ゆたかな社会 決定版 (岩波現代文庫) 価格:¥ 1,365(税込) 発売日:2006-10 |
「ゆたかな社会」は、日本でも有名なアメリカの経済学者ガルプレ イスの代表作。源著の初版は1958年の公刊だが、その後何度か 改訂され98年には四十周年記念の新版が出版された。ガルプレ イスは新版の序文で「初版で書いたことの多くを今でも承認してい る」と述べ、もっとも「満足」しているのは、「通年(conventional wis dom)に関する章だと回顧している。通年とは議論が正しいかどうか よりも、大衆の人気や賛成を得られるかどうかを基準に政治家や官 僚および専門家が多用する観念であり、「われわれの幸福にとって も有害なもの」だとガルブレイスは批判する。その代表が「消費者主 権」であり、通年は消費者の欲望が企業の生産を規定しているとい うが、ガルブレイスは生産を拡大するために企業のほうが宣伝や販 売術を駆使して消費者の欲望を刺激していると反論する。つまり「ゆ たかな社会」においては、生産の拡大(経済成長)によって民間企業 の利益は増加しても、消費者の福祉(幸福)が向上する保証はない というのだ。ガルプレイスが「消費者主権」の虚構を指摘したのは五 十年近く前だが、生産の拡大を経済政策の目標に掲げる通年はいま も健在である。消費者の欲望をあえて創出しなければ売れない物を、 企業がますます多く生産することにどのような意味があるのか、「ゆ たかな社会」では改めて問い直してみる必要がある。もちろん「ゆた かな社会」で生活する国民にも不満や不安はある。特に日本では老 後の生活を保障する年金制度に不安を抱く国民が多い。その背景に は保険料を納めても、それに見合う年金がもらえないのではないの ではないかという制度不信がある。
年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可能か (中公新書 1901) 価格:¥ 903(税込) 発売日:2007-06 |
これに対し社会学者の盛山和夫氏は「年金問題の正しい考え方」 で、日本の制度は「多くの一般の人にとって・・・損はしないように できているという。ただ、「大きな政府」にして消費税を年金の財源 とすれば高齢者も消費支出に応じて負担するから世代間の公平を 確保できるとか、「小さな政府」にして各世代が自分の責任で老後 の資金を積み立てれば負担と給付の世代間格差は解決できるとい った経済学者の「通年」はいずれも誤っており、現役世代の所得の 一定割合を年金として給付する賦課方式こそ公平かつ持続的な制 度だと主張する。公平や制度の問題を長年考察してきた盛山氏に とっては、「大きな政府」か「小さな政府」かを問う二者択一論ほど、 ミスリ-ディングな「通年」はないのである。
少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ (岩波新書 新赤版 (1070)) 価格:¥ 777(税込) 発売日:2007-04 |
日本の将来を考えれば、老後の年金と並んで構造的な少子化も 深刻だ。その原因に関して「一般に流布しているのは<仕事をし たいから女性は結婚しない>という説」である。しかし、パラサイト・ シングル論で一世を風靡した山田昌弘氏は「少子社会日本」で、 9割の女性が結婚願望を持ちながら、三十代前半になっても3割 の女性が未婚を続けているのは、結婚後の生活に不安がないだ けの所得を稼ぐ男性が少ないからだという。保育所や育児休暇な ど働く女性の支援も重要だが、少子か対策としては独身男性に、 もちろん独身女性にも安定した就業と所得の機会を提供するほう がはるかに有効かもしれない。通年を打破しなければ、「ゆたかな 社会」は生まれないのである。(高橋伸彰・立命館大教授解説)