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ゆたかな社会を考察

2007-09-24 17:30:00 | 本と雑誌

ゆたかな社会 決定版 (岩波現代文庫) ゆたかな社会 決定版 (岩波現代文庫)
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2006-10

「ゆたかな社会」は、日本でも有名なアメリカの経済学者ガルプレ                             イスの代表作。源著の初版は1958年の公刊だが、その後何度か                            改訂され98年には四十周年記念の新版が出版された。ガルプレ                            イスは新版の序文で「初版で書いたことの多くを今でも承認してい                            る」と述べ、もっとも「満足」しているのは、「通年(conventional wis                          dom)に関する章だと回顧している。通年とは議論が正しいかどうか                           よりも、大衆の人気や賛成を得られるかどうかを基準に政治家や官                           僚および専門家が多用する観念であり、「われわれの幸福にとって                            も有害なもの」だとガルブレイスは批判する。その代表が「消費者主                          権」であり、通年は消費者の欲望が企業の生産を規定しているとい                            うが、ガルブレイスは生産を拡大するために企業のほうが宣伝や販                           売術を駆使して消費者の欲望を刺激していると反論する。つまり「ゆ                            たかな社会」においては、生産の拡大(経済成長)によって民間企業                          の利益は増加しても、消費者の福祉(幸福)が向上する保証はない                            というのだ。ガルプレイスが「消費者主権」の虚構を指摘したのは五                           十年近く前だが、生産の拡大を経済政策の目標に掲げる通年はいま                          も健在である。消費者の欲望をあえて創出しなければ売れない物を、                          企業がますます多く生産することにどのような意味があるのか、「ゆ                           たかな社会」では改めて問い直してみる必要がある。もちろん「ゆた                           かな社会」で生活する国民にも不満や不安はある。特に日本では老                           後の生活を保障する年金制度に不安を抱く国民が多い。その背景に                           は保険料を納めても、それに見合う年金がもらえないのではないの                            ではないかという制度不信がある。

年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可能か (中公新書 1901) 年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可能か                             (中公新書 1901)
価格:¥ 903(税込)
発売日:2007-06

これに対し社会学者の盛山和夫氏は「年金問題の正しい考え方」                           で、日本の制度は「多くの一般の人にとって・・・損はしないように                             できているという。ただ、「大きな政府」にして消費税を年金の財源                            とすれば高齢者も消費支出に応じて負担するから世代間の公平を                            確保できるとか、「小さな政府」にして各世代が自分の責任で老後                            の資金を積み立てれば負担と給付の世代間格差は解決できるとい                           った経済学者の「通年」はいずれも誤っており、現役世代の所得の                            一定割合を年金として給付する賦課方式こそ公平かつ持続的な制                           度だと主張する。公平や制度の問題を長年考察してきた盛山氏に                              とっては、「大きな政府」か「小さな政府」かを問う二者択一論ほど、                            ミスリ-ディングな「通年」はないのである。

少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ (岩波新書 新赤版 (1070)) 少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ                                   (岩波新書 新赤版 (1070))
価格:¥ 777(税込)
発売日:2007-04

日本の将来を考えれば、老後の年金と並んで構造的な少子化も                             深刻だ。その原因に関して「一般に流布しているのは<仕事をし                             たいから女性は結婚しない>という説」である。しかし、パラサイト・                            シングル論で一世を風靡した山田昌弘氏は「少子社会日本」で、                              9割の女性が結婚願望を持ちながら、三十代前半になっても3割                             の女性が未婚を続けているのは、結婚後の生活に不安がないだ                             けの所得を稼ぐ男性が少ないからだという。保育所や育児休暇な                             ど働く女性の支援も重要だが、少子か対策としては独身男性に、                             もちろん独身女性にも安定した就業と所得の機会を提供するほう                             がはるかに有効かもしれない。通年を打破しなければ、「ゆたかな                            社会」は生まれないのである。(高橋伸彰・立命館大教授解説)                                 

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