KAZASHI TREKKING CLUB

四国の山を中心に毎週楽しく歩いています。

大嶽のあの大岩壁のロープの先にある景色は?

2024年12月26日 | 香川の里山

2週間前に歩いた小豆島の洞雲山・碁石山。そこから最後に登った大嶽の山頂からは眼下に草壁地区内海湾

さらには島の岬と瀬戸内の海の絶景が広がっていた。そして目の前には荒々しい岩肌の大岩壁がそそり立ってい

た。左右に立つその大岩壁の左の岩肌をよく見ると、斜めにロープが垂れ下がっているのが見えた。『あんな危

なげな場所に・・・』と思ったが、直ぐに『ロープがかかっているという事は登れる?』という事と思いながら、

次に来た時は登ってみたいと思いながら、その日は帰ってきた。

 

 

 

ただ帰って来てからあのロープの事が頭に浮かんで消えず、『登ってみたい、登れるだろうか?』という思いが

日増しに強くなっていた。そこでYAMAPで検索してみるとやはりあの大岩壁のロープを登っている人がいた。

meさんの活動日記には手前の岩塊にもロープがあり、そこを昇り降りした後にあのロープを登っていた。そこで

meさんにメッセージで質問をしたところ、どうやら手前の岩塊のロープはしごが朽ちかけているので注意が必要

と、三点支持で登れば大丈夫でしょうという返事をいただいた。少しでも様子が分れば心強い。meさんありがと

うございました。

ただそこで好奇心は終わらず、ぜひあの大岩壁を真下から見上げてみたいと思った。ロープ場をピストンした後、

途中から大岩壁の襟足に沿って下れないかと考えた。

そんな不純な考えに付き合ってくれるのはあの人しかいないと思い誘ってみると『もちろん行きます』とニッコ

リマーク付で即返事が返ってきた。

 

前回と同じ7時20分発の土庄行のフェリーに乗り込む。今朝は放射冷却のせいで気温が下がり、写真を撮ろう

とデッキに出ると、甲板は凍っていてあわや転倒しそうになった。高松港を出港時には日の出で空と海がオレン

ジ色に輝き、土庄港に入港時には少し登った陽に照らされた海が、銀色に輝いていた。

 

 

土庄からは田ノ浦行のバスに乗り、苗羽(のうま)のバス停で降りた。この苗羽地区は醤の郷と呼ばれる醤油づ

くりの町。最盛期には400軒近くの醤油醸造所があり、今でも20軒近くの醤油蔵や佃煮工場が軒を並べてい

る。その苗羽地区は港から東に向かって坂道が続き、家々が立ち並んでいる。その坂道の先にはどこから見ても

あの大嶽の大岩壁が見えている。

 

 

途中から前回下ってきた道に合流して、舗装路から脇道に入って行く。

しばらくは舗装路が続いていくが、次第に路面が荒れ始める。

 

 

コンクリート製の水路の横を通り進んで行くと、大きな櫓とその脇にはモーターの様な大きな機械が据えられて

いた。モーターから櫓の上、そして山に向かってワイヤーロープが続いていく。前回も思ったのだが、何の運搬

に使っていたのだろうか?調べてみてもまったく情報が出てこない。

 

 

 

登山道は沢筋になり、ゴロゴロ転がった油断すると捻挫しそうな歩きにくい道が続いていく。

その沢筋に沿って相変わらずワイヤロープが続いている。

 

 

 

登山道は途中で道標のある場所から沢筋を離れ山道になって行く。ここまでもテープが所々巻かれていたが、こ

こからは幹にテープとは別に青いペンキが目印に塗られていた。

すると道の北側に木々の間から大嶽の大岩壁が見えた。奥様にはこの後のルートを指さし説明しながら、『下り

の時の距離感としてはこの位、迷ったとしても何とかなるでしょう』と話をする。

 

 

 

道は谷筋を回り込むようにトラバースになると碁石山との分岐になる。前回は碁石山の長いロープの下りをクリ

アしてほっと一息ついた場所だ。

この大嶽・碁石山と書かれた道標からは左に折れて、ウバメガシの林の中を登って行く。

 

 

 

ウバメガシがまばらになってくると岩肌が現れる。その岩肌をひと登りすると2週間前にも来た大嶽山頂だ。

今日の天気予報では晴れマークだったが、なぜか洞雲山からこの大嶽にかけてうす暗い雲がのしかかっている。

青空の下なら気分は高揚するが、うす暗いとなんだか先行きに不安を感じる。

 

 

それでも今日の第一ステージの大岩壁のロープを山頂から確認して、気持ちを奮い立たせる。

先ほど途中で見上げた時は手前の岩塊と大岩壁も思ったよりも高さがあった。ここからは大岩壁にかかる一本の

ロープしか見えないが、果たしてどうなっているのか。『さぁ行きましょう!』と奥様に声をかける。

 

 

山頂手前に大岩壁へと道が続いていた。ウバメガシの続く斜面を『こんなに下るのかな?』と思うくらい、結構

な高さを下って行くと鞍部に着いた。

 

 

ここから先は一般の登山道ではありませんので、決してお勧めするルートではありませんのでご注意ください。

 

鞍部からは手前の岩塊へと登って行く。ただmeさんの活動日記で見たロープはなく、『どこにロープがあるのか

しら?』と言いながら奥様が登って行くと、頂部の直下でロープがかかっていた。

溶岩が固まった岩は固く、ロープを使わないでも露岩の岩は手掛かり足掛かりが良く、三点支持で登って行ける。

 

 

 

ただ最後にロープが終わって頂部に出る所は、張り出した岩が邪魔をして注意が必要だ。登りきると半畳ほどの

平らな岩からは、山頂から見えた二つの岩壁が、間の谷に向かってさらに深く切れ落ちているのが見えた。なか

なかの高度感に股間がゾクッとする。ここでは少しでも変な動きをしたら落ちそうになので、その平らな岩から

安全そうな場所へ身体を移す。

 

 

 

身震いしながらさらに先の岩壁を見ると、山頂からは一本に見えたロープが何本か垂れ下がっているのが確認で

きた。さぁここからはほぼ垂直に近い岩壁を降りることになる。

奥様が先の岩壁でお昼にしたいというので、ザックはそのまま抱えて、ストックだけを置いて『いざ!』

 

 

 

頂部から一段降りた先には何本ものロープとロープはしごがかかっていた。ただしロープはしごの踏み桟は木で

できていて、外れかかっているのもあって当てにはできない。

足元も岩肌の上が土と苔で覆われていて滑りやすい。ロープだけで垂直懸垂する技術もないので、当てにはでき

ないが時々ロープはしごに足を入れながら降りて行く。

 

 

 

揺れるロープはしごに苦戦しながら何とか鞍部に降りたつと、今度は横にロープが張ってあり少し張り出た大岩

の横をトラバースする。歩ける幅は狭くすぐ横は切れ落ちていて、けっこうヒヤッとする場所だった。

トラバースした後はあの山頂から見えた岩壁のロープとなる。

何段かに分かれて掛けられていたロープは見えていた以上に何本もがかかっていた。その中でも結び目を作って

くれているロープが役に立ち、そのロープを握りながらもう片方のロープを握り、二本を使って登って行く。

 

 

さすがの奥様もすんなりとは登って来れていない。それでも少々苦戦しながらも登ってきた。振り返ると今降り

てきたロープはしごのある岩塊が、目の前に見えた。

 

 

二人とも登った後さらに先へと進んで行く。もちろん左側はあの大岩壁。もし落ちでもしたら数十メートル落ち

て即あの世行き。(汗)

そんなことは気にしない奥様は、どんどん先に下って行きもうそれ以上はというところでようやく諦めてくれた。

 

 

 

それじゃ~という事で、岩に腰掛けてお昼ご飯にする。あの大岩壁の上で吹き抜けていく風が冷たい。

インスタントの赤だしの温かい味噌汁がありがたい。

 

 

南を見ると坂手港にジャンボフェリーが入ってきているのが見える。ここから見るとジャンボフェリーなのに、

ジャンボにはけっして見えない。その反対側を見ると、大嶽前衛のもうひとつの岩壁がそそり立っている。『あ

の岩壁は登れるのだろうか?』とまた要らぬ考えが浮かんでくる。

 

 

そして山頂からは見えなかった苗羽地区が見渡せた。さらにマルキン醤油の黒い建物群の規模の大きさに驚かさ

れる。山頂から見たロープの先の景色が今こうして目の前に広がっている。

 

一応ここで今日の第一ステージはクリア。ここから折り返しの岩壁のロープの第二ステージとなる。

取りあえずはへっぽこリーダーが先行して降りて行く。

ただ登りで少し手こづったほどではなく、両手で二本のロープを握っていると、岩壁から身体を離せて足元の確

認ができて意外とすんなりと降りて行けた。

 

 

 

 

登りよりも下りが難しいと言われているが、今回はどちらかというと次のロープはしごがかかった垂直の岩の登

りが一番苦戦した。滑りやすく見えない足元に、どうしても腕に力が入り余裕がなくなってしまう。

増えた重たい身体を持ち上げるのに一苦労。痩せなきゃ~と思っても多分この時だけ。

 

 

 

何とかロープはしごの岩壁を登り切り岩塊の頂部に立つと、雲の間から一瞬陽の光が、反対側の岩壁を白く輝か

せていた。右の尾根から歩いて行けば、岩壁には頂部まで木が生えている。『ひょっとしたら登れるかも』、

『いかん、いかん、また変なことを考えたら・・・・。』

足元を見るとその白い岩壁と同じように、ズボンがまっ白に汚れている。普段はお尻は汚れることはあるけれど、

前側が汚れるなんてほとんどない。いかに岩肌にへばりついて昇り降りしていたがが分る。

 

 

さぁここから第三ステージ。ここまでは歩いていた人もいるので様子が伺えたが、ここから先は一切情報がない。

大岩壁の下はどこにもあるような土溜まりがあるはずだから、岩壁に沿って歩けるはずだ。ただそこまでの途中、

そこから先の谷筋が地形図を見ても航空写真を見ても読みずらい。

まずは岩塊を降り鞍部からその岩壁に沿って南に向かって斜面を降りて行くが、直ぐに深い谷にぶち当たってし

まった。二股に分かれた谷筋を大きく避け、東に振って回り込みながら下って行く。

 

 

 

 

谷筋が浅くなった場所からまた岩壁に向かってトラバースして行くと、岩壁はオーバーハングしていてその全容

は全く見えない。しばらくは土溜まりを進んで行くが、途中からはまた深くえぐられた岩壁になってこれ以上進

めない。

 

 

 

一旦戻って出来るだけ岩壁から離れないようにして回り込み、今度は尾根筋に向かって登って行く。

すると少し斜め上に白い岩肌が木々の間に見えたので、その岩肌に向かって登って行くと目の前にあの大岩壁が

迫っていた。横に大きく広がる大岩壁は木々が少し邪魔をしてすべてを見ることはできないが、それでも大迫力

だ。イボイボの岩肌には国分寺のカッパドキアにもあったキノコ岩が、垂直の岩壁に立っている。

風雨にさらされた岩壁は崩れることもなく、花崗岩と同じように赤く変色しているヶ所もある。

 

 

 

 

視線を北側に向けると、その垂直の岩壁の向こうに拇岳がこれも垂直に指を立てている。次に小豆島に来るとし

たら、あの千羽ケ岳と拇岳になるかな?なんて思いながら眺めた。

 

 

展望があるだろうと思っていた場所からは岩壁の全容が望めなかったので、もう少し下へ尾根筋を下ってみるこ

とにした。すると樹林帯を抜けた場所にまた岩稜が現れた。

 

 

そして振り返ると『なんという事でしょう!』少し距離は離れて目の前の木々でその高さは半減していたが、

大岩壁の端から端まで見渡せた。『これ、これ、これが見たかった!』もちろん奥様も大満足のご様子!

その麓はまだ少し彩の残る緩やかな山裾が広がり、この大岩壁を眺めながら歩いてきた苗羽の街が見下ろせた。

 

 

 

 

 

この露岩の場所を『大嶽展望所』と名付けることにしたが、おそらく訪れる人はいないだろう。(笑)

露岩のある先は木々が密集して歩きにくそうなので、この尾根から南に登ってきた登山道に向かってトラバース

する。谷筋は二本ほどあったが、出来るだけ浅く歩きやすそうな場所を選んで回り込みながら谷筋を渡って行く。

 

 

 

二本目の谷筋には大きな岩が転がり落ち葉がたっぷりと積もっていたが、『落ち葉のスキーね!』と言いながら、

奥様も器用に足を滑らせながら下っている。ここも向かいの尾根へ高さがあまりない場所を選んで渡り、尾根を

乗越し少し歩くと、往路で歩いた登山道に出た。

 

 

 

ここから苗羽のバス停まではゆっくり歩いてもバスの時刻には十分間に合いそうだ。

歩きにくいゴロゴロ岩の沢筋を下り舗装路に出ると、山頂近くにあった重苦しい雲は流れ、きれいな青空が広が

っていた。

古い立派な建物が多く残る道を二人で満足げに歩いて行く。バス停で一緒になった年配の女性に大嶽の話をする

と、息子さんが帰省した時は必ず大嶽をバックに写真を撮るそうで、他にも嬉しそうに色々と話を聞かせてくれ

た。バス停のある場所は旧苗羽村役場があった場所で、その横には大きな『岩部亀士紀功碑』があった。

岩部亀士は初代志度村の村長を務め、その手腕を丸金醤油創立者である木下忠次郎認められ懇願されて、苗羽

村長に就任したという。そんな話を聞くと少なからず何かの縁をこの苗羽に感じたのだった。

 

 

 

 

大岩壁からの落ち葉の積もった下りで予測のつかない足の動きになり、帰りのフェリーの中で膝が痛み始めたが

その痛み以上に、今日のコースは久しぶりに人がほとんど歩いていないバリエーションルート。歩く前からの下

調べに胸躍らせ、最後の下りではルートファインディングに頭を使い、ロープ場では緊張感を味わった楽しい楽

しい一日だった。ただこれに味を占めた奥様がこれ以上エスカレートしない事を願うばかりだった。

 


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