司馬遼太郎『翔ぶが如く 第四巻~第七巻』文春文庫
人は経験を超えて発想できない。300年近い幕藩体制のなかで生きてきた人々が、その体制を崩してみたところで、改めて作り上げるのは結局のところ崩したはずの幕藩体制と然して変わらないものものであるような気がする。人に上下貴賤を付け、そのなかで無邪気に陣取り合戦をして勝ち組だの負け組だのと驕ってみたり卑下してみたりする。その土俵から一歩退いてみれば馬鹿馬鹿しいことでしかないのだが、土俵にあるとそれが世界の全てであるかのような気分になってしまう。人というのは哀しくも馬鹿馬鹿しい生き物だ。
最初に本書を読んだのがいつのことだったか記憶にないが、『菜の花の沖』が大学の入ゼミ試験の課題図書であったと記憶しているので、少なくとも大学2年のときには読んだはずだ。しかし、本書や『坂の上の雲』といった長編は社会人になってから手にしたような気がする。初めて読んだときにはそれなりに感心して読んだ、と思う。人生の黄昏時になって改めて読んでみると、なんだかしょうもない話のようにしか思えない。人の社会というものがそういうものでしかないということなのだろう。