万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

岐路に立つ日本国―自民党も‘デカップリング’が必要では?

2020年09月13日 12時54分58秒 | 日本政治

米中対立が激化する中、日本国もまた、否が応でも自らの立ち位置を明確にすべき状況にあります。近年、頓に高まる中国の軍事的脅威、並びに、日米同盟による絆を考慮しますと、日本国民の多くは、日本国がアメリカ陣営、即ち、自由主義陣営に与するのは当然のことと見なしていることしょう。しかしながら、政界の動きを観察してみますと、安心してはいられないように思えるのです。

 

 自民党の総裁選挙を前にして、目下、菅義偉氏、岸田文雄氏、そして石破茂氏の3名の立候補者がそれぞれの政策や持論を述べておられます。ところが、何れの候補者の主張を聴きましても、肝心の中国との関係については言葉を濁しているのです。否、中国と袂を分かつ事態を想定している候補者は皆無に等しいと言えましょう。質問者の側が、米中対立における究極の選択について意見を求めないことにも原因があるのでしょうが、この曖昧さは、国民に漠然とした不安感を与えざるを得ません。中国陣営、即ち、全体主義陣営の側に‘転ぶ’可能性が敏感に感じ取るからです。

 

 総裁選の結果は、地方票を含めても菅氏圧勝という予測が圧倒的ですが、国民の不安は、同氏が勝利を確実にしたプロセスからさらに増しています。言わずもがな、同氏の独走態勢を方向づけたのが、かの新中派のドン、二階幹事長であったからです。古い自民党への回帰とも称されているように、‘義理と人情’の世界で生きてきた菅氏が、二階幹事長から受けた‘恩’に報いないはずはありません。また、菅氏のもう一つのバックである公明党も、中国との間に独自のパイプを有する親中派政党であるのみならず、‘総体革命’を掲げ、教団トップが信者に対して独裁者のように君臨してきた組織形態において全体主義的でもあります。自由、民主主義、法の支配、基本的権利の尊重といった自由主義国で尊重されてきた諸価値を共有しているわけではなく、むしろ、中国との親和性が高いのです(創価学会が殊更に‘平和’を強調するのは、中国と同様に、その他の諸価値を蔑ろにしているからかもしれない…)。

 

 菅氏を取り巻く状況から推測しますと、次期政権は、親中政権となる可能性は相当に高いように思えます。加えて、同氏は、対中包囲網の形成にも否定的との報道もあり、安倍政権の継承者としてのアピールも怪しくなります。安倍政権の最大の外交成果として挙げられているのが、‘自由で開かれたインド・太平洋戦略’への貢献なのですから(もっとも、同戦略は、米中関係の本格的な対立激化を予測したものではなく、対中圧力としての利用のみを期待したのかもしれませんが…)。これでは、前政権との断絶を自ら宣言するようなものです。安倍首相の退陣が親米政権から親中政権への転換を意味したとしますと、後世の歴史家は、今般の政変を政権内の‘無血クーデタ’と評するかもしれません(国民は、僅かな空気の変化にこそ敏感になるべきかもしれない…)。

 

 そして、ここで問題となりますのは、第二次世界大戦前夜と同様に、国家の一大事が国民を無視する形で決定されてしまうことです。全体主義者は常々自らの目的を実現するために、既成事実化の手法を用います。有無を言わさずに、自らの決定を押し付けてくるのです。その後は、国民を監視下に置き、同調圧力を利用しながら反対の声を封殺してゆくという、お決まりのコースを辿ろうとすることでしょう。公共放送のNHKや民放各社、新聞各社などのマスコミをも動員して、中国美化や中国礼賛のキャンペーンを張るかもしれません(実際に、NHKには既にこの傾向が見られる…)。

 

しかしながら、今日、日本国には民主主義が根付いていますし、国民の情報量は戦前の比ではありません。況してや、圧倒的多数の日本国民が残忍で強圧的な中国に対して良い感情を懐いていない状況にあって、たとえ、政府が中国陣営入りを決定したとしましても、国民の間から反対や抵抗の声が上がることでしょう(事実上、中国による日本国の属国化を意味してしまう…)。こうした事態は、事前に避けるに越したことはないのですが、そのためには、先ずは、親米政党を看板としてきた限り、自民党が二つに分かれるべきなのではないでしょうか(もっとも、‘双頭作戦’では困りますが…)。自民党も親中派一色ではないはずですし、自らの党が中国派に乗っ取られてしまった現状を憂いている議員や党員も少なくないはずです。自民党がデカップリングし、親米派と親中派の二つの政党に分かれれば、有権者には選択の余地が生じます。少なくとも、主権者である日本国民には、自由主義陣営を選択する権利が認められるべきではないかと思うのです。


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