やっと回復した腰が、先週ちょっとした動作でまた再発。
普通にしていれば問題ないのだが、まだ長時間歩くのは少し不安が残る。
仕方ないので奥様たちには断りを入れて今週の山歩きはお休みする事にした。
あまり歩き過ぎると腰に張りがでてしまい良くないが、家でじっとしているのも良くない。
普段からディスクワークでほとんど身体を動かしていないので、適度に歩くのが一番の良薬。
そこで麵法師さんが企画したWOC登山部の林業体験ツアーに参加する事にした。
講師は琴南町で夏場は農業、冬場は林業を退職後に本格的に始めたNさん。
杣人(そまびと)Nさんは麺法師さん、ツーさん、みやさんの高校の同級生。
そのNさんから麵法師さんに、林業の事をもっと知って欲しいと連絡があり、
今回、メンバーを募っての見学会・体験会の企画となったそうだ。
集合場所の琴南支所にはまんのう町の地域おこし協力隊の二人を含めて、
WOCのメンバー男女14名が集まった。
と、その集合前に少し遠回りをして以前から気になっていた広棚花の里を
覗いて見ることにした。毎年この時期になると国道193号線を夏子ダムを過ぎ
大滝山への分岐に芝桜の幟が立てられている。
いつも山に出かけるときにその幟を目にするのだが、今まで立ち寄る事はなかった。
今日は集合時間がゆっくり目なので、少し早めに家を出て丁度
見頃だろう芝桜を見てから琴南支所に向かう事にした。
大滝山への分岐からどんどん高度を上げていくと10分ほどで広棚の集落に着いた。
まだ朝の時間も早く他に観光客の姿もなく、集落の斜面一面に植えられた芝桜の絨毯が
朝の光を浴びて輝いていた。この芝桜は過疎化した中山間部にある実家の畑が、
父母が倒れて手がかけられなくなり荒れそうになった時、三姉妹が花の咲く中で
両親を見送りたいと畑に芝桜を植え始めたのがきっかけだそうだ。
今では集落の住民のほとんどが花づくりに協力し、休耕地や家の周りに様々な花を植え、
『広棚の花の里』として名所になっている。中山間部の芝桜と云えば高開の芝桜を思い出すが、
高開の石垣と芝桜とはまた違った、山の斜面に広がる芝桜は圧巻だった。
駐車場の脇に植えられている菜の花と八重桜はもう終わりを告げようとしていたが、
ここからの景色も満開の時期にはさぞかし見ごたえがあっただろう。
赤やピンクの色に染まる畑と花の匂いに包まれてしばし見とれていると、集合時間まで
あまり時間が無くなってきた。慌てて車まで戻って広棚の集落を後にする。
琴南支所にはすでに全員が集まっていた。最初に麺法師さんから杣人Nさんの紹介。
その後、Nさんから今日のスケジュールの説明があった。
四人の同級生
最初に向かったのは山林ではなく、Nさんが設置している、営農型太陽光発電。
太陽光発電と農業生産を両立させた取り組みで、ここでは太陽光パネルの下で
日陰になっても育ちやすいシキビが植えられていた。この営農型太陽光発電は
売電収入や作物の販売が主目的ではなく、あくまでSDGsの取り組みが目的だとNさん。
次に向かったのはヒノキの植栽地。以前に伐採された斜面に平成29年から
現在までにヒノキの苗木を植栽している場所だった。
その植栽の様子を見学するために、今から斜面を登るという。林業見学・体験と言う事で
気軽に参加してみたが、見上げる斜面はなかなかの傾斜。メンバーの中からは
『ここを登るの~?』という声が聞こえてきた。
余り慣れていないメンバーにとってはヒノキの林の中の九十九折れの道が
とんでもない急登に見えるようだが、このところ奥様たちとの山歩きでは
まあまあ頻繁にこれくらいの急登は登っているのでリハビリにはちょうどいい。
日陰のヒノキの林の中から日当たりのいい植栽地に出ると、Nさんから
植栽についての説明が始まった。杣人Nさんにとっては普段の仕事場なので
何でもないように立っているが、説明を聞いているメンバーが木に掴まっている
様子から判る様に、自立するのにも難しいほどの斜面なのだ。
この植栽地は更新伐として、新しく山を作るのではなく、
主伐できるレベルに育っている木を伐採し、その跡地に別種の苗を植え替えて世代交代する事により、
新たな森の活性化と再生を目的としている植栽地だそうだ。
最初の植栽地から更に上に登って、下草の茂った足元の悪い植栽地の中を歩いて行く
さらに高度が上がって東側の眺望が広がってきた。澄み切った青空の下、新緑色の大川山。
山裾には平川の下流にできた小さな扇状地と、この辺りの田植えは少し早いのだろうか?、
もう水を張った水田が目につく。
視線を南に移すと笠形山の稜線。振り返ると三角の山は高鉢山と飯野山だろうか?
尾根の反対側はゴルフ場。広々とした芝生の上でプレーしている人の姿が見える。
植栽地の上端に沿って南に歩き少しづつ下って行く。水を張った水田が周りの影を映し出している。
植栽地の途中に一本の立ち枯れた木。安全に伐倒できる巻き枯らしという手法がとられている木だ。
幹表面の樹皮を1周、剥いだり、傷を付け、立木を倒さないで、枯らすことを「巻枯らし」というそうだ。
ただ「巻枯らし」は、完全に枯れる(1年程度)まで、生立木を加害する害虫が
大発生し、残った木への影響が危惧されるという問題点もあるそうだ。
さらにその下には巻き枯らしの木が、根が浅かったせいか根返りして倒れてしまっていた。
植栽地を下ると樹齢70年近くのスギとヒノキの林に出た。
Nさんが管理する林の中では一番樹齢が古い林になるそうだ。
少し谷筋になった場所に真っすぐに伸びたスギが立っていた。最初の植栽地から
Nさんからの講話が場所場所であったが、ここでも自身でしょうもない講釈と
言いながら語ってくれたのが、尾根マツ・谷スギ・中ヒノキという語呂のいい言葉だった。
乾燥に強いマツは尾根に、水が好きなスギは谷筋に、そしてその間にヒノキを植えるゾーニングが、
土に合わせた昔からの工夫だそうだ。
山から降りた後、車を停めた場所の近くでNさんが用意してくれたヒノキとスギの
苗木を記念で植樹する事になった。鍬で掘った穴に苗木を植え、周りの枯れ葉を取り除いて
土をかぶせて、踵で踏み固めていった。つま先ではなく踵で踏むのは、出来るだけ
硬く踏み固めた方が生育にはいいそうだ。
植樹を終えた後は昼食。今日は近くにある三嶋製麺所で釜揚げうどんを頂く。
醤油と生卵にネギを載せただけの素朴なうどん。いつもは注文しない大もペロリだった。
メンバーが食べ終える頃にこれまた麺法師さんの同級生のYさんがやって来た。
普段からNさんと二人で山での作業をしているそうだ。
5人の同級生
次に向かったのは更に南に車を走らせた場所にある落合橋。国道438号線から
真鈴峠に向かう分岐となる場所にある橋だが、この橋の欄干にこの地区の歴史が形取られいた。
水田が多く畜力を必要とする讃岐と、山間傾斜地で畑作が盛んであり、一家に一頭牛を
要する阿波との間で「借耕牛」の取引が行われ、多数の牛と人々の往来で賑わった地域。
仕事を終えた借耕牛は報酬として得た米俵を積み、貸出農家の元へ返されるが、
これが米の少ない阿波にとって大きな魅力となり、借方の讃岐とあい補うものとなった。
その様子が橋の欄干のデザインになっていた。橋の西側は讃岐に向かう借耕牛。
そして東側は背中に米俵を背負って阿波に帰る借耕牛の姿がデザインになっている。
さらにNさんの説明では、讃岐に向かう借耕牛は頭を持ち上げ前を向いているが、
農作業を終えて帰る借耕牛はこき使われ疲れ切った様子で、うなだれているという。
その借耕牛の様子は瀬戸の島からさんのページに詳しく書かれている。
落合橋で借耕牛の話を聞いた後、真鈴峠に向かって県道を走って、野田小屋地区にある、
Nさんの別の植林地に向かう。間伐され枝打ちもされ管理されたヒノキの林は陽の光が届いて明るい。
山を歩いていても手入れされていない林は薄暗くあまりいい雰囲気がしないが、
手入れされている林は歩いていてもとても気持ちがいい。先ずは間伐を体験するために
目印を付けていた木までは林の中の斜面を登って行く。
先にNさんが手本を見せてくれる。斜面の下側に幹周りの1/3ほど水平と斜めに切れ目を入れ
三角形の空洞を作り、次に反対側から水平に切っていく。チェーンソウが廻らなくなったら
全部切れた事になるようだ。その後チェーンソウを抜いて、丸太を使って斜面の下側に木を落とし、
少しずつ末口を倒しながら、斜面の上に向かって倒していく。周りの木々の枝ぶりや足元を
確認しながら、安全に倒していく。倒した木はその場で枝打ちをして、今回は荒廃地の杭として
3メートルの長さに切って出荷するようだ。Nさんの手本の後、希望者が一通り体験してみる。
伐採を体験した後は枝打ち体験。10年目の手届きまで枝打ち、以後3mぐらいまでは
二段鋸で、最後に高所になると登降機を使って枝打ちするそうだ。
今日はその登降機を使っての枝打ちを体験させてくれた。
足掛け部と腰掛け部の二つに分かれていて、体重を掛けると木に巻き付けた
チェーンがストッパーになって固定される仕組みで、腰掛けながら安全に
負担がかからず作業ができると言う優れモノだつた。
木の上に向かっては、腰掛けた状態で足掛け部を持ち上げて行く、
その様子を見ていると尺取り虫が木を登っている様な感じに見える。
枝打ちを体験した後は間伐した木を運び出す。今回は3mほどの長さなので
ロープを使って道まで運び降ろしていく。今までの体験は腰に負担がかかるといけないので
遠慮していたが、歩いて降りるだけの動作は問題ないので今回初めて体験させてもらった。
木に巻いたロープを下手から引っ張って木を降ろすのだが、急な斜面もロープを掴んで
降りているような感じで、見た目より随分と楽に降りていけた。
大型犬と散歩するツーさん(笑)
ロープの数が足らずに手で降ろしているみやさんは、随分と苦労をしている様子だった。
枝打ちされた跡は、木にセミがとまっているいるように見えることから
蝉止まりと呼ばれているそうだ。この木には蝉が沢山とまっている。
この植栽地は約5反の面積。1反辺り300本程植えられたが、その後間伐して150本程になっている。
枝打ちだけで1本あたり5・6分の時間がかかるそうだ。移動や道具の準備を含めると
枝打ちだけでも結構な時間がかかる。その上下草刈りや間伐の作業も必要だ。
車を停めた場所まで降りて今回の講師のNさんから、今までの取り組みや考え方や
思いについてお話頂いた。今日一日を通して感じたのはまず作業の大変さ。
とてもじゃないが今の私には無理な作業ばかり。(山の登り下りを除いて)
そしてその割に利益の出ない林業。ただ林業の機械化・自動化によって最近は
若い世代の従事者が増えているという明るい話題もあるが、重労働であることに変わりはない。
重機での作業が増えても、チェーンソーと燃料を担ぎ、山林に割って入って伐倒したり、
苗木を背負って山の斜面を登り植林したりするなどの作業は多くある。
夏は虫に悩まされ、チェーンソー作業や木材の伐採、搬出作業は常に危険と隣り合わせだ。
Nさんも常にヒヤリ、ハットは絶えない為、作業に入る前は山の神に安全のお祈りをし、
山から下りたら無事のお礼のお祈りを毎回欠かさず行っているという。
そんな困難を覚悟したうえで若い担い手がどんどん山に入ってくれ林業が
見直される時代が来ることを願った一日だった。
メンバーもまた機会があれば見学会や体験会を催して欲しいとお願いをして別れた。
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