庭戸を出でずして(Nature seldom hurries)

日々の出来事や思いつきを書き連ねています。訳文は基本的に管理人の拙訳。好みの選択は記事カテゴリーからどうぞ。

第六章 トーイング

2005-01-01 22:01:00 | 大空

 
 エンジンユニットによるパワー以外の力を加えることによって、グライダーに推力を与え、上昇させることをトーイングといいます。トーイングには人力によるもの、スクーターを改造したもの、車やモーターボートなどに装着したトーイングマシンを使ったものなどがありますが、最も簡単なのは人力による「マンパワー・トーイング」です。グランドハンドリングで基本的な操作をマスターしたら、トーイングによっていよいよ空中でグライダーのコントロールを学ぶことができます。

 マンパワー・トーイングは、推力に人力を使うわけですから、フライヤーの技術だけでなく、トーオペレータ(パワーをかける人)の技術も伴わなければ非常に危険なものになります。空中を「飛ぶ」という行為は1mの高度でも1000mの高度でも、基本的にその内容に変わりはない、ということを頭に入れておいてください。

 航空機の推力にプッシャー式とトラクター式があるように、マンパワー・トーイングにも「押す」と「引く」の二種類があります。

最も簡単で安全なのは「押す」トーイングです。適当な風がある時にグライダーを安定させた後、後ろから押してもらいます。パワーユニットの推力もこの「押す」力です。揚力が重力を超えたら上昇を始めることは前に述べました。

 上昇にしたがって押す位置を背中からハーネスのシート部に移すと、フライヤーを下から支える形になりますから、結果的に重量を減らすことになり、上昇力が増加します。しかも、トーオペレーターがフライヤーの体勢を把握しながらできますから、きわめて安全です。ただ、上昇できる高度がトーワーの手の届く所まで( 1m~2m )と限界はあります。

 「引く」トーイングは「押す」時と同じように、トーオペレーターが手で持ってする方法と、トーイグロープを使う方法があります。手で持つ場合は、安全性は「引く」場合とほとんど同じであり、グライダーも見ながらできる利点がありますが、やはり上昇高度の限界があります。ロープを使えば理論的にはその長さだけ上昇することができますが、フライヤーとの間に距離ができるために、よほどトーオペレーターの技術がないと、風の強さと高度に比例して危険度が増加します。




 ロープ・トーイングをする上での注意点を整理しておきます。

1.「パワー」と「リリース」の合図は必ずフライヤーが行う。緊急の場合を除いてトーオペレーターの判断で行わない。
2.引く方向は風軸に合わせて行う。グライダーが左右に移動したらそれに合わせて常に風軸からずれないようにトーワーも移動しなければならない。グライダーの傾きをトーオペレーターが修正しようとして、傾きと反対方向に引く間違いをしがちだが、これはフライヤーをセンターから傾きを加速する方に引き寄せることになる(ロックアウトという)。
3.パワーのかけ方の緩急はフライヤーの技術に応じて行う。特にリリースは急激に行うとグライダーがピッチダウンして急速に降下する。
4.フライヤーやグライダーの動きから目を離してはいけない。もしどちらかに異常な動きが見られたら、速やかにスムーズにリリースしなければならない。
 
 次にフライヤーの操作を整理しておきます。

1.グライダーの安定を確認したら、「パワー」の合図を発する。これは自らユニットのスロットルを引く操作に当たる。
2.パワーを感じながらハーネスに揚力を感じたら、ブレークをニュートラルからハーフくらいまで当ててテイクオフのタイミングを作ってやる。
3.足が地面から離れた後は、ブレークを元に戻し、グライダーを安定させたまま上昇を続ける。ローリングを起こした場合は滑らかな操作でそれを修正する。
4.適度な高度で「リリース」の合図を送る。これがユニットのスロットルを放す操作に当たる。リリースされると、多少ともピッチングを起こすから、ピッチダウンを起こす前にフレアを適量当ててグライダーを通常滑空の状態に戻す。
5.上空でグライダーを安定させることを習得したら、多少偏流させたり、左右にスラロームしながら滑空する練習をする。
6.ランディングでのブレーク操作は基本の通り、ニュートラルからハーフブレーク、フルブレークの順に滑らかに行う。

 
 トーイングはパワーユニットを使わないで、グランドハンドリングから上昇、飛行に移る動作、短い時間ではありますがフライト技術そのもの、またランディング技術を習得することができる非常に有効で楽しい練習方法です。

しかし、普通の練習と違って一人で行うことはできません。熟練したトーオペレーターの技術とフライヤーとの呼吸の一致がなければ、ライズアップ自体が困難な強風下で行ってはなりません。
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