はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「けんかの幸せ」

2012-06-30 23:27:35 | 岩国エッセイサロンより
2012年6月30日 (土)

岩国市  会員   山本 一

「明日は釣りに行くから」と言うと「駄目よ。朝から歯医者だから」と妻が返す。最近夫婦のいさかいが絶えない。
 年金生活に合わすため、2台あった車を1台にした。お互いの行動が制限され、とにかく不便だ。週一の釣行は絶対譲れない。妻が自転車で行くということで折り合う。5㌔もあり、何だかかわいそう。「出発を遅らせ、歯医者へ送ってから行くよ」と少し譲る。
 ところが、翌朝急に体調が悪くなる。喉は痛いし体はだるい。とても釣りに行けない。妻も心配顔になる。「車の取り合いができる幸せ」にお互い気付く。

(2012.06.30 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載

面ファスナー

2012-06-30 20:35:55 | はがき随筆

ゴボウの花


 左手が不自由になった母、食事の折り、こぼしてもいいように脱ぎ着が楽な面ファスナー止めにした。母は簡単に付けられると喜んだ。もう思い出になった。面ファスナーは開閉が手軽にできるため衣服や靴などさまざまなものに利用されている。
 昨年、趣味の菜園にゴボウを植え、花を見たいと2本だけ収穫せずそのままにしていたら、茎が伸び、想像もしなかった赤紫色の頭花をつけた。球形の実になり、剛毛があり、作業服についたら簡単に落ちなかった。
 面ファスナーはこのゴボウの実の構造から生まれたそうだ。着眼に敬服した。
  出水市 石神貞子 2012/6/30 毎日新聞鹿児島版掲載

明日もおいで

2012-06-30 20:09:43 | はがき随筆


 実家の庭に毎日スズメがやって来る。お米をまくからだ。まず偵察隊らしき2.3羽が食べ初めと、すぐに20羽ほどがやって来る。お米の場所を少しずつずらし縁側に降り口の石段に置いてみると、そこでも平気で食べるようになった。いつも昼前にやるのだが、時々忘れていると省察隊員が催促に来る。石段に立ち、うーんと首を伸ばし「お米まだあ?」という顔でガラス戸からのぞき込む。その可愛いことったらない。大切なお米だからたくさんはやれないのだが、家の中をのぞき込まれるとつい負けてしまう。こんなちょっとしたことが私の幸せだ。
  鹿児島市 種子田真理 2016/6/29 毎日新聞鹿児島版掲載