怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「キリンビール高知支店の奇跡」田村 潤

2017-06-09 20:47:02 | 
その昔、ビールと言えばキリンのラガーだった。日本酒党の父も夏の暑い時にはビールを飲んでいたがキリンのラガーだった。
市場占拠率は6割を超え、独占禁止法に引っかかるとかであまり売らないようにしようなどという話もあったくらい。当時(私がまだお酒を飲めなかった頃)は、キリン、サッポロ、アサヒの順で、アサヒなどは半分潰れるのではないかと言われていたような気がする。大学の教授が競争状態を保たないといけないから私はビールを飲む時はキリン以外にするとか言っていた記憶がある。
ところがスーパードライの登場でがらりと様相が変わる。ある意味日本人好みの味なんだろう。和食とも相性がいいスーパードライはあっという間に市場を席巻していく。
そんな中、著者は上司との意見の対立による懲罰人事によって1995年に本社の営業企画の部長代理から高知支店長へ赴任する。
当時の高知支店は、最下位ランクの支店で四国地区本部のお荷物と言われていたとか。社員は総勢12名で営業マンが9人で女性の内勤が2名。県の支店と言っても意外に少人数です。
営業マンは数字が悪くても意外にあっけらかんとしていて、本社から次から次へと降りてくる施策を淡々とこなしているという感じ。本社からの指示に振り回され目的意識もなく得意先を回っているというのです。その間に数字はどんどん落ちてきて、アサヒに逆転されていきます。
そこでどんな手を打つのか。まず、社員一人一人にどうすればいいのか自分で考えさせ、目標を立てさせます。戦略としては料飲店のマーケットに集中して営業をかけるように絞り込みます。そのためには本社の指示をこなせないところも出てくるのですが、それは支店長が防波堤になります。
料飲店をできるだけ数多く回るためにはどうしたらいいのか自分の頭で考え実行していく。そうやって営業活動を重ねていく中で力をつけていったのです。
現地採用の内勤の女性にも営業活動を手伝ってもらうようにしました。
ところで支店長も生の声を聞くために宴会に出るのですが、そこは宴会大好きの酒飲みばかりの高知県。年間270回以上宴会に出ていたとか。おかげで糖尿病に高血圧の痛風になったとか。体を張っています。
そんな中、アサヒに急追されたキリンビールはラガーの味を変えるのですが、これが大失敗。古くからのなじみ客からも反発されてますますシェアを落としていきます。
異例なことだったのですが、エリア広告を打ち、営業もどんどん新しい工夫、手法に挑戦して盛り返していきます。
しかし、ラガーの味が変わったことには如何ともし難い。本社に何度も意見具申するのですが、黙殺。ついには社長が全国視察の際に高知に来た時、女子社員が直談判という事態に。しかし、それによって「ラガーの味をもとに戻す」となるのです。
そうなると「高知の人の声でラガーの味をもとに戻しました」と宣伝攻勢。料飲店に営業マンが頻繁に訪問して取扱店を増やしていきました。
そうこうするうちに高知支店の対前年比が一躍社内で1位に。1997年では37%に落ち込んだシェアは1988年に反転し、2001年に44%となり、高知県でトップを奪還したのです。
負け犬根性が染みついていた社員に明確な目標を与え、自分の頭で考えさせ、地道に実績を積み、成功体験を得て、チーム力を高めていく中で常勝軍団にすることができたのです。奇跡と言われました。
ところで著者が高知に支店長としていたのは6年間。その後も高知のシェアは伸び続け2006年には60%近くにまで達したとか。その時の全国シェアは40%を切っていたのにです。
著者はこの実績をもとに、四国地区本部長になり、その後東海地区本部長、本社営業本部長、代表取締役副社長にへと昇任していきます。
それぞれの役職でも実績を上げ2009年にはアサヒから売り上げシェア首位を奪還。
う~ん、素晴らしい実績です。
でも著者は2011年には100年プランニングの代表になっています。60歳になっているので定年退職かなとも思うのですが、役員ならば自由が利くはずなのにキリンビールから去っています。何か軋轢があったのか勘繰てしまいますね。著者の行動力と大会社の官僚化した経営陣とはなじめなかったのでしょうか。
著者が去った後のキリンビールの実績はあまり勢いがなくて、今はサントリーが元気に追い上げてきています。ビールというのは著者が言っているように味での差別化というのはそんなにできなくて「美味しそう」とか「元気はいい」とか「売れている」というイメージで売れ筋が決まってくるみたい。そうなると「勢い」が大切なんですけど…今勢いがある「プレモル」だって目隠ししてどれだけの人がわかるのやら。
でも今我が家で飲んでいるのはスーパードライとプレモルなんですけど。

この本の白眉は題名にもあるように高知支店の6年間の実績です。組織をいかに変えていくかという教科書としてはいいですね。

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1 コメント

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私はキリン、プレモルNGです。 (ひげおじさん)
2017-06-10 20:44:43
参考になります。すっかり読了した気分になってます。
どんな組織も一緒ですね。ちょっと出かけすぎて放置気味だった我が社の再建に意欲がわきました。
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