神辺 四郎著 こうのべ・しろう 1946年生まれ。フリ-の編集 者・ライタ-。著書に「誰がキリストを殺したか」
ビートたけしと「団塊」アナキズム (集英社新書 402B) 価格:¥ 735(税込) 発売日:2007-07 |
評・下川 耿史 (風俗評論家)評者の印象ではビ-トたけしは、 現代で唯一毒気のあるタレントである。今や漫才師という枠を超え、 世界的な映画監督や文化人となって、かっての毒気はだいぶ色 あせたが、島田伸介にしろ、明石家さんまにしろ、単に会話が上手 なだけのタレントしかいなくなったテレビ界では、まだまだ異彩を放 っている。たけしは1947年1月18日生まれ。つまり団塊世代の始 まり、しかも早生まれだから、学年は一年上になり、団塊世代に対 する批判精神も濃厚という微妙なポジションにいる(著者も同様で ある)。そういうタレントの中に団塊世代の特徴を探ろうとしたのが 本書の試みである。
著者によると、団塊世代の第一の特徴は反権力・反権威主義に あり、その姿勢が同時に自分中心の「ミ-イズム」にもつながって いるという。反権威主義は一億総玉砕から一億総受験へあっさり 転進した社会への不信感に基づくものであり、同時に受験競争に 勝たないと何も始まらないという思いがミ-イズム(自分中心主義) を生み出した。たけしの毒舌、すなわち反権威主義は今さらいうま でもないが、映画監督や司会者として自分を押し出す姿勢は、団 塊世代特有のミ-イズムによるものだという。そのほか「偽装せる モラリスト」であるとか、暴力肯定主義者など、これまでもたけしの 特徴といわれていたことが、芸人としての個性ではなく、団塊世代 に共通する特徴として語られている。しかも団塊世代は根本的に アナキストであり、たけしが具現化しているものも、そのアナキズム の表れだという。その点ではなかなかユニ-クな思いつきで、「なる ほどそういう見方もあるのか」と思って面白く読んだが、反面、団塊 世代に対する具体的な言及がもっと欲しいという不満も残った。その 多様性が捨象されて、団塊世代の特徴のすべてがたけし一人で 説明されているため、彼以外の団塊世代がアナ-キ-どころか、 存在感がやや希薄だと感じられてしまうのである。