庭戸を出でずして(Nature seldom hurries)

日々の出来事や思いつきを書き連ねています。訳文は基本的に管理人の拙訳。好みの選択は記事カテゴリーからどうぞ。

北方への旅 総ルビ

2006-10-14 19:42:46 | 大空
深澤正策訳の『北方への旅』にざっと目を通した。これも手ごたえのある末曹セ。使われている漢字は旧字体ながら、総ルビのおかげで何の無理もなく読み進めることができる。

定価は一円五十銭。きつねうどんが一杯10銭、新聞の月額が90銭の時代だから、今の物価で5000円ほどの感覚だろうか。しっかりした装丁の表紙に文字はなくリンドバーグ夫妻の水上機(シリウス号)の平面図がクッキリと刻印してある。一体どれほどの人がこの本を読んだのだろう・・・世界恐慌まっただ中で喘いでいた多くの庶民が簡単に買えたとは思えない。

ちなみに、明治以降、膨大な外来語の当て字や筆者の意図する漢字の読み方として、新聞・雑誌など書籍類は全てルビがふってあったのだが、1938年に山本有三がルビ廃止を提唱し、それを政府が真に受けて「ふり仮名禁止令」に至り、1946年の当用漢字表告示で原則使われなくなった、という歴史がある。

山本がどういう理由でルビの廃止を言い出したのか知らないが、よく言われる若者、のみならず私も含めて現代人多数の漢字力の拙さは悲しいばかりだ。私はその原因の一つが、この「ルビ廃止」あるような気がしてならない。ルビによる読み仮名があればどんな複雑な漢字もちょっとひねった言い回しも筆者は読者に遠慮することなく使えるわけだし、読者も抵抗なく読めるわけだから、良いことずくめのように思われる。あえて難点をあげるとすれば、出版社の手間がかかるということのみではないだろうか。

ともあれ、昭和初期の深澤氏の末{を表から裏まで眺めながら、激動の70年間で変わったこと変わらないことに暫(しば)し思いを致すことにした。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿