ひざの関節でクッションの役割をし ている半月版は、スポ-ツなどで割 れることがある通常は断裂部を縫い 合わせるが、大阪中央病院では、 縫わずにひざを固定し、修復につなげ る治療を行っている。自然治癒力を 利用した手法で体への負担が少ない という。半月版は、ひざ関節の左右に あり、大腿骨と、すねの頚骨 の間で、 ひざに掛かる体重や衝撃を分散し、和らげる。上から見る と三日月形をしており、幅約1・5㌢。軟骨に似た組織で弾力性が あるが、スポ-ツで着地やひざをひねった際に 断裂することがある。
症状は、痛み、関節が動かない、歩けないなど。 以前は、一度割れた半月版は治らないとされ、 放置すると割れた部分が邪魔になって痛みや 晴れがひどくなるため、切除するのが一般的だ った。ただ、半月版がなくなると、大腿骨と頚骨 の表面にある軟骨が直接当たってすり減り、再 び痛みが起きやすく「切除を避け、温存した方が いいとの流れが出てきた」と同病院の井上雅裕 整形外科部長は解説する。
1980年代には、米国の研究者が半月版にも血行があると報告。 血流があれば、割れてもくっつく可能性があるとして、損傷部を縫 い合わせる治療法が広まり、現在も主流となっている。同病院で も縫合手術をしていたが、15年ほど前に、バレ-ボ-ルで着地 時に半月版を損傷した女子高校生が来院。半月版は大きく割れ、 片方の組織が関節の中心部に移動していたため、井上部長らは まず、手術でこの組織を元の位置に戻した。約三ヶ月後、縫合し ようと内視鏡で観察したところ、割れたところが自然にくっついてい た。これを機に「環境さえ整えれば、症例によっては縫わなくても 自然に治る」と考え、縫合法と並行して90年前半から、縫合しな い治療を始めた。この治療では、ひざに約5㍉の穴を二つ開けて 内視鏡や器具を入れ、ずれた半月版を元の位置に押し戻す。修 復力を高めるため、金属製のやすりで断裂部をこすって出血させ、 手術は終了。ひざを伸ばした状態で約3週間固定する。縫合法の ような数㌢の皮膚切開は必要なく、手術翌日には松葉杖を使わず に歩くリハビリを開始。ひざに体重をかけることで患部の接着力が 増すという。初期に実施した五十八人で、手術から約三ヵ月後の 状態を評価。すると、半月版の外側から5㍉以内の、血行が豊富 な部位を損傷した五十一人では、うまくくっついた率(癒合率)は 94%。一方、5㍉を超える血行が乏しいところを損傷した七人では 29%に低下した。癒合した中で追跡調査できた四十八人中、三年 半の間に再断裂したのは五人だった。井上部長は「5㍉以内の症 例では癒合率は、再断裂とも、縫合した場合と同じか、それ以上 の成績だと分かったので、5㍉以内を適応の目安に二百人以上に 治療をしてきました」と話す。治癒には、血液に含まれる白血球な ど組織の修復を促進する物質が働いていると考えられ、皮膚の傷 が自然に治るのと同じ仕組み。老化に伴う損傷には縫わない治療 は行っておらず、血行がない部位の損傷やばらばらに割れたケ-ス では切除が必要になる。