万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

世論の‘決めつけ’問題-異常に高い菅政権への支持率

2020年09月19日 12時59分30秒 | 日本政治

 菅新政権に対しては、何れのメディアのアンケートによる世論調査でも支持率が60%を超えており、数字の上では、‘悪夢の時代’とも評された民主党政権がようやく幕を閉じ、‘平常’への回帰が期待された第二次安倍内閣発足時の支持率をも上回るそうです。メディアは、圧倒的多数の国民からの支持を‘決めつけ’ていますが、鵜呑みにしてもよいのでしょうか。

 

  ‘決めつけ’とは、凡そ、本人が決めることであっても、他者が決めてしまうことを意味します。例えば、今月17日に開かれた石破派のパーティーの講演の席で、二階幹事長は、‘日中関係は、今や、誰が考えても春’と述べ、習近平国家主席の国賓訪日に期待を寄せています。中国の傍若無人ぶりが白日の下に晒されている今日、誰もが日中関係を‘春’と捉えているとは思えません。少なくとも、筆者のように日中関係は‘冬’と捉えている人が存在していることこそ、同幹事長の‘決めつけ’に対する反証ともなりましょう。全体主義に対してシンパシーの強い人ほど、自らの見解を他者に押し付けようとするものです。一党独裁体制を敷く中国でも、如何に実態とかけ離れていようとも、共産党の主張する世論が中国国民の‘世論’なのですから。

 

 もっとも、上述した日本国のメディアによる菅政権高支持率の‘決めつけ’は、一先ずは世論調査を根拠としていますので、主観的な願望に基づく全くの‘捏造’とも言い切れない側面があります。しかしながら、昨今、世論調査に対する信頼性は揺らいでおり、しばしば、その作為性が批判の的ともなっています。アンケートの対象、人数、設問の内容、質問の順番などの操作によって回答を誘導することができますし、有効回答率を見ましても、50%を下回る調査も少なくないからです(例えば、日経新聞社の世論調査では、有効回答率は凡そ47%に過ぎない…)。アメリカ大統領選挙でも、世論調査と実際の投票行動との間には違いがあり、メディアによる選挙予測が外れる要因として指摘されています。アメリカでは、正直に答えることによって社会的不利益を被ることへの懸念から、リベラルを装う風潮が世論調査と選挙結果との間の主たる乖離要因とされていますが、日本国にあっても、現政権に対して否定的な見解の人ほどアンケート調査の回答を拒む傾向にあるのかもしれません。

 

 かくして、政治家やメディアによる世論の‘決めつけ’には注意を要するのですが、正直申し上げますと、本ブログでも‘決めつけ’と批判されそうな表現が随所に使われております。例えば、菅新政権に対する国民の‘失望感’や‘不安’について、再三にわたり言及しています。これらの‘決めつけ’につきまして釈明をお許しいただけますならば、以下の二点を挙げることができます。

 

 第一点は、本ブログでの‘決めつけ’は根も葉もないものではなく、一般の人々によるネット上の意見やコメント等を読んだ上で、一般的な世論傾向として判断しております。菅政権については、積極的に支持したり期待する意見は少なく、むしろ、不安視する声の方が多数を占めておりました。実際に、YAHOOニュース上の「みんなの意見」を見ますと、支持・不支持ではなく、「菅内閣が発足、期待が大きい? 不安が大きい?」という設問ではありますが、56%の人々が‘不安が大きい’と回答しています。同アンケートの参加者数は凡そ13万人にも上り、凡そ1000人程度の規模で実施されるメディアの調査数とは雲泥の差があります。もちろん、工作員説や世代片寄り説もあるのでしょうが(もっとも、‘五毛’と称される中国系ネット工作員は菅政権を支持する回答を行ったのでは…)、同アンケート結果は、実施規模において説得力があります。

 

 第二の点は、菅政権の掲げる政策の多くが、国民の利益や望みに適っているとは言い難い点です。とりわけ、二階幹事長の影響力の拡大が指摘されているように、先ずもって親中傾向が強まることに対する警戒感があります。観光業に関しても、疑問や反対の声が少なくないにも拘わらず、コロナ禍も冷めやらぬ内にインバウンド再開への方針を示しております(早々に入国規制を緩和して、中国人観光客を呼び込むのでは…)。また、内政を見ましても、新自由主義への著しい傾斜が見受けられます。国民の多くがマイナンバーカードに対して懐疑的であり、発行数も低迷している現状にあって、デジタル庁の新設を以って政府に対する国民の信頼が劇的に改善されたとも思えません。また、農政につきましても、2030年を目度に農産物の輸出量を5倍に増やし、5兆円規模に引き上げる政府目標を打ち出していますが、輸出重視の政策では、自給率の改善や国民に対する安全な食料の提供は危うくなりましょう(農業の海外依存度が高まり、日本国は、中国富裕者層向けの高級食材供給地にされるのでは…)。加えて、強力に推し進めると宣言された規制緩和は、より一層の勤務形態や就労形態、延いては国民生活の不安定化を招くかもしれません。

 

 もちろん、携帯料金の値下げや給付金の再支給といった、国民受けのよさそうな政策もないわけではありません。しかしながら、そもそも寡占化による高水準の携帯料金は民営化の失敗、あるいは、値下げに消極的であった前政権の怠慢とも言えますし(あるいは、真の狙いは、中国のようにスマートフォンを国民監視システムの端末化することかもしれない…)、給付金支給は、政府からの‘施し’ではなく、納税者であり、かつ、日本経済を支えてきた国民の当然の権利でもあります。こうした‘目玉の政策’は、水面下にあって新自由主義的政策を推進するための‘目くらまし’であるのかもしれません。掲げている政策を見ますと、菅首相の庶民派イメージとは逆なのです。

 

 以上の諸点を考え合わせますと、60%以上の国民が菅政権を支持しているとは思えません。民主的手続きを経ずして誕生した現政権は、世論調査の結果をもって民意を反映していると演出したいのではないか、とする推測も成り立ちそうです。未だ発足したばかりの政権でもあり、国民の評価は今後の政策運営次第ということにもなるのでしょうが、真の国民世論とメディアの世論調査の結果は一致していないのではないか、と疑うのは、私のみなのでしょうか。


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