先日50代の白人女性の患者さんがやってきました。彼女はいつも膝の治療にいらっしゃっています。
「ドクターK! 先日はいきなりキャンセルをしてソーリー、実はターカツーボシンドロームで、集中治療室にいたのよ。。」
「??」
「これはもとは日本語らしいわよ。症状は急にパニックっぽい感じがして、両脇腹のあばらのあたりとおなかの上の方からぎゅーーーんって突っ張って、心臓のあたりに何かが暴れまわるような気がして、本当に死ぬかと思ったのよ。。閉経前後の女性に多いんですって。精査の後、心臓は悪くないって言われたの。」
「わかった、これ東洋医学では奔豚気(ほんとんき)っていうんですよ。おなかのあたりから、胸にかけて、活きのよい子豚がビビビッっというか、ガシガシガシッと胸に昇ってくるような感じがして、狭心症などの心臓発作のようになる症状です。後学のためにもう一度発音を教えてください。」
「ターカツーボシンドローム?」高坪症候群?高坪という名前の博士が付けた名前だろうか。。。
「ターキツーボシンドローム?」滝壺症候群?鯉や鮭が力強く滝壺や川を上る様子を描写したのだろうか。。。ある意味この動きが子豚のそれに似ていなくもない。。。
いろいろ調べてみたら、、、わかりました!
「たこつぼ心筋症(Takotsubo cardiomyopathy)」でしたターコツーボだったのです。詳細はこの名前のところをクリックしてください。ウィキペディアに飛びます。
渡米したての頃、米人たちはカラオケ(Karaoke)をキャリオーキーと発音していて、「なにそれ?」といって、「お前知らないのか、日本の発明だろう?」といわれたことがあります。それと似た聞き取り不能状態でした。
これは、東洋医学的には奔豚気(ほんとんき)と言う症状の一つです。
多くの場合、この症状の原因は「腎陽虚」という背景によるものです。
簡単に申し上げますと、頭寒足熱(ずかんそくねつ)を健康状態とするならば、上実下虚(じょうじつかきょ)がひどくなった状態で起こります。要は、下半身が適度にあたたかくて落ち着いていて、上半身はのぼせず力まずリラックスしている状態が健康状態です。
しかし、下半身が冷えて弱って虚してしまい、そのために下半身に居なければいけない温かい気(陽気)が上に昇ってしまった状態が上実下虚です。この熱を虚から始まっているということで虚熱といいます。
婦人科系の変り目である更年期に、下腹部や下腿が虚してきて上実下虚が起りやすくなるのはうなずけますね。
心臓のあたりは普段からとても陽的な気が充実していて、これ以上温かさは必要ないのですが、そこに虚熱が昇ってくると、ただでさえ常時フル回転で命を維持している心臓のアクセルがその熱で全開状態になってしまいます。この状態が心臓発作のような症状を惹起いたします。
人によっては「狭心症」などと診断されていますが。多くの場合精査をしてもその原因はわからにことが多い様です。これは、西洋医学が解剖的な視点で、症状のある部分を細かく検査するということに対し、東洋医学が「人体全体を観る。患部だけでなく上下、左右、表裏、陰陽という観点で観る。」という背景の違いからくるものです。木よりも森を観ることを重視しているわけです。
このよう症状を癒すには、簡単にいえば、下半身が温まるように仕向けることです。
そうすることによって、病の存在理由の方を解決するようにいたします。
たこつぼ心筋症をふくむ奔豚気(ほんとんき)が起きている、或は再発を防ぐために考えられる漢方方剤は、例えば下記の2方剤が浮かんでまいります。
苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)
この方剤は、とにかく足腰が冷えてしょうがない方に使います。
一般的な薬効としては、足冷え、冷え性やからだが冷えたために起る腰痛、老人の便秘、膀胱炎などとあります。
この漢方方剤の特徴は専門的には腎陽虚という、下半身の陽の気が極端に少なくなっていて、冷え性で、頻尿で便秘気味の体質の方によく使われます。
この苓姜朮甘湯は漢方アメリカのHPにはまだ載せていませんが、私の診療所ではいつも調剤をしております。
もうひとつは、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)です。
これも極端な冷えがあって、下半身の陽の気が極端に少なくなっている状態ですが、血虚をいわれる、血自体も少なくなっていて、手足、特に足先が冷えている状態で、几帳面なのに思ったとおりの仕事や家事をこなせず、いつもイライラしている方に使います。
記述の中に腎や肝という文字がありますが、これは別に腎臓が悪い、肝臓に問題があるという意味ではありませんので、ご安心ください。漢方医学の一つの表現方法にすぎません。
もちろん狭心症と判断されてしまっている方は、大事をとって常時、ニトロ剤も携行していることが必要です。