カラマーゾフの兄弟 5 エピローグ別巻 (5) (光文社古典新訳文庫) 価格:¥ 660(税込) 発売日:2007-07 |
ドストエフスキ-「カラマ-ゾフの兄弟」は、世界文学史上にさんぜ んと輝く名作中の名作である。文庫版(岩波、新潮、光文社版)で 3~5冊にわたる長大な本作品は、父フョ-ドルと、ドミ-トリ-、 イワン、アリ-ョシャの3兄弟からなるカラマ-ゾフ家で発生する父 親殺しの物語が推理小説さながらにテンポ良く展開される。当初、 一族の葛藤の主軸は、色と金をめぐる欲望の虜となったフョ-ドル とドミ-トリ-の敵対関係に置かれる。しかし、物語の終局で父親 殺しの犯人は下男のスメルジャコフで、犯罪の動機にはイワンの 無神論が影を落としていることが明かされる。イワンがアリョ-シャ を相手に無神論を長々と展開する場面は、実存主義思想の結実と してよく引き合いに出される。他方で、敬虔(けいけん)なキリスト 教徒として設定されるアリョ-シャは、汚辱にまみれた登場人物の 中にあって、人間を天井世界に結びつける重要な役割を果たしてい る。ドストエフスキ-は、紛れもなく「神は死んだ」と高らかに宣言し たニ-チェの同時代人であった。といっても、ドストエフスキ-は敬 虔な信仰者アリョ-シャを造形する一方で、自己の思想の帰結を知 ったイワンを発狂させているように、本書において無神論を肯定して いるわけではない。神の存在は罪のない幼児に対する暴力といか に折り合うのかといった、イワンの問いにアリョ-シャは説得的な 回答を示すことができない。また、小説の末尾に置かれた、イリュ -シャという少年の葬式でアリョ-シャが子供たちに語りかけるシ- ンは美しく感動的だが、やがて子供たちが参入する悪の世界を予告 する点でどこか敗北敵でもある。一方、イワンの創造した「大審問官」 が、「パンのみにて生くる」蒙昧な民衆を信仰と精神の自由抜きに統 治する未来像も地獄である。ドストエフスキ-の慧眼は、無神論の出 現を歴史の不可逆な流れとしてとらえつつ、かつその困難な帰結を 冷酷な目をもって予告した点にあるだろう。 (水溜真由美=北大大学院准教授・・日本近現代思想史解説)
フョ-ドル・ミハイロピッチ・ドストエフスキ-=1821年11月11日 (ユリウス暦10月30日)~1881年2月9日(ユリウス暦1月28日) ロシア革命
フョードル・ミハイロビッチ・ドストエフスキー(Фёдор Михайлович Достоевский, 1821年11月11日(ユリウス 暦10月30日) - 1881年2月9日(ユリウス暦1月28日))はロシア の小説家、思想家である。レフ・トルストイやアントン・チェーホフと ともに19世紀後半のロシア文学を代表する文豪である。その著作 は、当時広まっていた理性万能主義(社会主義)思想に影響を受 けた知識階級(インテリ)の暴力的な革命を否定し、キリスト教に 基づく魂の救済を訴えているとされる。実存主義の先駆者と評され ることもある。