万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日産ゴーン会長逮捕が暴く‘グローバリスト’の実像-野蛮への回帰リスク

2018年11月20日 13時08分19秒 | 国際政治
ゴーン流20年で統治不全「権力集中、負の側面」
 昨日、速報で報じられた日産のカルロス・ゴーン会長の逮捕は、同社が典型的なグローバル企業の一つであっただけに、衝撃的なニュースとして全世界を駆け巡りました。同氏が会長を務める仏ルノーの株価は大幅に下落し、東京やニューヨークの株式市場でも日産の株価が急落しています。経営危機にあった日産を立て直したゴーン氏は、一夜にしてその名声を失ったかのようです。

 ゴーン会長逮捕の一件は溜ってきた膿を出すチャンスともなり、長期的には企業経営にプラスに作用しますので株価下落もやがて収まるのでしょうが、本件は、‘グローバリスト’の実像をも明らかにしたように思えます。何故ならば、同事件で報じられたゴーン会長の罪状は、文明社会の規範や企業倫理とは遠くかけ離れていたからです。

 第1に、ゴーン会長は、公私の区別がつけていません。同氏は、オランダの日産子会社を介して海外の高級住宅を購入し、私的に使用していたそうです。あたかも会長ポストに付随する当然の特権かのように、会社の組織も財産も私物化しているのです。この他にも、会社資産の個人的な流用も疑われており、公私混同のメンタリティーは、前近代的な思考様式と言わざるを得ません。ゴーン氏は、レバノン系ブラジル人として出生し、パリで教育を受け、アメリカや日本国で働いた経験を有する典型的なグローバリストですが、このグローバルな多様性は、必ずしも清廉潔白にして自己を厳しく規律する理性的な現代人のメンタリティーを伴うわけではありません。むしろ、先進国に前近代的なメンタリティーを持ち込む‘キャリアー’ともなり得るのです。

 第2に挙げられる点は、その植民地主義への回帰です。日産社員の談によりますと、日産とルノーとの関係は、表面上は対等を謳いながらもその実態は日産がルノーによって‘植民地’にされているかの如きなそうです。ルノーの利益の凡そ5割は日産から上がっており、後者の利益が前者によって吸い上げられているのです。植民地支配の特徴の一つは宗主国による植民地の搾取ですが、財政移転の方向性を基準にすれば、ルノーが日産を植民地化しているとする見方も成立するのです(なお、日本国の朝鮮統治が植民地支配ではないとされる理由は、財政移転の方向が宗主国⇒現地であり、植民地一般と逆であるから…)。グローバリズムによる企業間の連携やM&Aは、時にして植民地主義を復活させてしまうのです。

 第3に指摘すべきは、傲慢な独裁主義の長期化です。日産のトップに就任して以来、ゴーン氏が同社においてリストラの柱としたのは大量の人員削減でした。日本国の企業は、‘村社会’とも称されたように、伝統的な村落に類似した共同体的な組織を企業文化として培ってきましたので、情が働いて解雇といった社員を路頭に迷わせるような酷な手段を極力避ける傾向にありました。日産のように経営が倒産の危険水域まで傾いた場合には、しがらみのない部外者を招いて合理主義に徹した改革を実行するのも致し方ない面もあり、実際に同氏招聘による改革が奏を効してV字回復を遂げたのでしょうが、長期的に見れば、日産の社内体質を変え、独裁体質を根付かせてしまう機会となったことも否めません。その後も同氏は、日産の救世主の名の下で君臨しつづけ、5年間で50億円という法外な報酬を受け取り続けたのですから。しかも、日産立て直しの期間にあっては実績と報酬は釣り合っていたものの、それ以降は、同氏の報酬は実績を伴ったとは言い難くなります。先立って発覚した検査不正事件に際しても、ゴーン会長は、最高責任者として陣頭指揮を執って対処するどころか、関西のとある島で家族と過ごしていたそうです。無責任なトップが高給を食み、豪遊しているようでは、社員の士気も下がりましょう。これではまるで、どこかの国の独裁者かのようです。

‘グローバリスト’と申しますと、時代の先端を切り開くクールで理知的、かつ、遠の昔にネポティズムや権威主義とは決別した‘新しいタイプの人々’とするイメージがありますが、その実態が欲望にすこぶる弱い泥臭い‘おじさん’であったことを、ゴーン氏は、図らずも自らの身を以って明かしてしまったのかもしれません。

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コメント (4)
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