万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘世界計画’に従う菅政権の‘実行計画’

2020年12月02日 11時27分46秒 | 日本政治

 昨日、菅政権としては初めての成長戦略計画を纏めたそうです。グローバリズム、並びに、新自由主義的な色合いが強く、いかにもダボス会議等で示された国際組織の意向を反映した内容となっています。今般、新政権の発足を受けて新たに策定したというよりも、既に世界レベルで作成されている‘世界計画’にあって、日本国に実行が義務付けられている作業、即ち、義務的な「実行計画」なのかもしれません。しかしながら、国際組織が目指すシステムとは、その本質において共産主義的、あるいは、全体主義的な‘計画経済’ですので、現実や人間性から乖離し、どこかで歯車が狂ってくるように思えます。

 

 例えば、エネルギー政策の分野をみれば、日本国は、‘世界計画’の指針に従って2050年までに脱炭素社会を実現しなければならなくなります。国際組織にとりましては、地球温暖化の原因の科学的な探求など関係なく(科学的には二酸化炭素の排出が原因でなくても構わない…)、再生エネ産業に資金が集まり、自らの利益が上がればそれでよいのです。否、利益さえも度外視し、将来にあってSF的、否、原始的な世界支配体制が実現すればそれで満足するのかもしれません。

 

脱炭素化の目的を達成するための方策として、今般の会議では、水素エネルギーや蓄電技術等の開発に向けた投資の拡大や基金の設立に加え、再生エネ拡大を目的とした風力発電の大規模な導入が打ち出されています。2040年までに大型火力発電所30基分、即ち、3000万キロワットの電力を洋上風力発電で賄おうとする計画です。これを実現しようとすれば、当然に、設置海域をめぐり漁業権との衝突が起き、地元住民による反対運動も予測されるのですが、こうした利害調整の問題に加えて、インフラ敷設型の成長戦略には、公共事業に共通する問題もあります。

 

それは、経済波及効果が、設備の工期に限定的に集中し、永続的には経済成長に貢献しない点です。発電施設といったインフラは、長期的な使用を想定していますので、一旦、稼働を開始しますと、その後の収益源は、建設済みの施設のメンテナンスに限られることとなるからです。しかも、仮に、水素エネルギーの普及並びに温暖化ガスの処理技術の確立と洋上風力発電施設の建設を同時進行させとしますと、最悪の場合には、前者が完成した時点で、後者は無用の長物と化す可能性もあります。水素エネルギーの方が、遥かに安価に供給できますし、火力発電によって排出された二酸化炭素が無害化されれば、敢えて、割高な風力電力を使用する必要性がなくなるからです。

 

また、グローバルな時代にあっては規模が優位性を与えますので、洋上風力発電に日本経済を牽引する役割を期待してもそれは望み薄です。現実を見ますと、洋上風力発電機メーカーのランキング上位は、欧州市場を背景としたスペインやデンマーク、中国、並びにアメリカ等で占められています。2019年のランキングをみますと、1位はスペインのシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジー(39.8%)、2位はデンマークのMHIヴェスタス(15.7%)、3位は中国のSewind(10.0%)4位も中国の遠景能源(9.5%)、そして5位もまた中国の金風科技(9.4%)となり、日本企業の社名は見えません。とりわけ中国企業の成長著しく、3位から5位までは中国企業で占められており、同国企業の国際競争力の強さが伺われます。

 

日本国の電力事業者による海外メーカーへの発電施設の発注のみならず、電力自由化に際し、日本国政府は、既に、海外事業者に対して電力供給事業への参入も許していますので、今後、海外事業者のシェアも拡大することでしょう(再生エネ事業にアマゾン参入との情報も…)。そして、建設現場にあっても、こうした外国企業が、今般、資格を拡大した外国人労働者を雇用するとなりますと、脱炭素社会とは、一体、誰のための目的なのか、全く以って疑わしくなるのです。再生エネへの転換により日本国のエネルギー自給率が上昇し、最早、海外の化石燃料の輸入に依存しなくても済むようになるとする歓迎論もありますが、現実は、別の形での海外依存、あるいは、中国を筆頭とした海外勢力によるエネルギー支配体制が出現しかねないのです。

 

グローバル化を推進している菅政権が、日本市場に海外企業に対する参入規制を設け、自国企業を優遇・育成するとも思えず、結局は、日本のエネルギー市場の開放を意味するに過ぎないかもしれません(日本政府が自国企業に対して政府補助を与えると、WTO等に訴えられるかもしれない…)。そして、その過程で、日本企業は国際競争に敗れ、淘汰されるかもしれないのです(あたかも‘托卵’のよう…)。菅首相は、地球温暖化対策は「コストではなく競争力の源泉」と述べておりますが、競争条件において初めから不利な立場に置かれている日本企業が、上述したグローバル市場の‘巨人達’との競争に打ち勝つことはできるのでしょうか。政府は、自らの‘計画’を‘理想郷’として語ってはいても、その実現に伴って生じる現実的な問題点については議論しようともしておりませんし、不安や疑問に対しても、国民が納得するような説明はしておりません。このように考えますと、菅首相による‘カーボンニュートラル宣言’が海外(特定の国際勢力…)からは歓迎される理由も、自ずと理解されるのです。


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