<幼児向き>
昨年、アストリッド・リンドグレ-ン賞を受賞した荒井良二さんは、今、 最高に乗っているようです。前作の「たいようオルガン」もよかったけ れど、この絵本も明るくて、あったかくてふわふわで、できたてのオ ムレツのようです。ぼくがはじめて一人でバスに乗る日。太陽から 黄色い、もこもこのバスが迎えにきました。空の広場で、楽しく、楽し く一生懸命お絵かきしているのは、ひょっとして、荒井さんかな?
寒い日が続きますね。夏の間は庭をほっつき歩いていたわが家のネ コもさすがに家の中です。でも、ゆきだるまは、どすん、ごろん、ごろん ごと雪の中でも元気に転がって、お友達を捜しています。おや?向こ うから赤い首輪をした犬がやって来ました。「いっしょに遊びたいな」と 思ったゆきだるまは、ずずずと足が出て、とっこ、とっこ、わんわんと楽 しそう。リズミカルな言葉が寒さなんて吹き飛ばしてくれそうです。
<低・中学年向き>
これは君島久子さんが中国のミャオ族から直接聞いた話です。日本の 羽衣伝説とよく似ていますが、ミャオ族の民話は天女が羽衣を見つけ た後、夫や子どもを連れて里帰りする話になっています。天女の父は 婿が気に入らず、婿に次々と難題を持ちかけます。これは日本神話の イザナギが黄泉(よみ)の国から逃げる話と重なります。この一冊の絵 本から、中国のミャオ族のことを調べるのも面白いですね。
まだもも色を「も-も-」としか言えないあかりちゃんは、家具屋さん でかわいい小さなもも色のいすを見つけました。あかりちゃんが大き くなって、もも色のいすに座れなくなっても、今度はぬいぐるみのクウ のいすになります。でも、ずっとあかりちゃんのお気に入りだったいす が、引越しの時、トラックから落ちてしまいます。そのいすを見つけた のは家を探していたノネズミの一家でした。大切なものへの愛着が 温かく伝わってきます。
<高学年以上>
十三歳のロ-ズはせっかくの夏休みをひとりで、母親の友達のいる 島で過ごさなければなりません。島にはロ-ズと同じ年のレアがいま す。でもレアは人の話す言葉をくりかえすのがやっとで、ロ-ズは最 初のうち、レアにもレアの母親にも心を開けないでいました。そこにく ったくのない年下のトムが現れて、いつのまにか三人は健常児と障 害児の垣根を越えて心が通い合うようになります。原題は「驟雨の 時」。十三歳という年齢は激しい雨をくぐって、再び輝く太陽に出会う 時かもしれません。
サトクリフの歴史小説がまた一冊、少年文庫になりました。サトクリフ の物語はイギリスの先史時代を舞台にしながら、決して華々しい英雄 物語ではありません。無名で、つねにどこかにハンディを持った若者が、 自分の置かれた状況の下で精いっぱい生きる姿に、読者は自分を重ね てきたのだと思います。本書の主人公も臆病なために兵士になれなか った軍医という屈折を抱えています。生涯車いすの生活をしながら執筆 を続けたその強じんな精神が、サトクリフの作品から確かに伝わってき ます。