万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国の憲法改正と国連の敵国条項

2018年02月09日 15時02分42秒 | 日本政治
憲法改正の議論に際して、最近、ネット上で奇妙な視点からの反対論が散見されるようになりました。それは、日本国が憲法第9条を改正すれば、国連憲章に定める敵国条項が適用され、中国による軍事行動を招くという説です。しかしながら、この説は、国際法上に根拠はなく、改憲を牽制したい中国の見解を代弁しているに過ぎないように思えます。

 その理由は、第一に、国連憲章上の敵国条項とは、その主たる目的は、連合国諸国が枢軸国諸国に対して第二次世界大戦の結果として行った措置を正当化するところにあります(国連憲章第107条)。恐らく、厳格に同憲章の諸規定を第二次世界大戦中の両陣営双方の行為に当て嵌めれば、連合国側にも違反行為があるため、同憲章の過去への遡及効果を否定したかったのでしょう。

 第二に、特に上記の懸念において問題となる憲章第53条についても、今日にあっては、日本国による侵略はあり得ない点を挙げることができます。第53条の条文は以下の通りです。

「…第107条によって規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極おいて規定されるものは、関係政府の要請に基づいてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負う時まで例外とする。(“地域的取極”では、国連安保理の承認なく、軍事行動を取ることができると言う意味…)」

この条文でまず注目されるのは、“侵略政策の再現”という文言です。日本国は、既に西側連合国諸国との間でサンフランシスコ講和条約を、中国との間でも日中平和友好条約を締結しており、第二次世界大戦で問題視された領域については、既に法的に確定されております。仮に、将来、日本国が軍事力で中国の主権を奪い、領域を併合するといった事態に至らない限り、“侵略の再現”とはならないはずです(戦前・戦中でさえ、日本国は、中国の領土を自国に併合してはいない…)。尖閣諸島問題は、第二次世界大戦とは無関係に生じており、平和的に解決する責任は、国連安保理の常任理事国でもある中国にこそ求められています(平和的解決の責務は全ての加盟国が負う…)。

 第三に指摘すべき点は、上記の第53条は、“地域的取極”を定めた第8章に置かれている点です。“地域的取極”とは、国連の目的と原則との一致を条件に、地域的紛争を、安保理に付託する前に自主的に解決することを目的として結成される地域的な安全保障の枠組です。しかしながら、第53条において強制行動(軍事行動)をとるには安保理の許可を必要とするため、現実には、NATOを始め、地域的な軍事同盟は、第51条で明記されている集団的自衛権を基礎として設立されています。つまり、“敵国条項”の対象となる“地域的取極”なるものは、今日、存在していないのです。
 
 また、1995年12月15日の第26回国連総会で採択された国連総会決議50/51では、敵国条項の空文化と将来の憲章改正に際しての削除が決定されています。以上の諸点を考慮しますと、国連憲章の敵国条項を理由とした改憲反対論は、実体のない“枯れ尾花”の如き空虚な議論と言わざるを得ないのです。敵国条項を徒に怖れるよりも、憲法改正により、条文内容を整理して明確化する方が、日本国の防衛と安全保障はより確かなものとなるのではないでしょうか。

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コメント (2)
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