万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

入国制限緩和措置の習主席国賓訪日のため?

2020年09月25日 12時47分17秒 | 国際政治

 発足間もない菅政権は、早々に、新型コロナウイルス対策として実施してきた外国人の入国制限を緩和する方針のようです。当面の間は、観光客を除く中長期の滞在者とし、入国人数も一日1000人に限定するそうですが、諸外国において感染の再拡大が報告されているだけに、国民の多くも、新政権の‘スピード感’には不安を感じていることでしょう。しかしながら、この措置には、幾つかの疑問点があります。

 

第一に、報道によれば、入国再開は全ての諸国を対象としているそうですので、今後、中国からもビジネス関係者や留学生等が多数来日することになります。米中対立の最中にあって、中国による積極的な対外工作活動が既に明るみとなっており、当然に、日本国内においても、書類上の来日目的とは異なる様々な活動が行われていることでしょう。日本国のファイブアイズ入りも取沙汰される折、アメリカの同盟国でもある日本国が中国に対して融和的な政策に傾けば、自由主義国からの信頼を損ねる結果を招きかねません。国際情勢から判断すれば、中国に対しては、防衛、並びに、安全保障の観点から特別に規制を設けるべきこととなりましょう。しかしながら、日本国政府は、あっさりと中国も入国再開対象に含めてしまったようなのです。

 

第二の疑問点は、新型コロナウイルス禍が未だ収束しておらず、変異型の拡散も懸念されている点です。国立感染症研究所によりますと、6月から突如、武漢株でも、欧州株でもない、新たなタイプの新型コロナウイルスが突然に出現して感染が広がったそうです。6月と言えば厳しい入国制限を敷いていた時期に当たりますので、入国禁止措置にも拘わらず、外国から変異した株が新たに持ち込まれた可能性を示唆しています。また、日本国内で変異したとしても、入国者が増加すれば、これらの人々が自国に‘日本株’を持ち帰るリスクも高まります。感染の拡大防止の観点からも、現時点での入国規制の緩和には疑問が呈されるのです。

 

第三に指摘し得る点は、全世界レベルにおいてリモート化が進んでいることです。留学生の入国も認められるそうですが、日本国内の大学の大多数が、現在、遠隔講義を実施しておりますので、海外の自宅にあってもパソコンやスマートフォン等があれば受講できるはずです(情報統制が徹底されている中国の場合には難しい?)。また、ビジネスの世界でもリモート方式が定着しており、日本国に入国せずとも、現地での在宅勤務のみならず、商談、ビデオ会議、業務上の支持などもオンライン上で事足ります。必ずしも国境を越えた人の移動を伴わなくとも、広域的な経済活動を維持することはできるのです。習主席の来日も、‘リモート訪日’を日本側から提案すれば、中国側は、どのように反応するのでしょうか。

 

規制緩和によって利益を得るのは、外国人研修生や労働者、研修生を雇用する事業者、並びに、その斡旋を生業とする派遣事業者等ということになるのですが(あるいは、中国共産党幹部等への便宜供与?)、コロナ失業が深刻化する中、むしろ、日本国の雇用対策として、これまで外国人への依存性の高かった事業分野への日本人の就業を促す方が、国民のための政策とも言えるように思えます。もっとも、コロナ不況下にあっては、観光業など、昨今、とみに外国人頼りであった分野でも人手は足りているかもしれませんが(むしろ、日本人であれ、外国人であれ、解雇が懸念される…)。

 

以上の諸点からしますと、積極的に入国制限を緩和する必要性は薄いのですが、それでは、何故、菅政権は、入国緩和を急ぐのでしょうか。新政権発足時から、自民党の二階幹事長の影響が懸念されていましたが、政府が入国再開を急いだ理由は、もしかしますと、習近平国家主席の国賓待遇での来日向けた‘環境整備’であるのかもしれません。安倍前政権にあって、今春に予定されていた習主席の国賓来日が先延ばしとなったのは、香港問題でも、ウイグル問題でもなく、新型コロナウイルス対策という公衆衛生上の理由からでした。否、日本国政府が、感染拡大のリスクを知りながら中国を対象とした入国禁止措置を躊躇したのも、同主席の国賓訪日に配慮したためとも指摘されています。自民党内でも、若手を中心に同主席の国賓訪日の中止を求める声もあり、昨日24日には、党内の保守派議員が国賓来日中止を決議したそうですが、菅首相は、同問題に対する態度は保留しています。本日予定されている日中首脳間の電話会談の内容が注目されるところですが、韓国は、中国からの圧力に屈してか、既に同主席の訪韓を認めていますので、日本国政府の対応も要注意なのです。少なくとも、今般の入国再開措置により、新型コロナウイルスは、国賓来日を阻止するカードとしては使えなくなるのは確かなことです。

 

政府が制限緩和を検討する要因として、報道では、‘欧州をはじめ各国からの要請が強く’、この傾向を‘世界の流れ’としておりますが、本当のところは、中国からの要請を受けてのことかもしれません(欧州の場合には、EUにおいて‘人の自由移動’を認めているところが大きいのでは…)。そして、新型コロナウイルスを理由に習主席の国賓来日を断れないとなれば、日本国政府は、習主席の国賓来日問題は、中国の非人道的な行為、そして、覇権主義に対する姿勢を、内外からストレートに問われることになるのではないでしょうか。この時こそ、自由主義国の一員なのか、全体主義国の一員なのか、日本国が、旗幟を鮮明にする時ともなるのではないかと思うのです(日本国民と政府が対立する可能性も…)。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする