万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日産問題は‘統合vs.独立’の相克の縮図

2018年11月22日 15時55分13秒 | 日本政治
日産・ルノー・三菱自、ゆらぐ力関係 「扇の要」失脚で3社連合に暗雲
カルロス・ゴーン会長の逮捕劇は、日産、仏ルノー、三菱自動車の三社連合の要であった同氏の立場が立場なだけに一民間企業の一個人による不祥事として扱うには、あまりに多くの問題を含み過ぎております。そしてそれは、今日、人類が直面している‘統合’と‘独立’との間に見られる相克の縮図でもあるように思えます。一般的には、‘統合’と‘分離’、並びに、‘支配’と‘独立’が一対の反対語とされています。ところが、今日のグローバル時代にあって、抜き差しならない状況に至ったのは、‘統合’と‘支配’、並びに、‘分離’と‘独立’が一体化して進行する現象が起きているからです。

日産の事例を見て見ますと、日産と仏ルノーとの関係は、後者が日産の議決権付き株式の43.4%を有する大株主である一方で、前者は、仏ルノーの議決権が付与されていない株式を15%保有しています。しかも、フランス政府もルノー株の15%を保有しており、同社はグローバル企業、かつ、半官半民のハイブリットな企業でもあるのです。その一方で、日産・三菱自動車との関係は、日産が同社の株式の34%を保有する形で形成されていますが、三社連合の目的が、グローバル市場における‘規模の経済’の追求にあったことは容易に想像できます。

 株の持ち合いの構図からすれば、仏ルノーが三社グループの筆頭の地位にありますが、企業としての売上高を基準に三社を比較しますと、三社間の関係は変化します。2017年の売上高を見れば、ルノー7.6兆円、日産12.0兆円、三菱2.2兆円となりますので、日産とルノーとの関係は逆転し、同グループにおける‘稼ぎ頭’は日産となるのです。

 こうした株式保有と売上高との間に見られる非対称な‘ねじれ関係’は、日産側に不満をもたらす原因ともなってきました。同社は、ルノー側の巨額出資とゴーン会長の辣腕により経営危機を脱したものの、今や、ルノーの売上高の半分が日産による株主配当等の‘移転’によって支えられる状況が常態化してしまったからです。しかも、三社連合では、企業活動を9つの分野に分けて分野ごとに統合を進める「機能統合」という手法が採用されているそうです。このシステムでは、各分野の統括者として設けられた「アライアンス・リーダー」の各々がトップのゴーン会長に報告する集権型の指揮命令系統となります。三社の上部に超越的地位を設けるパーソナルな統合形態こそ、ゴーン集権体制を支えてきた仕組みなのです。つまり、3社は並列的な関係ではなく、グループ内の垂直的、かつ、人治的なシステムに組み込まれているのであり、この結果、日産側は、独自の決定権限を‘三社連合’にいわば奪われる格好となるのです。

 マスメディアの風潮では、グローバル化の時代とは統合の時代でもあり、特に国境を越えた企業間の結びつきは手放しで称賛されております。しかしながら、統合とは、常に独立性の喪失と背中合わせであり、これは、ヨーロッパ諸国がEUと加盟国との間で権限の配分をめぐる‘綱引き’として嫌と言う程に経験してきたことでもあります。日産のケースでは、出資比率が三社間の‘序列’の決定要因となったため、見方によっては、日産がルノーに‘支配’され、EU以上に不平等な関係が固定化されてしまったとも言えます。そして、ゴーン氏が、フランス政府の意向を受けて、日産の完全子会社化といった手法で日産を仏ルノーに‘献上’し、完全統合を目指したまさにその矢先に、今般の事件が発生したのです。

 タイミングがタイミングだけに、‘日産のクーデタ’とも評されるのですが、本事件は、‘統合’というもののリスクを余すところなく示しております。今後の行方につきましては、ポスト・ゴーン体制として、より人に頼らないよりシステマティックな三社間の統合を深化させる、あるいは、資本関係を中国企業等の他国企業にも広げて統合を拡大させる、といった意見も聞かれます。しかしながら、資本力が優位となるグローバル時代にあって、‘統合’が独立性を失い、支配されるリスクを伴う現実を考慮しますと、日産は自社の独立性こそ高める道を探るべきかもれません。真のグローバリズムとは、国家間にあっても企業間にあっても独立性や対等性が確保されてこそ全人類に益するのであり、‘統合’が‘支配’と同義となってはならないのではないと思うのです。

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コメント (2)
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