万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

地球温暖化問題は中国の‘戦略物資作戦’の一環では?

2020年12月21日 12時32分19秒 | 国際政治

地球温暖化問題については、欧州諸国をはじめとして大胆な目標設定が続いています。日本国でも菅首相が突然に「50年実質ゼロ」目標を掲げ、各省庁とも同目標を実現すべく様々な対策を打ち出しています。二酸化炭素犯人説そのものが怪しいため、わき目も降らずに行き急ぐ様はあたかも狂信者のようにも見えてくるのですが、世界的潮流ともなっているゼロの目標設定を冷静に観察しますと、この流れ、中国の‘戦略物資作戦’の一環である可能性も否定できないように思えます。

 

 かつて、鄧小平氏は、「中東に石油があれば中国にはレアアースあり 」と述べ、レアメタルの一大産出国である同国こそ、世界において優越的な地位を占めると言い放っていました。この予言をめぐっては、中国によるレアメタルの輸出規制措置が目論見通りには成果を挙げず、一時は‘外れた’と見なされたのですが、地球温暖化対策の加速化は、この戦略の復活を意味するかもしれません。何故ならば、ゼロ目標を達成するためにはより一層の技術開発が必要となり、中核的な技術の中には中国を生産国とする鉱物資源を要するケースも見られるからです。

 

 例えば、半導体の生産には、今日、一般的にはシリコンが使用されていますが、窒化ガリウムを用いる方法を採用すれば、電力消費量を半分ほどに減らせるそうです。シリコンは、地球の地殻を構成する物質の一つですので、どの国でも入手することができます。今日、中国がシリコンの最大生産国となっている理由は、埋蔵量が多いのではなく、生産に必要となる電力の料金が安価であるからです。一方、ガリウムの窒化物である窒化ガリウムを生産するには、その原料としてガリウムを要します。そして、ガリウムは、レアメタルの一種でないにせよ、埋蔵国に偏りがあるのです。化合物半導体メーカーで発生する工程スクラップを使用した再生地金ではない、新地金の主要な生産国は、中国、ドイツ、カザフスタン、ウクライナなどなそうです。

 

 それでは、ガリウムを取り巻く日本国の状況はどうなのかと申しますと、2012年といういささか古いデータなのですが、新地金の国内生産は凡そ6%に過ぎません(131トンの供給量の内6%…)。つまり、‘ゼロ目標’を追求した結果、半導体の生産に際して用いられる金属がシリコンから窒化ガリウムへと全面的に転換されるとしますと、中国が半導体生産において優位な立場を獲得すると共に、日本国にあっては半導体分野における中国依存が高まることが予測されます。

 

日本国政府は、省エネ化の切り札として窒化ガリウム方式の開発を支援するそうですが、仮に、同技術が、中国が‘産業のコメ’とも称されてきた半導体を押さえるきっかけともなれば、それは、経済や産業のみならず、安全保障を含めた全ての分野において中国の支配力が高まることを意味します(EUでもドイツ優位体制がさらに強化…)。米中対立が深まる今日、アメリカ政府による半導体の輸出規制を受けて中国は劣勢にありますが、窒化ガリウム方式が‘グローバル・スタンダード’ともなれば、中国側が攻勢に転じる展開も否定はできなくなります。

 

以上に、‘ゼロ目標’がもたらすチャイナ・リスクについて述べてきましたが、本記事は限られた情報から作成されていますので、誤認や早合点もあるかもしれません(もし、間違いがあれば、ごめんなさい…)。しかしながら、地球環境問題が戦略物資の問題である以上、日本国政府は、‘ゼロ目標’が広範囲に亘って及ぼすマイナス影響についても十分に検討すべきであり、特定の方向に誘導され、中国依存、あるいは、中華経済圏の支配下に置かれる未来が予測されるならば、ここで一旦立ち止まる必要があるのではないでしょうか。脱炭素社会とは‘入中国社会’かもしれないのですから。なお、同問題が存在しなくとも、省エネ技術の開発は奨励されるべきことですので、未来志向の技術開発を支援するに際しては、世界の潮流に抗してでも、日本国内で入手し得る鉱物資源を用いた真にイノベーティブな新技術の開発にこそ乗り出すべきとも言えましょう。地球環境問題により世界の戦略資源地図が大きく塗り替わり、その裏側には、中国等による巧妙な戦略物資作戦が潜んでいるかもしれず、‘ゼロ目標’に隠されている将来的なリスクを見逃してはならないと思うのです。


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