すね」と応じると泣きまねをする婿。
 ふざけ屋の婿殿は医療関係の社長で、商工会のホープだと聞く。盆が待ち遠しい。
  出水市 清田文雄 2012/6/6 毎日新聞鹿児島版掲載

「それなりが良い」

2012-06-08 14:59:15 | 岩国エッセイサロンより
2012年6月 8日 (金)

岩国市  会 員   安西 詩代

 愛車が9年目の車検を迎え、タイヤを取り換えることになった。車検から帰ると車内の音がとても大きくなっていた。調べてもらうと、タイヤそばのベアリングが原因だった。今までの古いタイヤなら調和がとれていたのに、新品になり引っ張られて音が出始めたそうだ。愛車は戸惑って悲鳴を上げているのだと可哀そうになった。

私だって65年間使った足から若い娘の足に替えられ、カツカツとヒールで足早に歩かれると心臓はハクハクするし、心はイライラする。ごめんね! あなたに合ったちょっとだけ新しいタイヤにすればよかったのにね。

 (2012.06.08 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載