はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

化石の観察

2007-04-18 07:27:28 | はがき随筆
 西之表市の教育委員会が催した〝自然ウォッチング~化石の観察~〟に参加した。小学生の子を持つ親子連れに混じって、老夫婦はついていくのに息を切らしたが、130万年前の西之表象の化石が発掘され、そのころ種子島は大陸と陸続きだったことなどを知るなど、大いに勉強になった。実際に岩石をハンマーで叩き割り、巻き貝や二枚貝の化石を自分の手で探し出す楽しみも味わうことができた。夢中になって岩を割る子供たちの姿を見て、この中から将来考古学者が出たりして……などと思いを巡らす。小さな島の貴重な歴史のページに触れた。
   西之表市 武田静瞭(70) 2007/4/18 毎日新聞鹿児島版掲載

反抗期?

2007-04-17 07:24:26 | はがき随筆
 父の七年忌が近づくにつれて、気ぜわしい日が続く。母は何も関係がない感じですましている。
 「お母さん、自分のベッドの周りの片づけはしてね。私は忙しいから」。何回言っても動かない。語気を強めると、自分の部屋へヨタヨタしながら歩き始めた。そして、途中にある押入を足で蹴った。すぐ後ろにいた私も真似をして、膝蹴りを入れたら痛みが走り、しゃがみ込んでしまった。
 「掃除くらいしてよ」。涙声で言うと、母は飛ぶようにトイレに入り、立てこもってしまった。第4反抗期かなあ。
   阿久根市 別枝由井(65) 2007/4/17 毎日新聞鹿児島版掲載

今年の桜

2007-04-16 07:11:07 | はがき随筆
 阪神競馬場は満開の桜で迎えてくれた。最高潮は桜花賞レースで、咲く桜と共に堪能する。ちょっと寂しくなった懐を抱えて翌日は京都へ。京の桜は優しい。東山の峰々を借景に歴史ある建物と解け合い絵のようだ。清水寺から平安神宮まで歩く。途中、高台寺、円山公園、八坂神社、知恩院など、それぞれの桜が目を楽しませてくれた。3日目は造幣局の通り抜け。種類の多さに驚く。映像では見ていたが、足を運んで目の当たりにした感動は、筆舌に尽くし難い。桜三昧の旅ではあったが、どの桜よりも妻の笑顔が……。おっと言わぬが花かしら。
   志布志市 若宮庸成(67)2007/4/16 毎日新聞鹿児島版掲載

クスの並木

2007-04-16 07:02:14 | はがき随筆
 大学の中の道を東進し、あてにしていたところは午後休み。電車通りに沿って広い歩道をゆったり歩き、別のところでフイルムを出すと、新しいものだという。
 この間終了したはずなのに。「こりゃだめだ、今日は」と独りごちながら、本屋へ。これも又、もとの場所にないことに気づいた。帰りに郵便局に寄り、付属小から大学へ入ってスズカケの実を拾った中の道路を西へ。これがまた素晴らしい。
 クスの新緑の放つ香りにしばし全身をゆだねながらゆるく歩いて快気。
   鹿児島市 東郷久子(72) 毎日新聞鹿児島版掲載

不可解な出来事

2007-04-16 06:55:57 | はがき随筆
 路面電車に乗っているといろいろな人間模様に遭遇する。ある日、高齢の男性が乗って来るなり、若い女性2人に「なんで座っているのか、立て」と叫んだ。一瞬、我が耳を疑った。席は空いているのになぜ? 高齢者が乗って来たら若者は皆、立てということなのか。「高齢者に席を譲りましょう」。これは満席で高齢者が座れない場合であるはず。「絶対に席を立つ必要はない」。私は口に出そうになったが、ぐっと堪えた。その女性達は降車するまで立たなかった。世の中、まさかと思うことが起きるものである。実に不可解な出来事だった。
   鹿児島市 川端清一郎(60) 2007/4/16 毎日新聞鹿児島版掲載

桜島は友達

2007-04-16 06:49:25 | はがき随筆
 バスを降りたら、春の暖かい日差しを浴びて桜島が笑っていた。真っ青な空をバックに、山ひだまではっきりと見える。いつだったか私の悲しかった日、しとしとと降る小雨の中で君は、薄ぼんやりと見え隠れしてつらい私を見守ってくれたねえ。今日は又どうしてそんなに笑っているのかい? 見ていたのかい? そうだよ、私はバスの中であの人と会えたんだ。ただ話をしただけだったけど、私はそれだけで嬉しかったんだ。それがそんなにおかしいのかい、いいじゃないか私が嬉しいんだから。そんなに笑うと、顔の皺が又、増えるぞ。
   鹿児島市 高野幸祐(74)2007/4/16 毎日新聞鹿児島版掲載

静と動

2007-04-16 06:41:47 | はがき随筆
 地区の書道会の作品展を知り、元気な子供達の声に吸い込まれるように会場の公民館に入った。書き初め展・夏休み書道展・九州書道展などの他、硬筆・ペン字講座の作品が所狭しと展示され目を見張るばかりだった。小中高一般の作品は個性あふれ存分に自己を表現し、しとやかさと力強さは技を超えて見る者の胸を打つ。先の子供も静かに集中して作品と取り組み、時にはサッカーや剣道などで動き回り身体を鍛える。人間形成には年齢を問わず、こんな動きと静かさが適宜交錯し、偏らないことが大事であろう。
   薩摩川内市 下市良幸(77) 2007/4/16 毎日新聞鹿児島版掲載

教職員の異動

2007-04-16 06:34:33 | はがき随筆
 先日、教職員の人事異動が発表になった。希望がかなった者、気の進まない地域へ異動する者など、さまざまであろう。でも、誰が考えても理解できる特別な事情がある者は別として、教師になった以上は、どんな地域へも喜んで赴任し頑張ってほしい。子どもたちは、新しく赴任される先生方を首を長くして待っている。かく言う私も元教師で二十数年前、十島村の宝島という小さな学校へ赴任して素晴らしい体験をした。先生方はどこへ赴任しても、そこの子どもたちのために、全力で職責を全うしてほしい。
   南さつま市 川久保隼人(72) 2007/4/16 毎日新聞鹿児島版掲載

夢に見た夫

2007-04-15 17:48:47 | はがき随筆
 看病する間もなく急死されてみると、自分の至らなさだけが責められて、同時に夫の優しさだけが思われて涙が止まらない。特に夕方や雨の日には夫恋しさに嗚咽どころか号泣となる。押し寄せる満ち潮のような悲しみに溺れそうになる。あまり嘆くと後ろ髪を引かれてご主人が天国への階段を登れませんよ叱ってくれた人がいた。そんな時に夫の夢を見た。灰色がかったブルーの背広姿で、青年に若返った夫が私の目の前を、私には目もくれずに、さっそうと過ぎ去った。短い夢だったが、以来、夢に見た夫を思い浮かべると不思議と心が安らぐ。
   霧島市 秋峯いくよ(66) 2007/4/15 毎日新聞鹿児島版掲載

帰還

2007-04-14 08:04:45 | はがき随筆
 「お帰りなさい!」「久しぶりですねー、先生!」。親しい人達が、子どもたちが口々に私を迎える。喜界島の海は明るく、青く、空の色を映し、道端には名前を知らないままの草花が春の風に揺れている。
 にこやかに会釈する見知らぬ島の人々、無邪気で純朴な生徒達、支えてくれる同僚達、美しい自然。そんなことにちっとも気づかずに、孤独を抱え込み、どうして私は病んでしまったのだろう?
 そんな事を考えながら近所を散歩する私の足取りは軽く、でもなぜか鼻の奥がツンと熱くなる。
   喜界島 福崎康代(44) 2007/4/14 毎日新聞鹿児島県版掲載

老いの春

2007-04-13 08:11:27 | はがき随筆
 春らしく暖かくなってきた。夜明けが早く、日の入りが遅くなり、日脚が伸びたのは早起きの身にとって何より嬉しい。いつものように4時に起き、新聞を読んで5時半に外に出ると、空が明るいブルーに変わり明け初めてゆくのが美しい。
 港に行ったり、砂浜を歩いたりして、しばらく散歩。途中で短歌や俳句ができたりする。一層うれしい。まだ現役の田舎医者なので、8時からは仕事が始まる。老いて尚、仕事も趣味もあるというのはしみじみ幸せなことだと思う。健康に留意してもう少し頑張ってみたい。 
   志布志市 小村豊一郎(81) 2007/4/13 毎日新聞鹿児島県版掲載

にゅうえんしき

2007-04-12 10:36:16 | アカショウビンのつぶやき






 信愛幼稚園の入園式に参加した。

と言っても「ひ孫」が入園するわけではありません。
役員として招待されたという次第。
今年から入園が認められた、可愛い二歳児も先生に手を引かれて入場。
在園児の年長さんは、会場で小さいお友達を迎える。

どうしてもママから離れられない子。
泣きじゃくり「だいじょうぶ・だいじょうぶ」と、
健気に自分に言い聞かせつつママの胸にしがみつく。
ようやく、優しい先生の腕に抱かれた幼子の不安そうな眼差しに胸が痛む。
うちの二人の子どももなかなか幼稚園に馴染めなかったなぁ。

泣き声の協奏曲が続くうち、先生方の歓迎のプログラムが始まると
ピタッと泣き声が止み、涙を拭きながら楽しい歌声に聞き入っている。
さすがプロの先生だなあ…。

年長組さんの「お迎えの歌とお迎えの言葉」は、元気よくしっかり歌えて年長さんの面目躍如。

信愛幼稚園の目標は
『神を畏れ敬い、人を愛し尊ぶ心をもち、健全明朗な社会人に育てる』こと。
子どもを取り巻く環境が厳しい今の時代、この澄んだ眼差しの幼子たちが成長し、
健全な社会人として育っていくための第一歩が今スタートしました。

「幼児期にこそ根っこをよい栄養や水で養い育てます。
時が来ると美しい花を、きっと咲かせてくれるでしょう。」

とお話されたように、幼子たちがいつも神様に守られて大切なことをいっぱい学んで成長出来ますようにと祈るアカショウビンでした。


母の迷い

2007-04-12 09:27:48 | はがき随筆
 ひとり暮らしの母が腰痛になり、入院して3カ月たった。年齢ゆえの圧迫骨折といわれた。退院間近になり、リハビリはしているものの杖で歩けない。歩けなければ一番帰りたい家でひとりで暮らせない。
 頼みの息子二人は遠くに住み、娘の私が車で40分、妹が20分のところから母のもとに通っている。大正3年うまれ、93歳。退院後、娘の家に滞在することに一大決心を強いられている。
 母さん、退院までリハビリがんばって、どちらにするか決めればいいよ。帰りたければ帰ればいい。ひとり暮らし、応援するよ。
   出水市 中島フヂ子(61) 2007/4/12 掲載

バスの中で

2007-04-11 22:43:31 | はがき随筆
 車内はすいていた。一人の婦人が携帯電話でしゃべっている。かなり高いだみ声だ。周囲の乗客が目でとがめても平気の平左。ついに運転士が「すみませんが携帯は遠慮してください」と注意してもきかない。ややあって運転士が今度は「小さな声で話してください」と言ったのには驚いた。そして、おかしくなってきた。
 私が降りる時、運転士に「近ごろは『遠慮してください』では通じないね。はっきり『やめてください』と言わなきゃ駄目だ」と言って互いに苦笑したのであった。笑って済ませることだろうか?
   鹿児島市 渡辺 正(81) 2007/4/11 掲載

一本桜

2007-04-10 10:28:11 | アカショウビンのつぶやき
 朝ドラ「どんど晴れ」の一本桜の息を呑むような姿にはかなわないけれど、こちらの一本桜も、今、花盛り。
市役所駐車場の中央にたった一本、大きく枝を広げて咲く桜。周りはアスファルトで塗り固められ排気ガスの充満する中で健気に咲き続けている。我が家の窓からお花見できる嬉しい桜でもある。
 30年前私たちがこの地に引っ越して来た頃は、ここに営林署官舎が何棟も並び、美しい生け垣、大きな銀杏や花木で緑いっぱいの場所だった。
 廃線となった旧国鉄大隅線、鹿屋駅跡地に市役所が移転して16年。
周辺が駐車場として整備され、樹木の殆どが切り倒され、残ったのは生け垣少々と桜の木一本。

 駐車中の車が散りゆく花びらで彩られるのも、間もなくだろう。

 桜吹雪の中に佇むと、遠い日の記憶の一頁、母の車椅子押す夫と三人で眺めた、あの日に戻れそうな気がする、アカショウビンです。