万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

デジタル庁はオンライン化で民主主義の進化を

2020年09月29日 14時07分27秒 | 日本政治

 今般、菅新政権が掲げる重要政策の一つとして、デジタル庁の設置があります。デジタル庁の主たる任務としては、マイナンバーカードの普及を介した政府と国民との間の直接的な関係の構築、官公庁における行政事務のデジタル化、並びに、民間企業のデジタル化促進などが挙げられております。しかしながら、新設される同庁の仕事がこれらに限られているとしますと、日本国の民主主義的な視点が抜け落ちているように思えるのです。

 

 実のところ、デジタル化は、民主的制度をより洗練された形に発展させる可能性をも秘めています。本人確認と秘密投票との両立が難しいという問題点はあるものの(今後のテクノロジーの開発に期待…)、選挙のオンライン化、オンライン国民投票、あるいは、オンライン・リコールも、安全性が確保され、かつ、不正防止が徹底されれば、将来的には導入が不可能なことではありません(デジタル通貨が可能であれば、民主制度のオンライン化も可能では…)。デジタル庁は、オンライン投票のシステム開発にも取り組むべきなのでしょうが、もう一つ上げられるのが、‘オンライン国民発案’といった国民から政治への新たなルートの開発です。

 

今日の政界は、献金企業、地元の後援会、支援団体、あるいは、宗教団体といった特定の組織による陳情や立法要請には耳を傾けますし、利益団体によるロビイングの影響も受けますが、国民一般の声を聴こうとはしないのです。選挙が終われば、公約違反のみならず、政府は、白紙委任を受けたかの如くに国民的なコンセンサスもないままに、公約には掲げていない政策を平然と遂行してしまいます。その一方で、国民の大多数が望んでいるような法案については、無視を決め込むのです。こうした事態が起きてしまう原因は、発案権を国会、並びに、政府が独占している現行制度上の不備にあり、民主主義を進化、あるいは、深化させるには、発案の段階に国民が参加し得るよう、国民から政治への流れを制度として造らなければならないのです。

 

 民主的制度の一つである国民発案は、海外では国政レベルでの導入が普及している一方で、日本国では、地方自治体レベルにおいては既に導入されているのみです。国民発案とは、立法過程に国民が参加する制度であり、一定数以上の住民の署名など、法で定められた要件を満たせば、国民が、法案の発案権を行使することができます。国民発案とは、英語では、イニシャチブ(initiative)と表記されるように、国民が立法に際して主導権を握ることなのです。もっとも、自筆であるために署名のチャンスは全ての住民に保障されているわけではなく、現行の自治体レベルの制度でも、必ずしも使い勝手が良いわけではないのです。

 

そこで、組織的な署名活動を要さなくとも、オンライン国民発案が可能となれば、全ての国民が他の国民に対して自ら案を提案したり、賛意を示すことができるのですから、政治と国民の距離が格段に縮まるとともに、双方向性が高まります。つまり、国家の統治機関の一つとしてデジタル国民発案を担当する独立的な機関を新設し、国民からの様々な提案を公開すると共に、一定数のデジタル署名が集まった案については、同機関に対して国会に提出する権限を与えるのです(あるいは、国家の運命を決めたり、国民全員に関わる重大な事案については、デジタル国民投票によって可否を決定する方法もある…)。

 

デジタル庁の設置は、菅新政権の看板政策ともされていますが、政府が国民を管理するツールとしての側面が強く、トップ・ダウン方式による上からの改革のように見えます(中国がモデル?)。デジタル技術、あるいは、ITとは、民主主義の進化をも促進させる可能性を秘めているのですから、デジタル庁は、新たな民主的制度の考案や開発をも担うべきなのではないでしょうか(憲法改正案となる可能性も…)。上記のデジタル国民発案もアイディアの一つに過ぎず、これまでに存在していなかったような様々な制度もデジタル技術を用いれば実現するかもしれません。デジタル化の遅れが指摘されておりますが、日本国は、民主的制度におけるデジタル技術の活用、並びに、イノベーションにおいて時代の最先端を行くべきではないかと思うのです。

 

コメント (2)
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