「響」・「WaZa」など首都圏に展開するダイナ ック(東京)グル-プは、胆振管内安平町の 夢民舎などの道産工房のチ-ズを積極的に 使ってきた。メニュ-を統括するチ-フマネ-
ジャ-小堺敏夫さんは「ナチュラルチ-ズといえば輸入品だったが、 産地のイメ-ジがいい北海道産はお客の反応もいい。安全・安心 志向にも合い、店の独自性が演出できる」と、食材としての「道産」 の魅力を指摘する。道農政部によると、道内のチ-ズ製造施設は 大手・中堅メ-カ-や学校などを含め九十ヵ所あり、十年で倍増。 全国の六割を占め、国産ナチュラルチ-ズの八割のシェアを占める。 中でもフェルミエと呼ばれる農家チ-ズを作る農家工房は三十六。 専門工房は二十四もある。首にひもをつけ、ひょうたん形をしたチ- ズ「カチョカバロ」を旅行客が手に取っていく。年間千八百万人が乗 り降りし、百九の土産物店や飲食店テナントがしのぎを削る新千歳 空港。タ-ミナルビルの一画にある乳製品売り場「酪農学舎」の 一番の売れ筋はイタリア伝説のユニ-クなチ-ズだ。牧家(伊達市) と花畑牧場(十勝管内中札内村)の製品。ねっとりとした舌触り、 フライパンで焼くと濃厚な味わいが口いっぱいに広がる。「かっては カマンベ-ルが定番でしたが、最近はカチョカバロやクセの強いハ- ドタイプが好まれます」とチ-ズ文化の広がりに驚きを隠さない。 JR東京駅前にある道産品のアンテナショップ「北海道ノ-デスト」 は千二百アイテムを季節により入れ替えるが、乳製品人気は根強 い。「ケ-キなどスイ-ツ類も含めナチュラルチ-ズは右肩上がり」 と店長は語る。
薄茶色でホルスタインより小ぶりな牛(写真クリック)が青草を食 べている。日高山脈のふもと、共働学舎(十勝管内新得町)は 1978年に開設以来独学でナチュラルチ-ズを作り続けてきた。 ブラウンスイス種は高タンパク乳を出すため、欧米ではチ-ズ向け の専用種として普及しているが、道内では本格飼育するのは同 牧場ぐらい。「1㍑の生乳で百二十㌘のチ-ズができるホルスタ インに比べ歩留まりは1~2割良い。草を食べて健康な北海道の チ-ズには最適」と強調する。地域の牛乳を地域で加工、消費す る「地乳地消」も各地で活発だ。釧路管内白糠町のチ-ズ工房 「白糠酪恵舎」は2001年設立。イタリアで学んだモッツァレラ、 モンヴィ-ゾなどが食通に注目され、札幌・丸井今井の「きたキッ チン」をはじめ、道内外七十社余りから引き合いが舞い込む人気 工房の一つだ。同社には「しらぬかチ-ズ友の会グッチ-ズ」とい う応援組織があり、町内や釧路の飲食店や学校給食の食材に使い、 料理講習会や試食会を開催するなど同社を応援。「地元でおいしく チ-ズを食べることこそ原点」という。品質・技術の向上と地場密着、 市場開拓か゛よい循環を生んでいる。チ-ズ工房の増加で、道は 本年度予算に釧根農試などでブラウンスイスの導入に向けた飼育 体系の確立事業など振興策を打ち出した。道産優良品などのブラ ンド戦略とともに「自然循環型酪農モデル」と位置づける。 ※チ-ズの里・興部町 オホ-ツク海沿いの網走管内興部町。人口四千五百人、酪農家数 百戸足らずの町でユニ-クな工房が技を競い合う。「ナチュラルチ- ズの里」として、全国からも注目を集めている。興部市街地を臨む 高台。古い牛舎を改造した作業場が立つ。チ-ズ工房「アドナイ」は、 1996年に当時は珍しかった本格的なイタリア系チ-ズ作りを目指 して設立した。牛乳は近くの牧場から買うが、モッツァレラ、スカモル ツァなど種類の多さは郡を抜く。早くからインタ-ネット通販を活用、 食通やプロの評価と希少性が目に留まり、大手百貨店の贈答用に 使われる。「わが家のチ-ズはこれなんだと胸を張れれば、イタリア でもフランスでも通用する」と強い自負をのぞかせる。国道239号を 西に走ると、酪農地帯の北興地区。「ノ-スプレインファ-ム」は、 二十七本の牛乳宅配から始め、バタ-、チ-ズなど乳製品、肉加工 品の生産と販路の全国展開、レストラン経営まで先駆的取り組みで 全国のモデルとなってきた。土嬢づくりから、栄養価の高い牧草をつ くり牛を育て、乳を摂ってチ-ズを作る。農場内の工場では、スタッフ 二人がゴ-ダ、スモ-ク、モッツァレラを作っている。さらに内陸に入っ た宇津の冨田ファ-ム。2002年開業の後発組だが、05年の「オ- ル・ジャパン・ナチュラル・チ-ズ・コンテスト」(中央酪農会議主催)で、 「富夢」の十八ヵ月が「ハ-ド部門」の金賞を受賞。応募二年目での 受賞で、周囲を驚かせた。乳牛六十頭を搾る典型的な農家工房で家 族による多角化経営を展開。冨田代表と長男は牛舎で牛の飼育に専 念し、チ-ズ作りは長女が担当する。女性の緻密さが短期間の上達 につながった。水産加工という異業種から参入、レンネット(酵素)のみ で固めるという独自製法の「ファ-メントチ-ズ」を開発した「乳食研」も 興部チ-ズの質と幅を広げている。健康な牛を育て、地元で加工し、 付加価値を高める。欧州の田舎にあるような「豊かな過疎」の可能性 が見えてくる。 ※北海道のチ-ズ製造施設