kimitsuku独り言

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梅津時比古:著 『フェルメールの楽器』

2014年11月06日 | 日記
                      
 タイトルに惹かれて手に取った本『フェルメールの楽器』毎日新聞社2009年の発行。著者は音楽
評論家にして、ジャーナリスト出身初の桐朋学園大学学長・梅津時比古さん。
 サブタイトルに「音楽の新しい聴き方」とある。「はぁ…」と目次をペラペラ捲って、先ずタイトルに
なっている「フェルメールの楽器」から読み始めました。
                   
 あまりに素敵な文章なので、その一部を書き写してご紹介しましょう(オリーブ色の部分が原文)。
 白い牛乳が一筋、素焼きの陶器の壺から、テーブルに置かれた広口の容器に注がれている。
流れる微かな音が、絵の中から聞こえてくるような気がする。注いでいるのは、黄色の胴着に洗い
たてのような青いエプロンをまとった女の使用人。(中略)フェルメールの『牛乳を注ぐ女』。

 さすがジャーナリスト過不足なく無駄のない文章に感心しつつ読み進めると、この絵画にはX線
調査によって、後ろの壁に何かが描かれていたことが分かっているが、形があいまいで特定されて
いないらしい。筆者は、そこに描かれていたのは楽器ではなかったかと推測しているのです。当時、
ヴィオラ・ダモーレやマンドールなどの小型の楽器は壁に掛けるのが常識で、同時代の絵画にその
ように並べた楽器を描いたものもあるそうです。
 あくまでも仮説だが、フェルメールは描いたけれど合わないと思って消したのではなく、初めから
一面の壁にするつもりで、その中に楽器を塗り込めたのではないだろうか。壁に当たっている微かな
光は、ここでも音の描写なのであろう。目に見えなくても、聞こえるか聞こえないかの音が壁から放射
される、と考えていたような気がして仕方がない。(中略)音が直接に聞こえるわけではない。しかし、
牛乳を入れる微かな音が、やがて壁から立ちのぼってくる柔らかな楽器の音とハーモニーをなして、
静けさが聞こえてくる。

 簡潔にして優れたエッセイ集と思います。フェルメール絵画の中でも、特にこの『牛乳を注ぐ女』は
好きな一点。いつの日かアムステルダムの美術館を訪れたいと願っていますが、その時、私の耳に
フェルメールの微かな楽器の音は聞こえてくるでしょうか
 他にもシャガールやニーチェを題材にした、ユニークな短文が載っています。楽しみながらゆっくり
味わいたい一冊、梅津時比古:著『フェルメールの楽器』でした。

 
コメント (2)
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