
「ちょっしもた、かあちゃん、リールを忘れた」。夜中に起きて1時間もかけて来たのに帰るほかはない。釣り歴50年。今は妻もついて来るようになった。遠投はできないので足元で釣っているが、たまには2号のさおが満月のように曲がり、すくってやる私の方が慌てる。そして沖に浮かびゆっくり流れていたウキが突然水の中に消える。まさしく釣りの醍醐味。昼になれば磯の香りのする中で食べる弁当のおいしさ。ささやかな至福を感じる。釣りは「フナに始まりフナに終わる」とも言う。妻も私も、もうそろそろその時かなと思うこの頃である。
曽於市 新屋昌興 2012/6/28 毎日新聞鹿児島版掲載