万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

台湾の南シナ海仲裁判決に対する不支持問題への対応

2016年07月22日 09時30分58秒 | 国際政治
【緊迫・南シナ海】台湾の立法委員団が太平島を視察 領有権をアピール
 今月12日に示された南シナ海問題に対する仲裁判決は、中国の「九段線」として知られる歴史的権利を完全に否定し、事実上、南シナ海からの撤退を迫ることとなりました。

 日米をはじめとして、多くの諸国が本判決に支持を表明したのですが、残念なことに台湾は、歩調を合わせることはありませんでした。その理由は、中国に与したからではなく、スプラトリー諸島で台湾が実効支配している太平島(イツ・アバ島)への影響を懸念したからです。台湾(中華民国)は、戦後の1946年11月24に軍艦を派遣し、同島を占領しています(その後、サンフランシスコ講和条約で日本国が新南群島(スプラトリー諸島)を正式に放棄…)。以後、台湾は、太平島を自国の領土としてきましたが(ただしベトナムも領有権を主張…)、今般の判決では、太平島を含め、スプラトリー諸島にはEEZを設定し得る”島”は存在しないと判断されたのです。現段階では、台湾は、EEZを太平島には設定していないそうですが、台湾にとりましては、当判決は、海洋に関する権利の潜在的な喪失を意味しかねない事態を意味していたのです。

 この権利喪失のリスクは、日本国も同様であり、沖ノ鳥島問題は既に指摘されています。日本国の場合には、このリスクを承知の上で仲裁判決を支持したのですが、台湾の場合、判決の文中で太平島の名が明示されたため、そのショックは日本国の比ではなかったのでしょう。そして、この国連海洋法条約上の島の地位をめぐる問題は、日台のみのEEZ問題では留まらないものとなるかもしれません。満潮時に海面に沈まない礁を領土とし、EEZを設定している、あるいは、設定を予定している国は他にもあるからです。本判決は、当事国以外には法的拘束力は及ばないものの、島の地位をめぐり不安定化する海域が、全海洋で出現する可能性があります。

 仲裁裁判は、提訴の都度に仲裁官が選任されますので、他の満潮時に水没しない礁に関する判定は、ケース・バイ・ケースとなる可能性もありますが、如何なる判決であっても、当事国には、その判断に誠実に従う義務があります。

 その一方で、今般の判断に先例拘束性が認められる可能性もありますので、日本国政府は、台湾やベトナムを含め、同様の立場にある諸国との間で何らかの協議を行う、あるいは、国際社会に問題提起を行う必要はありましょう。例えば、今般の仲裁裁判では、島の判定に関する4つの大まかな基準が示されましたが、判定基準のさらなる精緻化や島と岩の区別の明文化…など、様々な論点があります(ガイドラインの作成も一案…)。国連海洋法条約では改正手続きも定めていますので、この際、紛争の平和的解決、並びに、紛争化の予防を促進すべく、島の認定に限らず、同条約の整備を進めてはどうかと思うのです。

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コメント (2)
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