万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

衆議院解散が注目される理由とは-国民の潜在的首相公選要求では?

2020年09月09日 11時26分10秒 | 日本政治

 昨日、自民党の総裁選挙が告示され、三人の候補者が政策方針を表明したもの、次期政権に対しては、期待よりも不安を覚える国民の方が多いのではないでしょうか。マスコミでも、既に‘菅政権発足’を織り込む済みのようなのですが、ここに来て、衆議院の解散問題が報じられています。

 

 首相による議会の解散権とは、その起源は、三部会といった議会の招集や解散に関する権限を君主が有していた中世ヨーロッパに求めることができるのですが、民主主義が定着した今日では、通常、議院内閣制にあって、政府と議会とが対立し、両者の間で政策方針が分かれる場合に使用されます(もっとも、日本国憲法上の規定はいささか曖昧…)。例えば、議会が内閣不信任決議案を可決した場合や、政府提出の法案が議会で否決された場合などです(郵政解散…)。 ‘伝家の宝刀’とも称されるように、首相の解散権は、国政における重大事が争点になる場合に限られており、軽々しくは抜くことができない刀、即ち、最後の手段なのです。

 

そして、首相の解散権とは、今日では、民主主義を具体化する制度でもあります。何故ならば、解散に際して首相が、常々、‘国民に信を問う’と口にするように、首相が最終的な判断を国民に委ねる形で行使されるからです。つまり、この場合、総選挙とは、国民が政府の政策を支持するのか、あるいは、反対しているのかを、国民が間接的ながらも表明する場となるからです。日本国では、国民投票制度は導入されておりませんが、解散総選挙とは、同制度のない日本国にあって国民が自らの政治的選択を表明し、参政権を行使し得る数少ないチャンスとも言えましょう。

 

それでは、現在、何故、議会の解散が取り沙汰されているのでしょうか。政府と議会との間で、少なくとも政策をめぐる決定的な対立は見られず、従来型の解散とはならないはずです。そこで、その理由については、首相、政党、そして、国民の三つのレベルから観察してみる必要がありそうです。

 

最初に首相レベルを見ますと、菅官房長官、並びに、同氏を支える勢力が、解散総選挙を回避したい意向にあることは言うまでもありません。実際に、同官房長官は、出演したテレビ番組において早々に「こういう状況では解散とか、そういうことではない」の述べたと報じられています。また、同氏に対する支持をいち早く表明した二階幹事長も、自民党の党本部での記者団を前にして「今早急に問う課題があるわけではない。慌てる必要はない」と述べて、早期衆院解散については否定的な見解を示しています。そして、公明党の山口幹事長も同様の方針を示していますので、親中派勢力は、早期解散否定で足並みを揃えているのです。

 

仮に、中国が背後にあって日本国における親中政権の成立を後押しさせたとしますと、同政権を可能な限り長期化させるよう画策することでしょう(2021年10月の衆議院議員任期満了後の長期化も視野に入れているかもしれない…)。中国は、日本国との間の安定した関係を望んでいるとされ、‘菅政権’の長期化は中国の利益や希望に叶っているのです。

 

その一方で、政党レベルでは、全ての政党が必ずしも早期解散に消極的なわけではないはずです。幹部の意向は別として、とりわけ自民党にとりましては、早期解散の方が有利ではないかとする指摘も見受けられます。その理由は、野党側の体制が整っていない今の時期であるならば、与党側が勝利する確率が高くなるからです。時間の経過とともに形成が野党に有利に傾くならば、早期解散は、与党にとりましては望ましい選択となりましょう(但し、この問題は、現在進行中の野党政党の合流による野党第一党の代表が、誰になるのかによっても左右されるかもしれない…)。

 

それでは、国民レベルではどうでしょうか。実のところ、上述しましたように、首相による議会の解散は、国民が自らの政治的選択を表明し得る貴重な機会です。二階幹事長は、‘早急に問う課題はない’と述べておりますが、国民は、目下、重大な課題に直面しております。そして、それこそ、‘首相の正当性’なのではないかと思うのです。政界における派閥力学や海外勢力を含む背後関係によって密室で首相が決定される事態は、それが手続きにおいては合法的であったとしても、民主主義の原則には反しています。つまり、次期首相は、国民からの承認を得ていないことを意味しており、その正当性において疑義が生じているのです。

 

この観点からしますと、早期解散論は、首相公選制、あるいは、大統領制への移行に向けた国民の潜在的な意識の現れであるのかもしれません(不自然感がない…)。日本国民の多くが、党の総裁、否、日本国の首相の選出に際して民意が蚊帳の外に置かれてしまう現状に満足しているはずもないのですから。そして、民主主義の原則に照らし、首相の途中交代や就任プロセスにおいて、最低限、国民の承認を得る必要があるとしますと、この意味において、早期解散は、民主的な承認システムとして機能する可能性があるのではないかと思うのです。


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