不意に日が陰り、室内が暗くなった。慌てて空をうかがうと、怪しげな黒雲が分厚く広がっている。あれは雨雲ではない。小走りで家中の窓を閉め、半乾きの洗濯物をひったくるように取り込む。今、頭上を桜島の火山灰が通過中なのだ。
向かいの山がみるみるうちにかすんでいく。灰はとうとう地上に降り始めた。近所のアパートの出窓にある小さな鯉のぼりが、降灰にうなだれている。旧暦で節句を祝う鹿児島では、まだ鯉のぼりが飾ってあるのだ。空き地に駐車している白い車も赤い車も、すりゴマを振りかけられたようになっている。
思わず天井を見上げる。去年の秋に瓦をふき替えたとき、業者さんが「屋根の下にたまった灰がものすごい」といっていたからだ。雨どいも灰の重みでゆがんでいたらしい。知人の家では、雨どいに灰が詰まったのが原因で、仏壇に雨漏りがしたそうだ。
実は灰は重い。雪のように溶けないし、雨が混じればもっと重くなって、底に吸い付いたようにたまる。しかも近ごろの桜島の元気なこと。とにかく活発に噴火している。
しばらくすると風向きが変わったのか、薄い青空が戻ってきた。灰だらけの庭に、小鳥も戻ってきた。
さあ、今のうちに犬の散歩に行ってこよう。それから苗物の世話も。ニガウリ、アサガオ、ミニトマト。私も負けずにこの夏を乗り切らなくては。
鹿児島市 青木千鶴 2012/6/19 毎日新聞
女の気持ち欄掲載