幻の童謡詩人、金子みすゞが生まれ育った町は、
日本海に面した小さな漁師町。
山口県長門市仙崎。
瓦屋根の家が海岸線まで迫り、銀色に光る波が打ち寄せる。
この町を金子みすゞ記念館、顕彰会事務局長の草場睦弘さんが案内してくれた。
みすゞと出会い、みすゞを探し、みすゞをよみがえらせた一人でもある草場さんの
案内は、みすゞさんをそばで感じられるようなものだった。
草場さんは、金子みすゞをよみがえらせ、金子みすゞ記念館の館長である矢崎節夫さんのことばを紹介されている。
「みすゞさんは心です。
心にブームはないはず。だからみすゞさんを安易な町おこしや村おこしに使わないでほしい。
それよりも心おこしをしてほしい。
そうすれば必ず町に人が集まってくる。」と。
そして今まさに、そのようにみすゞを訪ねる人が増えているらしい。
金子みすゞ記念館の年間入館者数は、約14万人。
それらの人にこたえるかのように、地元の人たちはあたたかく迎えようとしてくれている。
みすゞ通りを歩くと、各家々の軒先にみすゞの詩を書いた木札がつるされ、
私たちの目を楽しませてくれた。
みすゞは「仙崎八景」と題した詩を残している。
その中の一つ「王子山」。
対岸にある青島の小高い王子山から仙崎の町を見たものだ。
「公園になるので植えられた、
桜はみんな枯れたけど、
伐られた雑木の切株にゃ、
みんな芽が出た、芽が伸びた。
木の間に光る銀の海、
わたしの町はそのなかに、
竜宮みたいに浮かんでる。
銀の瓦と石垣と、
夢のようにも、かすんでる。
王子山から町見れば、
わたしは町が好きになる。
干鰯のにおいもここへは来ない、
わかい芽立ちの香りがするばかり。」
ふるさと仙崎は、キラキラと輝き浮かんでいる。
そしてわかい芽のように枯れることなく、勢いよく伸びていく。
私のふるさと佐田岬もそうあってほしい。
いや、そんなふるさとにするのは、そこに住む私たちなのだ、
と仙崎で金子みすゞさんを感じそう思った。