万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

”公的行為天皇決定説”の危険性

2016年12月07日 15時36分26秒 | 日本政治
天皇退位、論点整理に着手=1月公表へ有識者会議
 報道によりますと、天皇の譲位-退位-問題に関連して首相の私的諮問機関として設置されている「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」では、今般、憲法に規定のない”公的行為”については、その時々の天皇の意向で決めてよいとする認識で一致したとされております。この”公的行為天皇決定説”には、以下に述べるような問題点やリスクがあります。

 第一に、有識者会議が託された議論は、本来、天皇の譲位(退位)に関する是非や手段の検討であり、象徴天皇の”公的行為”のあり方という、憲法にも踏み込むような問題については託されていないはずでです。ところが、報道が事実であるとしますと、”公的行為”に踏み込むのですから、議論の対象範囲を超えており、有識者会議の越権が疑われます。有識者会議に天皇に新たな権限を与える権限があるとしますと、それ自体が、憲法違反となります。

 第二に、仮に”公的行為天皇決定説”が採用されるとしますと、天皇は、自らの意思で如何なる”公的行為”をも新たに創造できることになります。現状では、地方訪問や被災地慰問に加えて、戦没者の慰霊のための海外訪問等も”公的行為”として既成事実化されていますが、次世代にあっては、自らが望むままに、皇室外交といった政治に深く関わる仕事を”公的行為”と認定する恐れがあります。

 第三の問題点とは、有識者会議にあっては、天皇の”公的行為”とは、”憲法に規定されていない行為”と定義されていることです。となりますと、憲法の枠外に”公務”が存在するという忌々しき事態となります。しかも、天皇の私的意向によって如何様にでも決められる自由裁量の公務となりますと、君主を憲法の枠外に置く超然主義ともなり、立憲主義の崩壊をも意味しかねません(立憲君主制からも逸脱…)。また、”公的行為”によって何らかの問題が発生した場合でも天皇が無答責となるならば、著しい無責任体質が出現し、事態はさらに深刻となります。

 さらに第4点として挙げられるのは、民主主義への脅威です。日本国憲法の第一条では、天皇の地位は主権の存する国民の総意に基づくと定められていますので、象徴天皇の”公的行為”については、最低限、立法措置が講じられるべきはずです。国民に問わずして、天皇が”公的行為”を自ら決定し得るとなりますと、それは、明らかに民主主義、国民主権に反すると共に、憲法違反の行為となります。この説を支持する人々は、天皇独裁体制を目指しているのでしょうか。

 以上に、主要な問題点を述べましたが、”公的行為天皇決定説”には、日本国の立憲主義のみならず、国民主権に基づく民主主義をも破壊するリスクがあります。さらには、有識者会議での”認識の一致”が、他の意見を排除する圧力ともなれば、言論の自由の危機でもあります。今般の皇室をめぐる動きには、強引、かつ、不自然な点があまりに多く、国民のあずかり知らぬところで何らかの勢力が蠢いている気配があります。そうであるからこそ、この説に潜むリスクは、計り知れないのではないかと思うのです。

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コメント (9)
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