万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日産問題から見える日仏を超える支配?

2018年11月23日 14時14分08秒 | 国際政治
日産ルノー連合継続「強く支持」 日仏閣僚会談、沈静化図る
日産のゴーン会長逮捕事件は、同社が仏ルノーと提携関係にあるため、日仏両政府が揃って日産ルノー連携の維持を支持する共同声明を発表する事態にいたりました。混乱の早期鎮静化を狙った支持表明ですが、フランス政府がルノー社の15%の株式を保有する筆頭株節であるのに対して、日本国政府は日産株を保有していませんので、ここでもグローバリズムが想定する政経分離は理念に過ぎなかったことになります。そして、日産問題は、‘統合’に纏わるもう一つの問題を提起しているように思えます。

 ‘統合’とは申しましても、細かく分類して見れば幾つかのタイプがあります。例えば、(1)参加者が全員対等の立場となる並列型、(2)参加者のうち、特定のメンバーが他のメンバーを支配する垂直型、(3)全参加者の上部にこれらを統括するポストを新設する超越型、さらには、(4)参加者が組織である場合には、一旦、全ての構成員を分解して再組織化する融合型などを挙げることができます。グローバリズムの理想は(4)なのでしょうが、日産、ルノー、三菱自動車の三社連合のケースを観察しますと、これらの要素を全て含む混合型のように見えます。表向きは三社対等の(1)でありながら、資本関係からその実態はルノーが主導権を握る(2)であり、日産の経営陣の構成に注目すれば、(4)の側面もないわけでもないからです。そして、同三社連合には、(3)、即ち、超越型の要素も垣間見られるのです。

 報道に拠りますと、ゴーン容疑者の不正行為の温床となったのは、オランダの子会社であったそうです。実のところ、三社連合の本拠地とは、日本国でもフランスでもなく、オランダのアムステルダムに設置されており(アムステルダムには、ルノーと日産が対等出資して設立された共通本社機能を有するルノー日産BVと日産の投資子会社ジーアの二社があるらしい…)、同氏は、この地を居住地としていたらしいのです。同地に本拠地を構えた理由については、日産の幹部の憶測として‘個人情報の開示義務が緩く、所得税も低い’点が挙げられておりましたが、この憶測が正しければ、ゴーン容疑者は、自らの個人的な金銭欲のために三社連合を私物化し、私益のために利用したこととなります。日産の利益がルノーに吸い上げられ、かつ、決定権も握られる資本関係から生じる両社間の‘いびつな日仏企業間関係’の他に、今般の事件には、カルロス・ゴーン容疑者個人、並びに、そのパーソナルな属性に起因する(3)の超越型による‘企業乗っ取り’、あるいは、利益を外部に横流しにする‘ループ造り’というリスクが認識されるのです。しかも、その舞台がオランダであることには、陰謀めいた意味があるようにも思えます。(*2019年1月に発信された情報では、アムステルダムの統括会社は、日産・ルノーではなく、日産・三菱自動車の二者による共同出資で設立されたらしい。)

 本事件では、ゴーン容疑者の他に、代表取締役を務めていた腹心のグレッグ・ケリー容疑者も逮捕されておりますが、果たして、超越型の統合による三社連合の掌握は、ゴーン容疑者一人の個人的な野望によるものなのか、それとも、組織的な活動であったのか、この点については情報不足のために不明です(両者ともイエズス会系の教育機関で学んでおり、共通点がある…)。しかしながら、‘統合’の結果、企業連合の最高決定権が同連合を構成するメンバー企業の手を離れ、個人、あるいは、外部者に移ってしまうリスクがあるとすれば、国際的な企業間連携には、相当の注意が必要ということにもなります。

 なお、日産問題も元をただしますと、規模を追求せざるを得ないグローバル時代の企業間競争の在り方に問題があります。WTO改革では、知的財産権の保護や政府補助等の問題が中心課題となるようですが、今般の事件を機に、規模に優るグローバル企業、あるいは、企業グループしかサバイバルできない、否、サバイバルしているように見えながら、その実、‘統合’による独立性の喪失、あるいは、従属化というリスクをはらんでいる現状を、競争政策強化の観点から見直すべきではないかと思うのです。

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コメント (2)
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