ごっとさんのブログ

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光に反応するタンパク質でガン治療

2022-03-11 10:25:07 | 健康・医療
高齢化に伴いガン患者は年々増加していますが、これに対抗するための新しい治療法が色々開発されています。

岡山大学の研究グループは、光に反応する単細胞生物のタンパク質を活用し、狙った細胞だけを死滅させる技術を開発したと発表しました。周囲の正常な細胞を損傷させず、副作用が生じない新たなガン治療法の確立につながる成果のようです。

ヒトの体内ではプログラム化された「アポトーシス(自死)」が起こり、不要になった細胞を除去したりガン細胞の増殖を防ぐ仕組みがあります。このアポトーシスには、細胞のアルカリ化が大きく関与しています。

研究グループは光を感じると、細胞内にある水素イオンを外に運んでアルカリ化させる単細胞生物のタンパク質「アーキロドプシン3(AR3)」に着目しました。アーキロドプシンは微生物型ロドプシンの相同性検索によって同定された、光活性型プロトンポンプです。

古細菌高度好塩菌由来で、550nmの緑色光照射によって最も強く活性化されます。緑色光を受容するとポンプが駆動し、細胞内から細胞外へプロトンイオンが排出され、その結果細胞膜電位が過分極するという性質を持っています。

実験にはアメリカの塩湖にいる単細胞生物が持ち、人体には悪影響を及ぼさないとみられるアーキロドプシン3を使用しました。ヒトの肺ガン細胞由来の細胞にAR3を投与した後、波長545ナノメートルの緑色をした光を約3時間照射すると、ほぼすべてでアポトーシスが起きました。

また感覚神経にAR3が作られるように遺伝子操作した線虫を用いた実験を行いました。同様の緑色の光を24時間当てると、感覚神経の応答が著しく低下しました。ほかの組織に変化がなかったことから、グループは感覚神経だけが死滅したと推定しています。

研究グループは今後別のガン細胞で効果を検証する方針で、最適なAR3の導入量や、体内のガンに届きやすい光の種類なども探り、5年以内に臨床試験に着手したいとしています。

ガン細胞にアポトーシスを起こして死滅させるというのは、画期的な手法と言えますが、まだ培養細胞を使ったインビトロでの研究結果です。今後担ガンマウスなどを使った動物実験の必要があり、どうやってガン細胞だけにこのタンパク質を投与するのかといった課題もありそうです。

また体内に緑色の光を照射する方法にも問題もあり、今後の動物実験の結果が待たれるところです。アポトーシス誘導タンパク質というのは面白い着想で、特に投与するだけではなく光照射によって活性化するというのは安全性の面でも優れていると思われます。

実用化までには相当高い壁が予想されますが、新たなガン治療法として期待できそうな気がします。