万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

現代に蘇るチンギス・ハーンの恐怖

2020年12月29日 11時58分54秒 | 国際政治

 本日のネット上のニュースで目を引いたのは、‘バラク・オバマ「私はドナルド・トランプよりチンギス・ハーンに敬意を抱いている」’というタイトルの記事です。何故ならば、中国の軍事大国としての台頭、並びに、グローバル金融財閥組織の暗躍を前にして、現代という時代にあって‘チンギス・ハーン’が蘇る兆候が散見されるからです。

 

 同記事は、日本国内ではCourrier Japonが報じていますが、元となる記事はアメリカの「アトランティック」誌がインタヴュー記事として掲載したもののようです。何れにしましても、オバマ氏の世界観や価値観が語られているのですが、同氏がチンギス・ハーンに敬意を抱いているとしますと、それは、先述した‘モンゴル帝国復活’の兆しを裏付けるように感じたからです。

 

 同記事の冒頭には、「与えられた選択肢は二つでした。『いま門を開くなら、男たちはすぐに殺すが、女子供の命は助けてやる。ただし女は連れ去り、子供は奴隷にする。一方、抵抗するなら、お前たちは油でじっくり釜茹でにされ、皮を剥がされることになる』」という、チンギス・カーンの戦法を紹介しています。征服の対象とした諸国に対して選択の自由を認めてはいても、どちらを選択しても最悪という、最も残酷極まりない戦法です。男性はどちらを選択しても命を奪われますし、女性や子供も、命はあっても奴隷としての一生が待っています。元寇に関しては、日本国内では、平和的な通商を求めてきた元からの使者を問答無用で切った‘時の鎌倉幕府の対応が悪い’とする説もありますが、モンゴル式の二者択一の手法を見る限り、たとえモンゴルの要求に応じたとしても、やがては日本国もモンゴルの支配下に置かれたことでしょう。こうした相手に選ばせて残虐行為の口実を得る二者択一の悪しき手法、日本国の与野党の選択のように、今日においてもしばしば散見されます。

 

もっとも、オバマ氏は、モンゴルの手法自体は残虐で非人道的と見なしているようですが、一般的な感覚からすれば、この言葉を聞いただけで、チンギス・ハーンという人物に嫌悪感を抱くことでしょう。それでもなおも同氏がチンギス・ハーンに敬意を抱くのは、モンゴル帝国が、人種、民族、宗教を包摂した大帝国であった点にあるようです。しかしながら、この点に関しましても、同氏の認識には全く以って賛同しかねます。そもそも武力を以って異民族を征服する限り多民族国家とならざるを得ないのは当然のことですし、モンゴル帝国では、必ずしも全ての人々が平等ではありませんでした。厳格な位階秩序が設けられており、最上位に極少数のモンゴル人が君臨する一方で、その下にユダヤ人やイスラム教徒といった色目人が、そして最下層には南宋の漢人たちが置かれたのです。差別が制度化されていたモンゴル帝国の真実に目を向けますと、オバマ氏は、アメリカにおける黒人差別を批判できなくなりましょう。

 

あるいは、オバマ氏がネット上でも指摘されているように、世界支配を目論む闇組織の一員であるならば、モンゴル帝国の実態を知りながらそれを理想と見なしているのかもしれません。何故ならば、少人数ながら最上位にあって世界を支配するのは中国共産党幹部を含む同組織のメンバーであり、色目人に当たるのがグローバル企業のCEO等の経済産業人であり(ユダヤ系が多数…)、その他の諸民族の人々はまとめて最下層ということになるからです。そして、チンギス・ハーンが、ユダヤ商人やイスラム商人の手を借りてアフリカの黒人ではなく征服地の白人住民を奴隷として売り払ったことも、オバマ氏がチンギス・ハーンを評価する理由なのかもしれません(今日のBLM運動の目的は、オバマ政権が行った極端な黒人優遇策によって高まった白人層側の黒人側に対する抵抗・反発を抑え込むことにあるのでは?)。因みに、ロシアでは、歴史的にユダヤ人は差別されてきたものの、レーニンがモンゴル人の血を引いていたように、モンゴル人は、征服者としてロシア社会の上層部を形成してきました。

 

にもかかわらず、昨今、オバマ氏のみならず、チンギス・ハーンを世界帝国を建設した偉大なる英雄、「蒼き狼」として礼賛する向きもないわけではありません。しかしながら、この高評価は、国際法を一顧だにせず、一方的領土拡張を許すような前近代的思想の持主に限定されたものであり、今日では、チンギス・ハーンは、モンゴルや帝国礼賛者以外の人々にとりましては、世界史上最大の大虐殺を伴う征服を実行した侵略者以外の何者でもありません。今日、このような極悪・残忍なチンギス・ハーンを評価する人々が存在していること自体が驚きなのですが、どのような意味にではあれ、オバマ前大統領がチンギス・ハーンに敬意を払っているとしますと、それは、今日という時代にはそぐわないと言えましょう。そして、‘目的のためには手段を択ばず’にも通じるような同氏の危うい独善的な世界観、政治手法にこそ、中国共産党政権の侵略的体質、そして、米民主党の不正行為の根底に潜んでいるのではないかと思うのです。


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