万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国の国防法改正は国際法違反

2020年12月27日 13時03分26秒 | 国際政治

 中国は、今般、11年ぶりに国防法を改正し、2021年1月1日から施行するそうです。既に習近平国家主席による署名も全国人民代表会議における可決承認の手続きも済ませており、そのスピード感には驚かされます。そして、同法の改正において何よりも驚愕させられるのは、そのあまりにも酷過ぎる内容です。

 

 同法の改正にあって特に注目すべきは、‘発展的利益’という表現の出現です。これまで同国が人民解放軍の軍事行動の対象としてきたのは主として国家主権、並びに、領域でした。しばしば‘核心的利益’という言葉も用いられては来ましたが、その言葉が曖昧な故に、明確に侵略を意味すると断定するには至っていなかったのです。しかしながら、今般の改正案には、従来にはない‘発展的利益’という言葉の使用によって、同国の侵略性が明示されています。‘発展’という言葉には、拡張主義的な意味合いが含まれているからです。

 

 軍事的な領域において‘発展的利益’という表現が使われた場合、それは、文字通り、他国に対する侵略を意味してしまいます。習主席が掲げる‘中国の夢’が、前近代における華夷秩序の復活であり、中国を中心とした広域的な‘大中華帝国’の建設、即ち、世界支配であるならば、この目的を達成するためには軍事力の行使も厭わないと宣言しているに等しいのです。

 

一方、国連憲章第51条にあって加盟国に対して軍事力の行使を認めているのは、個別的であれ、集団的であれ、自衛権のみです。他国の攻撃から国家主権、領域、並びに、国民を護るための正当防衛権としての軍事力の発動は許されますが、‘発展的利益’という名の拡張主義的行動のために武力を行使することは、国際法上の違法行為なのです。平然と国内法に侵略容認の法文を書き込む中国の行為は、それが具体的な侵略行為を伴わない段階であるとはいえ、国際社会にあって決して看過できない蛮行とも言えましょう。すなわち、常任理事国でありながら、国連憲章に違反しているのです。

 

しかも、中国は、同法が定める‘発展的利益条項’を、軍事面のみならず、政治や経済を含むあらゆる分野に対しても適用しようとすることでしょう。例えば、中国の経済発展を阻害するような他国のあらゆる行為に対しても、国内法に依拠して軍事力が行使されることとなります。今般の改正が、対中経済制裁を科しているアメリカを牽制する狙いがあるとする説明も、こうした事態を想定してのことなのでしょう。つまり、同法の改正により、中国は、アメリカの対中制裁措置を解除するように迫っているとも解されるのです。このことは、同法の改正により、米中開戦の可能性が格段に高まったことを意味します。アメリカが、対中政策を撤回しない場合、中国が、同法に基づいて一方的に戦争を仕掛けるかもしれないのですから。少なくとも、その方向への布石が打たれたとは言えましょう。

 

日本国もまた、同法が定めた‘発展的利益’がもたらす脅威から逃れることは困難です。例えば、一帯一路構想への日本国の不参加が‘発展的利益’を害したと中国によって主観的に判断された場合、人民解放軍による軍事行動の対象ともなりかねません。あるいは、民間レベルにあっても、日本企業が中国市場からの撤退を試みようとした場合、中国の経済発展を損ねるとして、人民解放軍が日本企業の製造拠点といった現地資産を差し置さえたり、有無も言わさずに接収しようとする事態も想定されます。武力による威嚇は、国際法上の違法行為であるにもかかわらず、国際法秩序から事実上、‘脱退’した中国は、暴力によって他国を公然と支配しようとするかもしれないのです。

 

日本国の菅政権は、海外からの渡航禁止措置について、中国と韓国からのビジネス客だけは除外する方針とも報じられております。昨今、二階幹事長や公明党をバックとする菅政権の親中姿勢からしますと、日本国の行く先が案じられます。日本国を含む国際社会は、先ずもって国際法違反を構成する‘発展的利益条項’の削除を求めるべきですし、中国が振りかざしている暴力主義には断固として屈しない姿勢を示すことこそ重要です。そして、国際社会が知恵を絞り、賢明なる方法に以って中国の軍事力を削ぐべきなのではないでしょうか。むしろ、アメリカのみならず中国以外の全ての国家が協力し、中国との関係を断絶した方が、余程、人類が希求する平和的な解決となるのではないかと思うのです。


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