万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国の「海外重要人物データベース」は何を意味するのか?

2020年09月18日 11時45分28秒 | 国際政治

 オーストラリアのメディアによりますと、中国の国有企業傘下にある「中国振華電子集団」グループが、240万人にも及ぶ海外要人の個人情報を収集していた実態が明らかとなったそうです。このリーク情報、一体、何を意味するのでしょうか。

 

 中国企業が保有する「海外重要人物データベース」の存在は、内部関係者から提供を受けたことから、オーストラリア側が知るところとなったそうです。入手された同データベースは、同国や欧米のサイバーセキュリティー企業、報道機関、並びに学者等によって分析され、政治家や外交官、企業経営者などの個人情報が含まれていることが判明しています。「中国振華電子集団」の主たる取引先は、中国共産党、並びに、人民解放軍であるためか、米海軍の幹部やミサイル専門家に関する情報も含まれていたそうです。中には英王室のメンバーの名もあり、主たるターゲットは、ファイブ・アイズの構成国であったのかもしれません。

 

 収集されていた情報の大半は、生年月日、ニュース記事、SNSのアカウントといった公開されている情報であったものの、中には、金融取引の記録や就職時の履歴書など非合法に収集された情報も含まれているそうです。また、汚職などの犯罪歴もあることから、同データベースを作成した中国の目的は、脅迫の対象を探すためではないかとする憶測も呼んでいます。何れにしましても、中国が、積極的に海外要人の個人情報を収集してきた実態が明らかにされたのです。

 

 もっとも、今日の国際情勢に鑑みますと、ファイブ・アイズをはじめ各国とも海外の要人については相当量の情報を収集しているものと推測されます。この点からしますと、中国ばかりを特別視する必要はないのでしょうが、何故、米中対立が激化する今、この時に、同データベースの存在が明るみされたのか、という問題を考えてみることには価値があるように思えます。

 

 第一の推測は、中国側は、敢えて同データベースの情報を自由主義国側に自発的に渡した、というものです。上述したように、情報自体は公開されているものが大半を占めますので、情報価値としてはそれ程には高くはありません。機密性が低い情報であるからこそ、‘メッセージ’として利用した可能性がないわけではないのです。それでは、どのような‘メッセージ’なのかと申しますと、中国は、同データベースに掲載されている内容を遥かに上回る詳細な個人情報を既に手中にしている、というものです。しばしばメディアがスキャンダルとして報じておりますように、中国は、賄賂やハニートラップなど海外要人を標的とした様々な工作を仕掛けてきました。中国政府当局による篭絡工作に関する情報は、同データベースにはあるはずもなく、脅迫に使用できる情報は、自由主義国には提供せずに国家中枢の奥深くに仕舞ってあると推測されるのです。つまり、中国の罠に落ちてしまった海外要人に対して、中国のために行動するように暗に圧力をかけているとも推測されるのです(反中の行動をとれば、秘密を暴露するぞ?)。

 

 第二の推測は、中国との間で緊張を高めているオーストラリア、あるいは、ファイブ・アイズによる自由主義諸国に対する対中警戒の喚起です。オーストラリアと中国との対立が激化した理由は、後者による‘静かなる侵略’が前者によって明確に認識されるに至ったからです。もちろん、中国よる対豪攻略作戦の最中にあって、個人情報の暴露を取引材料とした脅迫が行われていたことでしょう。脅迫に屈し、心ならずも中国に協力した‘海外重要人物’も少なくなかったはずなのです。自由主義陣営としては、中国に秘密を握られている人物を放置しておくことは、内部に‘敵’を抱え込むようなものですので、各国政府に対して暗に対処を求めているのかもしれないのです(「海外重要人物データベース」にリストアップされている人々が、既に親中派の人々であるのか、それとも、中国側にとって今後利用価値があると見なされている人々であるのか、その確認は重要)。

 

 そして、日本国に関連して気になるのは、他の諸国には見られない特色がある点です。それは、安倍首相を含む558人の政治家や財界人らが「重要公人」としてリストアップされている一方で、‘逮捕された暴力団組員ら358人もリスト化’されているというのです。政界や財界に親中ネットワークが既に形成されているとしますと、国家を危うくする一大事なのですが、中国が日本国内の暴力団員を‘海外重要人物’として扱っていることも、危険な兆候とも言えましょう。何故ならば、リストに掲載された暴力団員は、中国の‘手下’として活動する可能性が高くなるからです。入国規制に関わるブラックリストであれば別に作成しているでしょうから、中国が、日本国の暴力団員に利用価値を見出している証なのかもしれません(全体主義体制を日本国民に押し付けるための‘暴力装置’として利用?)。

 

 何れにいたしましても、日本国政府、メディア、そして、官民の研究機関等も(もっとも、政界には既に親中派が巣食っているような・・・)、暴露に至った経緯を含めて、中国の‘海外重要人物データベース’について、徹底的に調査を実施するべきではないでしょうか。もしかしますと、思わぬところから国際情勢を読み解く鍵が見つかるかもしれませんし、また、日本国にも忍び寄る‘静かなる侵略’の実態を知る貴重な情報となるかもしれないのですから。


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