万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

奇妙で怪しい菅官房長官の地銀再編政策

2020年09月08日 12時34分20秒 | 国際政治

 菅義偉官房長官は、今や日本国の次期首相とも目されており、自らの生い立ちをも語る自民党総裁選挙への出馬表明も、首相就任演説と見紛うばかりでした。記者会見の席であれ、その菅官房長官が次期政権の政策として挙げているのが、地方銀行の再編です。乱立気味の中小の地銀の合併を後押ししようとする政策なのですが、この政策、どこか怪しいのです。

 

シャッター街が目立つようになった近年の地方経済の低迷は、地域経済に密着してきた地方銀行の危機でもあります。実際に、経営危機に陥る地銀も少なくなく(2018年では106行中54行が赤字経営…)、地銀再編は、地方銀行救済の側面がないわけではありません。安倍政権下にあっても、今年の5月20日には、地方銀行同士の統合や合併を独占禁止法の適法外とする特例法が成立しております。菅官房長官も、同方針の継承を再確認したのかもしれないのですが、次期政権の目玉となる政策としては、どこか唐突な観を受けます。

 

上述した特例法の主たる対象は地方銀行同士の合併であり、余裕のある第一地銀が経営難にある第二地銀以下を吸収する形態を想定しているようです。実際に、業務提携や資本提携によって地方銀行が連携する事例も見られます。実のところ、法制定に先立って、水面下では既に地銀の再編は進んでおり、2015年から2018年にかけて金融庁が積極的に後押しした結果なそうです。そして、当時の金融庁長官と「菅・森ライン」を形成し、地元政治家の抵抗を廃すべく、同政策の後ろ盾となったのが、菅官房長官その人であったというのです。同官房長官は、外交の表舞台で活躍する安倍政権を陰ながら支える裏方のイメージがありますが、その実、内政の場、とりわけ金融方面にあって、目立たぬように‘改革’を進めてきた影の‘実力者’であったのかもしれません。

 

しかもこの構想、道州制とも関連しているとする指摘もあります。‘一県一行’ではなく、例えば、青森県では青森銀行とみちのく銀行の合併案に加えて、さらに岩手銀行と秋田銀行とも合併する広域構想もあるそうです。もっとも、道州を越えた地銀間の連携の動きもありますので、道州制との関連を決めつけるわけにはいかないのでしょうが、次期菅政権にあって、橋元徹氏の総務相としての入閣が急浮上してきたのも、あるいは、同官房長官には、公明党のみならず、維新の会との直接的な繋がり、もしくは、‘共通のバック’を介しての間接的な繋がりがあるのかもしれません。

 

そして、地銀再編が関心を集める中、メディアにあって、地銀再編における‘台風の目’、あるいは、‘実行部隊’として名が挙がっているのが、ソフトバンク系列のSBIです。SBIによる地銀攻略は、同社が掲げる‘第4のメガバンク構想’の一環です。SBIは、証券業から出発していますので、特例法が想定している地方銀行ではないのですが、今や34%の出資で島根銀行の筆頭株主となると共に、福島銀行、大東銀行、清水銀行、筑邦銀行にも出資しております。救済の名の下で全国各地の地方銀行を次から次へと傘下に収めることで、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほフィナンシャルグループと並ぶ、‘第4のメガバンク’への衣替えを狙っているのです。

 

そして、ここで、一つの推理が浮かんできます。地銀の再編とは、まずは第一段階として体力に乏しい中小の地方銀行を合併させ、黒字を計上し得る程に経営基盤を強化させた後に、第二段階として、これらの一部であれ、SBIに譲り渡すため、あるいは、合併から漏れた地銀をSBIの傘下に置くためのプロジェクトではないのか、というものです。さらに推理を膨らませれば、それは、SBIの背後に控える金融組織から、首相の座と引き換えに菅官房長官に与えられた‘ミッション’であるのかもしれません。携帯通信大手のソフトバンクも、新興企業でありながら、既存の企業や設備を買収する方法で三大キャリアの一角を占めるようになりました(寡占化…)。また、こうした強引な手法は、自らの辞任と引き換えに再生エネ法を成立させ、ソフトバンクに利益誘導を行った民主党の‘菅元首相’をも思い起こさせます。SBIによる地銀への出資は金融庁も、同構想を支持しているというのですから、政府によるSBIへの利益誘導、あるいは、政府とSBIとの癒着も疑われましょう。

 

地銀は、地域密着型の金融機関ですので、国民の多くも直接的な影響を受けるはずです。日本国民の多くは政治に対する関心は薄く、誰が首相になっても変わりはないと考えてきましたが、今後は首相に就任する政治家についてはその背後に至るまで詳細に調べる必要があるのではないでしょうか。上述した推理が杞憂であることを願うばかりなのです。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする