夫がヤフオクで売るためにどこかから出してきた本。
テレビ番組「探偵ナイトスクープ」に届いた視聴者の依頼がきっかけの「アホバカ語」の研究、テレビというメディアの利点を生かし、今まで誰もなしえなかった日本語の発生と伝搬という大きなテーマを、たくさんの専門書にあたり、学者の教えを請いながら、エンターティンメントにして知的刺激に満ちた本に仕上がっています。
とても面白く、450ページもありますが、朝起きてからと夜寝る前に読んで、4日ほどで読みました。
文化が京都を中心とした同心円状に広がる、それをアホバカ語で鮮やかに実証してみせる。そこのところがたいそう面白かったです。
バカは中国唐代の白氏文集にあるそうで、馬という家の者の驕り高ぶり、やがて没落するようすから。アホは室町時代、江南の方言、阿呆(アータイ)から来たのでは、言うのが本書の仮説。京都五山の学僧の講義を書き留めたノートにあるそうです。
いろいろな状況証拠から、はっきりした資料が見つかってこの説が正しいことになればいいなと私は思う。
それにしても平安時代の京都ではバカが通用していたなんて、本当にびっくり。紫式部にせよ、清少納言にせよ、その著作の中にたった一言入れてくれてたら、言葉の広がりが分かりやすかったのに。
「・・・もう、女三宮様ったら、夫のいる身でバカなことして・・・」とかいう風に。
わが実家地方(香川県)ではホッコと言う言葉があります。本書では古事記にあるヲコが訛ったのではないかとの指摘。おこがましいはヲコが今に残る形だそうで。
私の体験では、ホッコは本当の方言。私が子供だった60年ほど前にはもう年寄りしか使わず、ホッコマイとかクソボッコ(最上級)などの言い方もありました。
そのほか祖母の言葉として「タラズ」「ヒチリン」なども。タラズは足らずで、万葉集にもあるとか。ヒチリンは関西風に訛っているのでほんとうはシチリン、七厘で一分に足りない意味だそうです。
その他にも祖父母は標準語と違う豊かな言葉をいろいろ知っていたと思うのですが、今はもう確かめようもなくて残念です。
実母は山間部の出身ですが、高松市内と微妙に言葉が違う。単語も違うのがあって、それも古語から来たのかと類推するのです。
言葉が伝搬する速度は一年に約一キロ、東北と南九州に似た言葉が残る。その先のない山奥の集落や紀伊半島、能登半島にも古い言葉が残っている。
大変面白く読みました。
さらにこの本には当時番組のディレクターをしていた百田直樹のいい加減ぶりが余すところなく、リアルタイムで書かれています。
知的好奇心に乏しく、仕事はずさんで、思い込みが激しく、自説を変えない。
https://biz-journal.jp/2015/07/post_10589.html
そんな人がベストセラー作家になっているのは、今の日本人の知的レベルの合わせ鏡のようで、実に情けない。百田尚樹の人物像も全く私の想像通りで、こんなの収穫と喜べないけど、まあ知らないよりはまし。
アマゾンでは1円。
夫のこの本、果たしてヤフオクでは売れるでしょうか。面白い本なのに・・・