ほぼ是好日。

日々是好日、とまではいかないけれど、
今日もぼちぼちいきまひょか。
何かいいことあるかなあ。

『旅をする木』

2006-08-25 | 読むこと。

6月に京都へ行ったとき、本屋さんでほんとに何気なくこの本を手にとりました。
星野道夫さんといえば、「アラスカの写真撮ってて、クマに襲われて亡くなった人」くらいしか知らなかったのですが、この8月で星野さんが亡くなられてちょうど10年だなんて、そのときは全く知らなかったのです。

他に買いたい本も見つからなかったので買ったものの、いろいろ読む本があって、カバーをつけたまま長い間ほったらかしでした
エッセイだし、待ち時間があるときでも・・・なんて思ってたわけです。
ところが、読み始めてすぐに、「あっ、これは大切に、じっくり読む本だ。ひまつぶしに読むような本じゃないぞ」と気がつきました。

このエッセイは「母の友」(福音館書店)に掲載されたものを中心にまとめられたものですが、とてもわかりやすい言葉で、アラスカの自然や出会った人々のことが綴られています。

アラスカという荒々しい大地で生活しているからこそ見えてくるもの、ありのままの自然の美しさや、そこで暮らす人々や生き物たちのたくましさなどが愛情深く語られているのです。

文明社会の真っ只中で、生きるという実感が希薄になってしまっているこの時代に、彼の文章は澄み切った水のように心に沁みわたっていきました。
未だ見たことのないアラスカの大地が、氷河やカリブーの大群やオーロラが、目の前に広がっていきます。


少し前に、TVで「新グレートジャーニー」を見ました。
人類発祥の地まで、長い時間をかけて自転車やカヤックで旅を続けた関野さんが、今度は日本人が来た道をたどる新しい企画です。

その中で、極寒の地で狩猟をしている人たちの生活を映していました。
私たちには想像もつかない厳しい自然の中で、狩りをすることに誇りを持ち、大自然に寄り添って生きている彼ら。

シベリアの遊牧民とアラスカのエスキモーの生き方が、私の頭の中でだぶりました。
人はもっとシンプルに生きていける。
そうしたら他の生き物や、自然や、地球の声すら聴くことができるのに。
そう思わずにはいられません。


このエッセイの中に、クマのことを書いた文章があります。

アラスカの自然を旅していると、たとえ出会わなくても、いつもどこかにクマの存在を意識する。今の世の中でそれは何と贅沢なことなのだろう。クマの存在が、人間が忘れている生物としての緊張感を呼び起こしてくれるからだ。もしこの土地からクマが消え、野営の夜、何も怖れずに眠ることができたなら、それは何とつまらぬ自然なのだろう。

星野さんが亡くなられた今、この文章を読むと何ともいえない気持ちになってしまいます。
彼はアラスカという地で暮らす以上、いつかこんな日がくるかもしれないと納得していたのでしょうか。
これも大自然のめぐり合わせのひとつだったのでしょうか。


タイトルにもなっている、「旅をする木」の話がとても素敵でした。
彼自身が「旅をする木」となって、私のところへやってきてくれた、そんな気がします。







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