冬コミに発行した「REBORN!」のコピー本、予告通り公開致します。コピー本ではヒバリ様のお名前の漢字変換間違えていました・・・すみません・・・
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
彼は、変わった。自らの裡にある炎の存在を知り、自分を取り巻く世界と開かれた未来とを知り──
いいや、それでも彼は変わらない。困ったような、それでいて何もかも許し包みこむ笑顔も、隠さず自分の気持ちを表情にも言葉にも表す真っ直ぐな心も。
変わったのは、周りの方だ。彼が失敗しても笑うものは減り、困っていれば手を差しのべる者が現れ、彼の周囲に人が集まり……
高校に進学する頃には、彼を「ダメツナ」と呼ぶ者は、一人もいなくなっていた。
「うわあ──、気持ちいい!」
海に向かう岸壁の上、明るい午後の日を浴びて、ツナは思い切りのびをした。
「やっぱり海の色が違うよね!まだ三月なのにあったかいしさ」
「南イタリアは地中海のおかげで、冬でも温暖ですから」
隼人は彼から数歩下がった位置で、そのまだ肉の薄い背中とはしゃぐ横顔を眩しく見つめた。
「高校合格のお祝いにイタリア旅行なんて、リボーンもたまには気の利いたことするよね。…と言っても、九代目が招待してくれたんだけど」
「……」
この三月、隼人、ツナ、山本はそろって並盛高校に進学した。一学年先輩には笹川了平もいる。
「……十代目は……よろしいんですか」
「ん?なにが?」
ツナは腕を下ろし、振り向いた。
「今夜九代目が開いてくださる歓迎パーティー……ボンゴレ傘下の主なファミリーのボスや幹部が集められています」
「……そうだね」
ツナは笑顔のまま、少しだけ眉尻を下げた。
「…実質的な、跡目披露ですよ。だからリボーンさんは、オレたちをイタリアに来させた……」
今でこそ巨大な組織となり、総本部をローマに置くボンゴレファミリーだが、初代がファミリーを創設したのはこの小さな港町で、今でも旧本部の屋敷は、ファミリーにとって重要な儀式や行事が行われるときに使用される。そして今夜のパーティーには、リボーンとツナと隼人、山本だけでなく、イタリア留学中で、実質キャバッローネファミリー預かりとなっている雲雀も、ディーノと共に出席することになっている。(もっとも、おとなしく雲雀が来るかどうかは保証の限りではないが……)
「そうだね……」
笑っているツナに、隼人の方が耐えられなくなった。
「いいんですか……?!マフィアのボスになんてなりたくないんでしょう…!?」
「なりたくはないよ。今だって、オレには全然向いてないと思うし、九代目が別の人を指名したら、喜んで譲っちゃうよ」
ツナは肩をすくめた。
「十代目……」
「でも九代目はオレを認めてくれて、父さんもリボーンも、オレを後押ししてくれる。それに、ザンザス……」
視線を落とし、ツナは拳を握った。
「彼が九代目を傷つけ、彼の望みが十代目の座ではなく、ボンゴレファミリーを滅ぼすことだとわかったとき、理屈抜きで守らなきゃと思ったんだ。自分がボスになろうとか、自分に彼を倒す力があるかとか、そんなこと思いもしなかった。ただオレの目の前に傷ついた九代目がいて、傷つけたザンザスがいた。オレの先祖が初代ボンゴレだったことも関係ない。理屈抜きの感情だった。だけど……だからこそ、オレの本当の気持ちで、偽りのない望みだったと思うんだ」
むしろ静かな口調のツナの姿に、隼人は見えない炎が重なるのが見え、くらりとする。じわりと胸が熱くなり……
(十代目……オレは……)
「なんて言ってもさ、まだまだダメツナには変わりはないんだけどね。リボーンにはしょっちゅうしばき倒されるしさ」
「そんなことないです!十代目はダメなんかじゃありません。今だって十分すごいっス……!」
「ありがとう、獄寺君。オレ、一人じゃないからがんばろうって思うんだ。どんなにリボーンが鍛えてくれても、自分の中に力があるってわかっていても、自分のために戦ったりマフィアの十代目になろうと思ったりしないよ。山本や了平さんや、君や……みんながいてくれるから、オレは……」
「……あ」
「さあ、そろそろ戻ろうか!オレ、まだ挨拶覚えてないんだ。発音チェックしてくれるよね?」
照れ隠しだろう、真っ赤な頬を甲でこすりながらツナは隼人の脇をすり抜け、来た道を戻り始めた。だから彼は気がつかなかった。隼人の動揺と、思いつめた表情に。
高い天井にはきらびやかなシャンデリアが吊り下がり、真紅のビロードのカーテンと大理石の床とが重厚さを加える大広間。めったに使われることのないそこは今夜、人で溢れていた。普通のパーティーとは違い女性の姿はほとんどなく、男たちも強面や、やけに迫力のある者たちばかりだが。
その中でその若さと美貌で異彩を放っていたディーノは、背後に影のように控えるロマーリオに、こっそり囁いた。
「いやはや、むさ苦しい……じゃなくて、壮観だな。これが全部ボンゴレファミリーの幹部たちとはね」
「その一部ですよ」
ディーノは口笛を吹いた。
「それをツナと六人の守護者たちが率いていくわけか。……ツナは大変だな。オレなら逃げ出してるぜ」
「ボス」
たしなめるようなロマーリオの声音に、ディーノは頭をめぐらせてにやりと笑った。
「ツナはオレとそっくりだ。最初びびって逃げることしか頭になかったところなんかな。あいつが腹を括ったのは、信頼できる仲間を得たことと、その仲間が攻撃を受けたからだ。…皮肉だな。ツナを排除しようとしたザンザスの行動が、かえってツナに十代目を継ぐ決意をさせた上に、ツナの資質を疑っていた者たちにも、ボンゴレ初代の血統の証を見せつけちまった。そんなところも、オレに似ている。オレの場合は、オレを信じていなかったのはオレ自身だったけどな。……ボンゴレの権力と富は莫大だ。その座をほしがる奴はいくらでもいる。だからこそ、それを望まないツナだから、オレはあいつを信用できる。あいつは富も権力も、それを持つものはそれ以上の責任と義務を負うことを知っているからな」
「はい」
ロマーリオは首肯いた。それはあなたも同じだから、我々はあなたを支えるのだという思いをこめて。
「オレたちがツナにしてやれることは、あいつへの支持を鮮明にすること、反対勢力を抑えること、そしてあいつの支持基盤を固めることだ。そのためには、うちの力をもっとつけなきゃな」
ディーノの瞳がキラリと光る。ロマーリオは身が引き締まるのを感じた。それは、キャバッローネファミリーの勢力を拡大する、つまりこれまでは先代から受け継いだ縄張りを維持するだけだったが、周囲の敵対勢力を支配下に治めるべく攻勢に出るという意思表示だったからだ。
「そうそう、もちろん恭弥に幹部教育をするのもウチの仕事だ。その恭弥は……まあ、こんな会に出席するわけはないとしても、おとなしく部屋に戻ってきているといいんだが」
ふう、とため息をついたディーノの後ろで、ロマーリオもこっそりため息をついた。ディーノが「跳ね馬」なら恭弥は「野生馬」だ。一度も鞍を着けられたことがなく、強く美しいが気位高く、人には決して慣れず、いつ暴れ出すかわからない。かろうじてディーノだけは同等の相手として見ているようだが、それだけにディーノの言うことをすんなり聞くはずもなく、最終的には力で捩じ伏せるしかないというのが本当のところだ。それなのにディーノは、そんなじゃじゃ馬のどこが気に入ったのか、せっせと雛に餌を運ぶ母鳥のように世話を焼き、ロマーリオの目からは結構甘やかしているように見える。唯一の救いは、恭弥がすこぶる鈍く、ディーノの態度に気づいていないらしいことと、もし気づいていたとしても、そこにつけ込むような悪辣さとは無縁の心根の持ち主だということだ。
「確認しましょうか?」
「いや、いい。どうせパーティーが終わるまではどうしようもないしな。……と、いよいよ登場のようだ」
広間の主扉が開け放たれた。
杖をついた白髪の老人が、波が割れるように人々が左右に分かれていく真ん中を、ゆっくりと最奥に設けられたひな壇に向かって歩いていく。一見引退した実業家か大学教授のような、柔和で、上品な物腰の紳士としか見えないその人が、数十万人の構成員をかかえるボンゴレファミリーを束ねる九代目である。無論、まだまだ引退する予定はない。
その後ろを、人々の注視を浴びながら行くのはツナ、獄寺、山本だった。これから九代目によって後継者が正式に披露される。獄寺と山本はその腹心となるナンバー2、3候補としての顔見せだ。彼らが九代目に紹介されたあと、承認と忠誠の誓約の儀が行われる。それが滞りなく済めば、今後十代目に名乗りを上げたり他の者を擁立したりすることは、即ファミリーへの裏切りと見なされる。逆にツナたちは、余程のことがない限り、後継を降りることは許されなくなる。もう、後戻りはできないのだ。
壇上に立った九代目は、広間の人々全員を確認するように見渡すと、口を開いた。
「さて、親愛なる兄弟達──……」
『 tu mio sole, tu sei qui con me 』 ・・・続く
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